April 14, 2008
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◆前回までの小説のあらすじ◆は、今回の記事の下のコメント欄をご覧くださいえんぴつ

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 鎌倉で吾朗君を見かけた二日後の夜、突然、紗英さんからメールが来た。
『こんばんは。以前、居村吾朗の家でお会いした、月野紗英です。吾朗ちゃんの従妹だと言えば思い出してもらえるかもしれません。お話したいことがあるのですが、吾朗ちゃんに内緒で、会ってもらえませんか?』
 内緒で?吾朗君の従妹が私に何の話があるというの?
 送信者のアドレスは、吾朗君のアドレスになっている。つまり今、紗英さんは吾朗君の携帯を勝手に触れる距離にいるっていうこと?ふと、この前の亜矢の言葉が心をよぎる。
「何か怪しくない?」
 何があるのか確かめるのは怖かった。でも、こんなふうに憶測で不安に苦しむのも、もう嫌。
『都合が悪くなければ、明日の夜、お会いしましょう』
 返事は紗英さんからのメールの最後に書いてあった、彼女のアドレスに送った。

 仕事を定時で終え、私は急いで待ち合わせたカフェに向かった。
 紗英さんは先に来て、席に着いて私を待っていた。彼女は明らかに周りの人達とは違う、人一倍華やかな雰囲気を存在感たっぷりに漂わせていた。
「こんばんは。小枝くるみです」
「月野紗英です。ごめんなさい、突然メールしちゃって」
 瞬きすると音がしそうな程、長くてボリュームのある睫毛の下から、磨かれた宝石のような瞳が私を捕らえた。何て綺麗な人なんだろう。威圧感すら感じさせる。それだけで私はもう十分臆してしまった。
「あの、お話って?」
 今思えば、多分この時から勝負は始まっていた。私が席に着くのを合図に、サイは投げられた。
「最初に謝っておくことがあります。以前、吾朗ちゃんの部屋で偶然会った時、くるみさんに嘘をつきました。私は吾朗ちゃんの従妹なんかじゃありません」
「それじゃあ、一体・・・」
 嫌な予感が的中?
「私は今、吾朗ちゃんと一緒に同じアパートで暮らしているの」
 息が止まりそうになるくらい、強い衝撃が胸を打った。鼓動がどんどん大きくなって、耳の奥まで脈打つ音が膨張する。
「どういうことですか?」
 震える声で精一杯、聞き返した。
「吾朗ちゃんと別れて欲しいって言ったら、別れてくれますか?」
 この人何を言ってるの?耳の奥が急激に熱くなって、紗英さんの言葉を聞き取ることができない。
「ダメですか?吾朗ちゃんと別れるのは」
 混乱する私に、畳み掛けるように紗英さんが言った。
「あなた、吾朗君の何なんですか?」
 私の精一杯の質問に、彼女は涼しい顔で、こう答えた。
「従妹ではないけれど、遠い親戚ですね。でも気持ち的にはかなり近くて、そうね、昔からの友達っていうか、兄妹みたいな感じかな。この前会った時は突然だったし、いちいち説明するのも面倒だったので、従妹ってことにしちゃいました」
 彼女は悪戯な目つきをして軽く笑った。何なの、この人?沸々と怒りの感情が湧き上がる。
「それで一緒に暮らしているというのは、どういう・・・」
 私が全部言い終わらないうちに、紗英さんが話し出した。
「ちょっと訳があって、今、吾朗ちゃんと一緒に暮らしてるの。彼のアパートでね。でもそれは同棲とかじゃなくて、ただ私が一部屋借りているっていうだけで、決して男女の仲じゃないってことをくるみさんに解ってもらいたくて」
 男女の仲じゃない?急に肩透かしを食らい、私はますます困惑した。
 彼女は最近離婚したことや、たった一人の肉親だった母親が亡くなったことで、人生をやり直そうと思って留学の準備をしていること、そのためにお金が必要で家も売り、留学までの期間、高い家賃を無駄に払いたくないから、吾朗君の家にルームメイトとして転がり込んでいると、話し出した。
「それじゃあ、さっき私に吾朗君と別れて欲しいって言ったのは、あれはどういうつもりだったんですか?」
「くるみさんが、どの程度、吾朗ちゃんに本気なのかなって思って」
「私が本気だったら、どうだって言うんですか?」
「本気なら、私のことはともかく、吾朗ちゃんのことは信じてあげられるでしょう?しばらくの間、彼の家に女友達が間借りしてても、浮気してるわけじゃないんだし、問題ないよね?」
 紗英さんの話を聞いて、憶測が消えるどころか、ますます分からなくなっていった。
 いくら遠い親戚で兄妹みたいな仲だと言っても、そんな事情で男の人の家に同居なんて普通する?
 俄かには信じられない紗英さんの話。私はただ唖然とするばかりだった。この人、何を考えてるの?
「本当に、吾朗君とは何でもないんですね?吾朗君に対して、特別な感情はないんですか?」
 念を押すように聞いた私に、彼女はなぜか勝ち誇ったような表情をちらっと覗かせた気がした。
「恋愛感情?誓ってないです。私も吾朗ちゃんも、お互いにね」(つづく)



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Last updated  May 7, 2008 09:06:43 AM
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