自信の【美】と自惚れの【ブス】

自信と自惚れは紙一重である。

大昔、私がまだ10代の頃、一般人の我々がモデルとなって、プロのファッション・カメラマンの手により撮影されるという機会に出くわした。
何せ皆始めての経験なので、自分の順番が廻ってくるまでは気分も落ち着かず、やけに鏡を何度も見て、髪の毛1本の位置まで気にしていた。
一つしかなかった全身鏡の前に争うように立ち、アシスタントのアドバイスを参考に、一丁前に体の角度の研究や、手足の動きなども色々試す。

しかし、素人とは悲しいもので、いざカメラマンの前に立つと体が硬直して、先ほどの研究も水の泡。
私も結局棒立ち状態に近いポーズで撮影を終えた。
出来上がった写真を見せて貰うと、そこには歪んだ笑みの自分が写っていたのである。

まるでジュディ・オングのようだった衣装も、羽根を羽ばたかせることもなく、不死鳥ならぬ 雨上がりの死にかけ鳥 のようで、魅せられてエーゲ海に捧ぐどころではなかった。

こんな素人としては当たり前の経験であったのだが、そこに一人、すごい女が居たのでご紹介したいと思う。
その女は兎に角自惚れがキツイ奴で、ただ自惚れているだけなら可愛いものなのだが、彼女の欠点は
人と比較し、自分より美しくない者(彼女の感覚で)を蔑ずむところにあった。
自分の【美】への確固たるポリシーを持っている事は、なんら間違いでも悪い事でもない。
しかし、その裏に軽蔑という気持ちが現れるのは大層頂けない。

この彼女の順番がやって来て、いざカメラマンの前の舞台に立ったや否や
ナント!
彼女はその場でクルクル廻りだしたのである。

撮影を終えた我々も、まだ順番が控えていた人達も、その回転クルクルに度肝を抜かされ、そして肝腎要のカメラマンは・・・?というと
持っていた高級カメラをしっかりと握ったまま、肩が震えだしたのである。
それは後ろから見ていると、怒りの震えなのか笑いを押し殺す震えなのか、我々には判断が出来なかった。

結局、カメラマンは我々の時のように、和みの言葉もアドバイスもなしにアッという間にシャッターを押して「ハイ、次!」と言ったのである。

この出来事と我々の笑いが御気に召さなかった彼女は、ディレクターの元へ行き、今一度自分の撮影をし直すように詰め寄ったのだが、スーパー・モデルでもあるまいし、冷静に考えてそんな我儘が通るはずも無く、彼女は口を尖らせていた。

撮影の後の団欒で、皆が彼女の事を避けようとしていたので、そういった村八分的な事の嫌いな私は、我々の輪の中に彼女を呼び寄せた。
すると、彼女は我々に対し
「あのディレクターもカメラマンもどうにかしてるわ!私が町を歩けば、どれほどの男が声( こえ )を掛けて来るか!」と怒りを露わにされた。

とそこへ、すかさずある男性の声が聞こえ
こえ こえ でも、肥溜めの こえ かぁ~?!」
と言ったのである。

ヒエ~~~ッ!であった。
その強烈な一言に、おずおず彼女を見ると
彼女はまさに肥を被ったかのようにズタズタ状態で、我々の元から去って行ったのである。

自信を持って背筋を伸ばす事は大切だが、それを鼻にかけたり、人と比較して優越感に浸るのは、大きな間違いであると実感した次第である。


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