読書の部屋からこんにちは!

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2007.02.27
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カテゴリ: 小説


第2次世界大戦中のドイツ。
私生児をみごもったマルガレーテは、ナチスの施設の産院に収容される。
そこで人道を無視した研究に没頭している狂気のドクター、クラウスと結婚してから、彼女は地獄を見ることに。
正気を失ったマルガレータと、恋人ギュンター、
息子のミヒャエルと、義理の息子であるフランクとエーリヒ。クラウスの実の息子ゲルト。
終章近くでは、なじみにくいドイツ人の名前や地名が入り組みすぎて、
あの人だと思ってたのは本当はこの人だった・・とかが多すぎて、

ほんとうにおもしろく、歯磨きする時間も惜しんで読みふけりました。


読み始めてすぐから、私はなんとなく奇妙な違和感を感じました。
それは、まるで翻訳ものを読んでいるような感じ。
舞台もドイツだし、登場人物もドイツ人やポーランド人ばかりのせいなのか、
なんとなく日本人が書いたものではないような気がします。
おかしいなあ・・・と、何度も表紙を確認しました。
でもやっぱり、皆川博子の名前しかありません。
読み進むうちに、あまりのおもしろさに違和感があることも忘れていきました。


終わった後の「あとがきにかえて」というところを見ると、野上晶という名前で
「本書は、ギュンター・フォン・フュルステンベルクの長編Die spiralige Burgruineの全訳である。(中略)私が原書を入手したのは、以下のような事情による。」
と、あるではありませんか。

あら!やっぱり翻訳ものだったのか!
じゃ、なぜ訳者の名前が表紙にないんだろう。
ただ単に皆川博子と書いてあるだけなんて、いったいどういうこと?
その次のページには、ご丁寧にも奥付があり、
著者:ギュンター・フォン・フュルステンベルク



その次のページには「あとがき」があって、これは皆川博子さんの名前で、普通のあとがきらしいものが書かれていました。
取材に際しての協力者たちに、ていねいなお礼の言葉が述べられていましたが、
その中には野上晶の名前はありませんでした。


何がなんだか訳がわからない私でしたが、ここまで読んで、やっと気づいたのです。
この長い長い小説が、ドイツ人の原著を日本人野上氏による翻訳したものであるということまで、奥付まですべてすべて含めて、皆川博子さんの創作であったんだってことに。
とすると、私が最初に感じていた違和感も、皆川さんは計算し尽くした上で書いていたんでしょうか。
そうだとしたら、たいへんな力量ですねえ。
それとも、彼女の作戦にまんまと引っかかった私が、単純すぎるのかな?


それはともかく、この重く苦しく不気味でありながら、甘く美しい悲劇の世界。
他の本では一度も味わったことのない、生まれて初めての芸術的耽美的小説を味わうことができてほんとうに良かったと、心から思える本でした。
皆川博子さんの他の本を、もっと読みたいかと聞かれたら、
う~ん、それはちょっとしんどいかも・・・





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Last updated  2007.02.27 11:17:28
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