piled timber

つむじ風


 小学生の頃、何で音楽クラブなんかに入ったのかは判らないが、とにかくバイエル?を購入して、片手で譜面を見ながら弾いたと言うか真似事をした覚えがある。けれどそれは僕が音楽に引かれた訳じゃ無く、ただ単にピアノを弾くと言う行為に憧れただけなのかも知れない。

 いつも連れてかれる店でその女性はピアノを弾き、客のリクエストがあればカラオケの伴奏をピアノで行っていた。連れてかれるという事は僕は飲み代を払う訳でも無く、ただ酒を飲んでいただけだ。
 まあ、何度か連れてかれてるとそこの従業員であったピアノの女性と仲良くなり自然と会話が弾むようになっていくのに時間はそれほどかからなかった。

 そんなある時、いつものように連れていかれたのだが、連れてきた主は用事があるとかで支払いだけ先に済ますと、
「好きなだけ飲んで帰れよ、足りなかったら後で俺が払うから」
 と言い残すとさっさと帰っていってしまったのだ。しかし、その後の客の入りがいまいちだった為、その日は店が早仕舞いする事になってしまったのだ。

「ねえ、この後用事あるの」
 僕の問いかけにピアノの女性は、
「うーん電車の始発まで時間をつぶさなきゃ」
「じゃあ一緒に時間つぶそうよ」
「良いよ」
 彼女は僕の提案に乗って一緒に時間をつぶす事にした。店が入っているビルの1Fで僕が待っていると彼女は五分もたたないうちにエレベーターで降りてきた。

 僕は彼女と二人で夜の公園にいった。途中で安いシャンペンを買って、歌舞伎町の中にある公園に向かった。確かに今では浮浪者とか客引きの外国人がゴロゴロしている公園になってしまっているが、当時はまだそんな人間は少なかった。
 僕と彼女はジャングルジム?に登り、シャンペンを開け二人で回しのみながら色んな話をした様な気がする。回転させる乗り物に乗ってはしゃぎながら飲んでいた所為だろうかそこから僕の部屋までの記憶は、何処で何を話したのかは覚えてはいないが、とにかく僕は彼女と共に部屋にいった。

 彼女をそのままベッドに押し倒そうという僕を制するように、彼女は僕の肩に手を置くと、
「慌てないの」
 そう言いながら僕をベッドに押し倒すとそのまま乗りかかってきた。
「いい」
 彼女はゆっくりと僕の唇に自分の唇を重ねてきた。そして僕の肩に置かれた手は僕の上半身をはだけていた。僕は彼女の手に合わせるかの様に体を捩らせ彼女が脱がそうとするのに強力していた。
 僕の上半身が裸になると彼女は僕の唇から唇を離すと、僕のあごへそして喉へそして僕の胸へと唇を這い回らせた。たぶん僕はその時声を出していたのかも知れない。
 僕の胸を彼女の唇や舌が這い回る頃には、彼女の指は僕の股間にあり、
「もうこんなになっている」
 などといいながら楽しそうな厭らしい笑みを僕に見せていた。

 どのくらい続けられたのだろう、時間にすれば数分かも知れないが僕にはその時間がとても長く感じられた。そしてもう待ちきれないとばかりに、自分の手でズボンを下ろそうとしたその時である。
「はい、今日はここでおしまい」
 彼女はそう宣言するやベッドを降りてしまった。

 僕は何かキツネにつままれたかのような不思議な気持ちだった。
「ねえ、このジャケット貸して」
「ああ、良いよ」
 僕が答えると彼女はそのジャケットを手に持つや、
「じゃあね」
 そう告げると部屋のドアを開け帰っていってしまった。

 次の機会はあると思っていたのだが、彼女に会う事は二度と無かった。



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