メキシカン・アメリカンな暮らし

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お姑ごんとALSという病気




ALSという病気は、私の伯母の舅が患っていた病気だったということもあり、ALSという病気に関しては、原因不明の不治の病であること、そして、筋肉が衰えていく病気であることという漠然とした知識は持っていたものの、実際には、どんな治療が必要なのか、また、介護はどのようにされるのかなどということは知らないことばかりであった。

日本ALS協会によると、ALS(筋萎縮性側索硬化症:きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)は、身体を動かすための神経系(運動ニューロン)が変性し、神経細胞あるいは神経細胞から出て来る神経線維が徐々に壊れ、その結果、神経の命令が徐々に伝わらなくなり、筋肉がだんだん縮み、力もなくなっていく症状のことだそうで、10万人に2~6人の割合で発症するという極めて稀な病気だそうだ。

ALSには、大きく分けて、手足から症状を発するタイプと口やあごから症状を発するタイプがあるようだが、私のお姑ごんの場合は後者の方で、初めは、噛む力、飲み込む力が弱まっていき、そして、足がもつれやすくなったり、手がしびれたりと、徐々に症状が手足にも影響を及ぼしていったのである。

嚥下障害に関しては、誤嚥によって飲食物が肺に入り肺炎を起こしてしまう可能性も考慮し、ネットでリサーチして見つけたNovartis社のResource ThickenUp Instant Food Thickenerという、飲み物やスープなどにとろみをつける缶入りパウダーや、同じメーカーの嚥下補助飲料Resource Thickenedシリーズの水や牛乳、ジュースなどを注文したのだが、お姑ごんも気に入って毎日利用していた。
(ちなみに、WalgreenやCVSなどの薬局でも購入することが出来ますが、ネスレニュートリションストアの公式サイトからも注文することが出来ます。http://www.nestlenutritionstore.com/dysphagia.asp)


また、下あごを閉める力もどんどん衰えていたので、お姑ごんは病院に定期的に通い、理学療法によって下あごを鍛えるトレーニングを行ったり、そのトレーニングを家でも行ったりなどと、これからも病気はどんどん進行し悪化していくだろうという中でも、まだ時間が許す限りは出来るだけ生活面でも不自由のないようにと頑張っていたのを覚えている。

そんなお姑ごんにも、やはり病魔は容赦せず、症状は目に見えるほどに悪化し、食事中に手に持ったスプーンを何度も落としたり、腕自体が思うように持ち上がらなかったり、また、たとえ口に食べ物を入れることに成功したとしてもうまく飲み込めずにむせてしまったりということも徐々に増えていった。
こうしてやがてお姑ごんにとって、食事の時間は辛い時間と変わっていき、ただ胃に食べ物を入れるだけのものとなっていったのである。

私たちが普段何気なく行っている「食べる」という行為がどれだけ複雑なことなのかということを、お姑ごんを見ていて改めて学ぶことになったのだが、食べるという行為は、まずスプーンやフォークをつかみ持ち支える力・持ち続ける力、スプーンやフォークでつかんだ物を落とさずにうまく口に運ぶ力、皿から口まで手と腕を移動させる力、口を開く力、開いた口に絶妙なタイミングで食べ物を運び入れる力・食べ物を受け入れる力、そして、口を閉めて食べ物を噛んで飲み込む力など、こうしてここに挙げている力のほかにもきっと必要な力はあると思うが、とにかくこれだけ色々な力の統合とタイミングが必要で、お姑ごんは、食べたいと思う自分の心と裏腹に体がその欲求についていけないもどかしさと辛さにとてつもなく苦しんだ。

やがてお姑ごんの口は、顎の筋力が衰えたため常に開いている状態となり、よだれが口の角からいつも垂れるようになった。
そのため、お姑ごんはいつもハンカチを手に持ち、垂れ続けるよだれを誰にも見せまいと拭き続けたものだが、それでも時折、腕がうまく動かず、ハンカチの端をよぎったよだれがお姑ごん自身の腕や服に落ちることもあった。
でもそれ以外は、いつものお姑ごんだったので、私は、天下無敵のお姑ごんならもしかしたらこのまま大丈夫なのかもしれないと思ったほど、、、。
嚥下補助飲料を定期的に郵送することを約束し、お姑ごんのもとを去ったのだが、ほんの数ヵ月後に会いに行った時のお姑ごんの変わりように驚くことになろうとはこの時は思ってもいなかったのである。







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