piled timber

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 仕事を離れてのプライベートな時間に出かけたキャバクラは、趣味と実益を兼ねるには丁度良い場所ではあった。が、そんな場所で僕の仕事の話はタブーとなっていた。それは、もしも仕事が同業とばれると払いが倍になるのは覚悟をしなくてはならなかったのは当然だが、陰の部分で危なくなってしまう事も十分に考えられた、しかし知人の黒服の友人がいたおかげで、僕は店への出入りは咎められる事は無かったけれど、本業のスカウトは出来無かった。結局、僕にとっては単なる息抜きに仕事を忘れて客として飲むだけの店の一つでしか無かった。
 そんな中僕は、普通の客として店に通い、気に入った娘を店の外に誘い出すのに夢中になっていた。ある日、お気に入りの娘の誕生日を聞き出した僕は、彼女を連れ出すチャンスを得る事ができた。

「飯でも食いに行こうか。今日は誕生日なんだろお祝いしなきゃ」
「お祝いしてくれるの、ありがとう」
 あれほど何度も誘っても一緒に飲みに行く事を渋っていた娘が、嘘のようにすんなりと僕の誘いに乗ってきた。
「珍しいな、僕があんだけ誘ったのに一度もうんと言わなかったのにね」
「そうだっけ、今まで誘ってくれた事ってあったっけ」
 あれ、自分の勘違いだったかなと思いながら僕は待ち合わせの場所を尋ねた。
「じゃあ待ち合わせは何処が良いかな」
「コージコーナーで一時かな」
 彼女はそう言うと笑って席を離れて行った。

「行こうか」
 食事を済ませ、何軒かの飲み屋を一緒にまわった後、僕は彼女を促してアクセサリーを扱っている店へと向かった。
「どういうのが良いのかな」
「どれでも良いのかな」
「誕生日だから気に入ったものを選ぶと良いよ」
「じゃあ、これが良い」
 彼女が選んだものは、それほど高い値段のものでない、小さな指輪だった。

 指輪を買って、店を出る時に彼女は黙って僕の手に指を絡ませていた。僕は彼女の腰に手を回し、明治通りへと歩き始めた。人通りの少ない道で彼女を抱き寄せると、身を預けるように僕の腕の中に飛び込んできた。口づけを交わしながら、さてこの後はどうしたものかなと僕は少し躊躇したが、そのまま彼女を抱えるようにしながら道を一本ずらして、ホテル街へと繋がる道を歩き始めた。
 こんな事を言っても信じて貰えないかも知れないが、二十四の私にはホテルは無縁で行ったことが一度も無かったのだ。それは、女の経験が無かった訳では無く、ただホテルへ行った事が無かっただけであってそれ以外の経験は人並みには有ったつもりだった。

 TVで見たようにラヴホテルの門をくぐり、部屋を選び、そして鍵受け取り部屋へエレベーターで向かって行った。
 鍵を開け部屋へと入ると、そこは畳の上にベッドが置いてある部屋だった。娘は「シャワーを浴びてくる」と告げさっさとバスルームへと扉を開いていた。
 その時初めて気づいたのだがシャワーを浴びている姿が見えるでは無いか。これじゃTVで見たのと同じ部屋だと僕は思った。ベッド脇のTVの上には撮影用のビデオが設置されており、セックスをビデオで撮れるようになっていた。僕は、シャワーを浴びている娘を視界の隅に入れたまま、冷蔵庫からビールを出して、バクバク言い始めた心臓をなだめるかのようにビールを飲み始めた。

 二杯目のグラスが空になりかけた頃、バスタオルを体に巻き付けた娘がバスルームから戻って来た。
「貴方も浴びれば?」
 僕はシャワーを浴びるゆとりも無くとっさに答えた。
「いや俺は良いよ」
「あっ、これ開けて良い?」
 僕には娘の問いかけの意味が判らなかったけれど、知らないと思われるのが恥ずかしくて即座に答えた。
「良いよ」
 彼女は僕の返事を聞くや、立ち上がりベッドの脇に立つと壁を押し始めた。ガラガラッと音を立てて、ベッドの周りの和室風の色合いが、見る見る鏡張りになっていった。鏡張りに開けきった娘はベッドサイドに腰を下ろすと。
「私にもビールを頂戴」
 そう妖しく微笑んでいた。

 僕は、喉を鳴らしながらビールを飲んだ娘を待ちきれないとばかりにベッドヘ押し倒しバスタオルをはぎ取った。
「嫌、水泳をしていたから腕が太いの。部屋をもう少し暗くして」
「ごめん、暗くするよ」
 僕は起きあがり、照明を薄暗く調節するとベッドに横たわったままの彼女の体を見つめた。薄暗い明かりの中の彼女の体は高校時代水泳をしていたという言葉の通り、腕は確かにやや太めかなと思わせた。しかし、それ以外は贅肉なんて見あたら無いギリシャ彫刻の様な滑らかさを持っていた。
 彼女の横へ入り込み、僕は彼女の唇を貪り、目で見た体の隆起を確かめる様に手を這わせていった。唇が彼女の口から離れ、顎へ、首筋へそして二つの小山へとついばみ続けた。そしてその間も手は休む事を知らず、彼女のまばらに生えて陰毛をかき分けて受け入れる潤みが出来るのを確かめていた。
 唇を彼女の胸から脇腹を経て下へ下へと向かおうとすると。
「嫌っ」
 と彼女は小さな声でささやいた。その声に僕は、彼女の隣へと場所を移し、彼女に再び口づけをしながら、潤みが十分で有るのを指先で確認した。太股で彼女の足を押し開きながら僕は彼女を見つめると、コクンと頷いているのが見えた。

 彼女の腿の間に腰を入れ、指先で支えながら彼女に押し当てると、そのまますんなり彼女の中に入って行きそうだった、確かにこの瞬間までは。
 あれほど、彼女の中に押し入ろうといきり立っていた物が、いざという時になって嘘のように萎えてしまったのだ。僕はごまかすように彼女に口づけをし指先で力づけ様としてもすでにもう一人の僕はそっぽを向いてしまっていた。
「どうしたの」
 怪訝そうな顔で彼女に問われ、
「ごめん、こうなっちゃった」
 僕は彼女の小さな手を持ち、萎えてしまった僕に触らせた。彼女は攻守を入れ替えて手で懸命にしごいたのだけれど僕はそっぽをむいたままだった。焦る気持ちとは裏腹にますます小さくなり回復する事は無かった。

「こんなの初めて」
 彼女に笑いながら指先でつままれたけれど、僕にはどう言い返す事も出来なかった。
「ごめん」
 僕にはそう言う事しかできなかった。
「良いのよ、気にしないで。明日早いからもう帰らなきゃ」
 そう告げると彼女は汚れを落とすと言わんばかりにシャワーを浴びに浴室へ入っていった。僕は諦め切れない思いで、彼女がシャワーを浴びるのを待っていた。そして浴室から出てきた彼女を一度は抱きしめる事は出来たけど、引き留める事は出来なかった。僕は彼女と共にホテルを出て、タクシーを広いマンションへと送り届けた後、一人寂しく帰った。

 その後何度か逢う機会はあったが、彼女とは二度とホテルヘ行く事は無かった。けれど、わずか、高校を卒業して数か月のきれいな体を持つ娘がラブホテルの部屋を鏡張りに替えた驚きは、その後どんな女性と初めての夜を迎える時にもあれほどの衝撃は味わって無い。

 今なら、出来るんだろうな(爆)。


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