読書の部屋からこんにちは!

読書の部屋からこんにちは!

2008.01.02
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カテゴリ: 小説
宮本輝は、私の好きな作家の一人です。
多分、好きな作家を10人あげたら、かなり上位に入ってくると思います。

が、私はその作品の中に、ちょっと相容れないものを感じることがあります。
簡単に言っちゃうと、登場人物が美しすぎてついていけない・・・という感じ。
普通かそれ以上の容貌を持ち、知性、理性を備え、やりがいのある仕事をして、普通以上の収入を得ている。一般的にそんなのあり得ないというくらい恵まれている人たち。そういう人が、そういう人ばっかりに囲まれて生きている。
小説としてはおもしろいし、熱中して読むんだけど、読み終わった後どうしても嘘っぽいなあという感じがぬぐえないのです。

宮本輝の小説が全部そうだというわけではありません。
でも、今まで読んだ中にそう感じた本が、何冊かありました。
そして、この本「約束の冬」もそうでした。

主人公の留美子が道で高校生からラブレターをもらう冒頭のシーンは、その後何かが起こりそうな予感がして、ちょっとした不気味さとともに、期待でいっぱいになりましたが、その10年後のストーリーが始まってからは、登場人物のほとんどが、見事ですがすがしくて賢い人ばかりです。
私がこの小説を嫌いなわけではないんです。とてもおもしろかったんです。
が、不満な気持ちがどこかにあるんですよね。


ただ、この本の中に胸を打たれたところがひとつありました。
留美子と友人の小巻が小樽の海で泳ぐところです。
中学生の頃から癌にかかり、死と闘ってきた小巻に、荒れた海の底から
「お前には、なんにも怖いものはないんだよっていう、やさしい言葉が聞こえたの。」
「聞こえた?小巻ちゃんの耳に?」
「うん。心配しなくていいよって・・・」
「海が?」
「うん。」

「2度目の手術をして退院して、ずうっときつい薬を飲んでたころ(略)」
死に至る確立の極めて高い難病と直面した小巻の闘い。それは余人には計り知れない思考の時間をも同時に小巻にもたらしたことであろう。そのような渦中で、小巻は確かに聞いたのだ。誰が何と言おうが、小巻の耳には聞こえたのだ。それを信じずして何を信じるというのか・・・。

留美子は小巻の長生きのために一つの約束をします。
それは、この世でいちばん美しい約束でした。
その他にも、この本にはいろいろな約束がでてきます。そして、冒頭のラブレターの約束は、・・・・それは読んでのお楽しみです。






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Last updated  2008.02.02 23:09:59
コメント(12) | コメントを書く


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Re:「冬の約束」 宮本輝(01/02)  
読子  さん
おめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

宮本輝の小説は限りなく人間に優しい視線なので、きれいごとすぎる場面もあるけど、性善説を喚起されるのか何だか、くせになりますね。(しばらく嵌った・・)
生きる希望をくれる面もあるよね^^ (2008.01.02 12:47:36)

Re:「冬の約束」 宮本輝(01/02)  
ばあチャル  さん
本年もどうぞよろしくお願いします。

宮本輝で読んだのは唯一「青が散る」。なのできれいすぎる世界という感じがとても参考になりました(笑)「錦繍」と「ドナウの旅人」が買ってあるんですよ。
(2008.01.02 14:48:40)

Re:「冬の約束」 宮本輝(01/02)  
季節の花束  さん
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

宮本輝さんの本はまだ読んだ事がありません。
小説に出て来る主人公というのは、生きる為の条件が揃いすぎてる人が多いような気がします。
嘘っぽいから、その世界に引き込まれて読んでしまうのかもしれないと思う事があります。

(2008.01.02 20:38:04)

Re[1]:「冬の約束」 宮本輝(01/02)  
ぱぐら2  さん
読子さん
こちらこそ、今年もよろしくお願いします。

>宮本輝の小説は限りなく人間に優しい視線なので、きれいごとすぎる場面もあるけど、性善説を喚起されるのか何だか、くせになりますね

そうなんです。読み終わって現実に目を向けたら、やっぱり違うよな・・・って思ってしまいます。
でも、そこに惹かれてまた読んでしまう。おもしろくなかったことは、一度もありませんね。 (2008.01.03 07:14:03)

Re[1]:「冬の約束」 宮本輝(01/02)  
ぱぐら2  さん
ばあチャルさん
こちらこそ、本年もどうぞよろしくお願いします。

>「錦繍」と「ドナウの旅人」が買ってあるんですよ。

どちらも読み応えありました。そして、きれいです。突然の悲しみすらきれいです。
読まれたら、感想をお聞かせくださいね。 (2008.01.03 07:16:46)

Re[1]:「冬の約束」 宮本輝(01/02)  
ぱぐら2  さん
季節の花束さん
こちらこそ、今年もよろしくお願いします。

>宮本輝さんの本はまだ読んだ事がありません。

宮本輝さんの本は、心の負担になったり、重苦しさが残ったりすることはありません。きれいな人々の中にうずもれるのも、一種の快感かも・・・
一度読んでみてね。 (2008.01.03 07:19:30)

Re:「冬の約束」 宮本輝(01/02)  
きたあかり  さん
こんにちはぁ~♪

私も宮本作品は初期のビンボー臭いのが好きです。
なかでも『錦繍』はピカイチです。 『春の夢』以降はおっしゃる傾向が強くて、手が伸びなくなってしまいました。 

恐らくは『泥の河』や『蛍川』で子供時代を過ごした世代が『春の夢』や『青が散る』の青春時代を経たあと、高度成長の波に乗って「人並み以上の生活」を送っているだろう・・という設定だと思います。 もちろんそこには、そうあるべきだという願望もこめられているような気がします。 

今年もよろしくお願いします。
(2008.01.03 13:13:28)

Re[1]:「冬の約束」 宮本輝(01/02)  
ぱぐら2  さん
きたあかりさん
>私も宮本作品は初期のビンボー臭いのが好きです。
>なかでも『錦繍』はピカイチです。 

「泥の河」私も好きです。それから、「流転の海」もいいですね。「流転の海」は第三部まで読んで、第四部五部は明後日くらいから読む予定なんですよ。「錦繍」はずいぶん前に読んだので忘れてしまいました。また読まなくちゃ。

う~ん。わかりましたよ。きたあかりさんの書評が、深みがあって説得力あるわけが。
きたあかりさんは、一人の作家の歴史というか作品の流れまで把握していらっしゃるんですね。さすがですね。
私みたいに、思いつきで、手当たり次第に読んでる者にはとても書けない、いい書評だと思います。
今年も、読み応えある書評を期待しています。よろしくお願いします!
(2008.01.03 15:10:13)

ご訪問ありがとうございました☆  
オグマンディーノ・開高健・筒井康隆・楡周平etc...を好みます。
(2008.01.04 07:00:47)

Re:ご訪問ありがとうございました☆(01/02)  
ぱぐら2  さん
dbadmin@funny blog.comさん
>オグマンディーノ・開高健・筒井康隆・楡周平etc...を好みます。

私が今まであまり読んだことのない作家さんばかりです。ブログをしていると、初めての作家や本に出会えるので楽しいです。また来て下さいね。 (2008.01.04 17:00:47)

Re:「冬の約束」 宮本輝(01/02)  
プックミ  さん
私もこの作家はだいぶ読んだ気がするのですが忘れるのも早くて・・・ただ兄と妹の愛が書かれた本があってそれは抵抗がありました。
日本人の作家では遠藤周作・宮尾登美子・立原正秋・宮部みゆき・三浦綾子・井上靖・三島由紀夫・内田康夫・福永武彦なんて読んだかな・・・あとは日本語が好きだったので、柴田武、大野晋・斉藤孝・季語の本なんかも読んでいたけど今は頭のどこの引き出しに入っているのか・・・?? (2008.01.04 23:40:08)

Re[1]:「冬の約束」 宮本輝(01/02)  
ぱぐら2  さん
プックミさん
>私もこの作家はだいぶ読んだ気がするのですが忘れるのも早くて・・・ただ兄と妹の愛が書かれた本があってそれは抵抗がありました。

へーえ、そんなのがあるんですか。知らなかったわ~

>日本人の作家では遠藤周作・宮尾登美子・立原正秋・宮部みゆき・三浦綾子・井上靖・三島由紀夫・内田康夫・福永武彦なんて読んだかな・・・あとは日本語が好きだったので、柴田武、大野晋・斉藤孝・季語の本なんかも読んでいたけど今は頭のどこの引き出しに入っているのか・・・??

私も井上靖、宮尾登美子、大好きです。実は、今まで読んだ中でいっちっばーーーん好きなのは、宮尾登美子の「天涯の花」ですよー。
日本語の本もおもしろいですよね。井上ひさしの「日本語日記」すごくいいですよ。
(2008.01.05 07:42:09)

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