読書の部屋からこんにちは!

読書の部屋からこんにちは!

2009.07.05
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カテゴリ: エッセイ
ダーシェンカというのは、著者チャペック氏が飼っていた、 ワイヤーヘアードフォックステリア
この本には写真がいっぱい出ているんですが、飼い主の愛情がそうさせるのか、どの顔を見ても満足そうに笑っているように見えます。

ダーシェンカが生まれたときの姿から、この本は始まります。
「それが生まれたとき、白くてほんのちっぽけで、手のひらに入るくらいだった。(中略)ダーシェンカは目が見えなかった。というより、目がなかった。そのうえ、ちっちゃな足ときたら、いやはや足だと思えばそう見えなくもない、といったしろもの。ほとんど役には立たないけれど、あると信じているから足なのだった。」

なんと愛情にあふれた、優しい視線の文章なんでしょう。犬が好きで今飼っているという人も、ほんとうに生まれたての子犬を見ることは、あまりないはず。でも、この文章を読めば、ふにゃふにゃで、芋虫よりも弱弱しい子犬の様子が、手に取るように想像できますよね。

「ダーシェンカが歩く練習を本気でとりかかったとき、おかあさんのあと足から前足までころがっていくのに、半日もかかってしまった。そのうえ、途中で三度もおっぱいを飲んで、二度もぐっすり眠った。」

「(略)おかあさんは一日中ダーシェンカにお話をし、ささやきかけ、クンクン匂いを嗅いだり、キスをしながらなめたり、舌で洗ってきれいにしたり、(略)いとしげに見守りながら、ふさふさした自分の体を枕にして寝かせてやった。」

こんなふうに、小さなダーシェンカの成長と母犬イリスの子育てが細やかに、なおかつユーモラスに書かれていきます。


「やれやれ、さようなら、ダーシェンカ。いい子にしているんだよ。」

そのあまりのあっけなさ。
子犬との別れは、子犬が生まれる前から決まっていた運命で、元気にもらわれていったのが幸せなことなんだと言わんばかりの、あっけなさです。

「私たちはお互いに目をあわさないよう、避けている。部屋のすみを見ても、もうあの子はいないのだ。(略)犬小屋では、毛をむしられ、疲れ切ったおかあさんのイリスが、ひっそりと目をしばたかせながら泣いている。」

後半は、「ダーシェンカに聞かせるお話」です。
ダーシェンカに語り聞かせる形で、犬にまつわるおとぎ話、フォックステリアの偉大なるご先祖さまのお話など、フォックステリアの必須一般教養みたいなお話がいっぱい出てきました。
「神様は犬をお作りになったとき、骨の山、肉の山、毛の山から、最初にフォックステリアとピンシャーを作った。骨の山がグレーハウンドに変身し、肉の山はブルドッグやボクサーになった。毛の山はセントバーナードになった。残りの毛からプードルが生まれ、最後のひとかたまりのうぶげから、狆やペキニーズができた。最後にわずかに残っていた大きな胴体と小さい足4本から、ダックスフントを作った。」ということだそうですよ。


この本は、絵本のように子どもに読み聞かせるための本なんでしょうね。全体に漂う雰囲気がこの上なくやさしく、あたたかく、子犬に対する愛情にあふれています。子犬もそれに応えて、かぎりなく無邪気で、きかんぼうで、いたずらっ子です。
子犬を見ると、誰だって心も表情も柔らかくなり、手を差し伸べてふわふわした毛にさわりたくなる。そんな気持ちをかきたてられる、不思議な本でした。

この本は、1934年に初めて邦訳されたそうですが、詩人の佐藤春夫もその序文で書いています。
「この本を店頭から持って帰ることは、犬好きにとっては愛らしい子犬を一匹抱えて帰ると同様に楽しいものに相違ない」


ダーシェンカ





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Last updated  2009.07.06 08:58:03
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