おしゃれ手紙

2003.08.06
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春や秋にも、いや冬でさえ川で洗濯をした。
しかし夏のそれは、他の季節とちがってなんだか心がおどったので、より印象深く、心に残っているのだろう。

風通しの良い橋の下にすわりこみ、女たちは、うわさ話に花を咲かせながら、手ごろな石を洗濯板代わりに、ゴシゴシと布をこすりつける。
快いひびきをたてる清流にひざまでつかりながら、パッっと布を広げてジャブジャブとすすぐあの爽快さ。
よごれていた衣類がみるまに清潔なものになっていく満足感は、何ものにもかえがたく、夏の洗濯は、女のレジャーだったのかもしれないと、このごろ思ったりする。

上(かみ)の方でも、遠慮がちにおしめなどを洗う若い母親がいたりすると私の母は、よくらいらくな調子で言った。
「遠慮せんでもええ『三尺流れて水清し』じゃあ」

今も私の近所の川には水が流れている。

畑で抜いてきた大根を洗う人も、汗にまみれた服を洗濯する人もいなくなった。
泳ぐこともできなくなった川のふちには、どこまでもサクがはりめぐらされている。

「三尺流れて水清し」にならなくなってしまった今、私には川の音は大切なものを失ったレクイエムのように聞こえるのである。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

**三尺流れて水清し**

かつての川は、土と草。汚れた水も、それらが、浄化作用をして、三尺(約10m)も流れると
清らかな、水になるという諺。

*新聞のコラムに投稿して、始めて載った文章(1984年)。今読むと、センテンスが長い。長すぎる。
 でも、思うことは変わらないなぁ。

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Last updated  2003.08.06 20:27:52
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