February 15, 2009
XML

◆小説のかなり大雑把なあらすじ・登場人物◆ は、記事の下のコメント欄を。
  最初から、または途中の回からは、 ◆ 一覧 ◆ からどうぞ。
  ※ 申し訳ありませんが、上記リンクは携帯では表示できません。


○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○

 紗英さんのお見舞いに行く前に、最近の容態を聞いておこうと思って吾朗君に電話をかけ、昨夜彼女が倒れたことを知った。
 そして紗英さんの別れた旦那様が、またやって来たということも。
 自分も後から行くから、もし私がいる時にその人が来ても、紗英さんには会わせないで欲しいと吾朗君は言っていた。
 だから病院に着いた時、少し離れたところから紗英さんの部屋の入口を見ている男性が、その人に違いないとすぐに分かった。
「紗英に会うのはあきらめてくれって言ったんだけど、僕とは話していても無駄だって怒って出て行ったんだ。病院名は具体的には言わなかったけど、紗英のお母さんが入院してた病院にいるってことは簡単に推測できるだろうし、ホスピスにいるなんて言わなきゃよかった…」
 吾朗君が言っていた通り、この人はもう紗英さんの居所を捜しあててしまったらしい。
「紗英さんのお見舞いですか?」
 声をかけると、男性はゆっくりとこちらに顔を向けた。
「紗英の友達の方?」
「はい。あの、あなたは?」
「紗英の元夫の取手(とりで)です」
 吾朗君の話から想像していたイメージとはちょっと違っていた。陰湿なストーカーみたいな人を思い浮かべていたけれど、見た目は優しそうでそんなに嫌な感じはなかった。
 ただやつれた顔に生気はなく、酷く疲れている様子が見て取れる。
 その顔には見覚えがあった。この人に見覚えがあるというのではなく、顔から受けるこの感じ。それは吾朗君と紗英さんのことを勘ぐってばかりいた頃の、鏡の中の私の顔。
 この人もまた、好きだという気持ちに翻弄されている。そんな気がして、ついこの前までの自分と重なった。
「紗英さんに会われるんですか?」
 自分の夫と不倫相手の間にできた子供。その子供を堕胎したことに対する紗英さんの想い。それはあまりに複雑過ぎて、私には計り知れないものがある。
 でも自分の親の死、さらには自分の死と向き合っている間に、浮気していた夫というだけでも私はこの人を絶対に許せなかった。
 そんな人が今更のこのこ来たって、紗英さんに会わせる必要なんかない。この人の顔を見るまでは、確かにそう思っていたのに。
「会うつもり来たんですけど、ここまで来たら何だか勇気が出なくて」
 寂しそうな横顔。無下に帰ってくださいとは言えなくなってしまった。
 紗英さんはどうなんだろう? 会うのはきっと辛いよね。でもこのまま会わなくてもいいのかな。彼女の気持ちを確認するべきなんだろうか。でも私にはその勇気はなかった。
 ふいに隣の部屋のから女の人が出てきた。外に買い物に行くらしく、お財布と傘を持っていた。
 出てきたのが紗英さんじゃなくて、隣の部屋の人で良かった。ほっと胸をなで下ろした。やっぱり急に会わせるわけにはいかない。
「あの、私から提案があるんですが」
 そう言うと取手さんは不思議そうに私を見つめた。
「今日は紗英さんに気付かれないように、どこか離れた所から一目姿を見てあげてください。急に会われると紗英さんも驚くと思うし、今朝はあまり体調がよくなかったらしいので心配だし」
 取手さんが私の話に怒り出したらどうしよう。そう思ってびくびくしながら話していた。
「どうしても直接会われると言うのであれば、後日改めて、いきなりではなく私にまず電話してください。会える状態かどうかお医者様にも相談してからの方がいいと思うので。今日は紗英さんが部屋から出てもいいようなら、入口のロビーでお茶しようって誘ってみますから、どこかでそっと見ててください」
 少し考えるようにしてから、取手さんは同意してくれた。
 お互いの連絡先を交換して、私だけが紗英さんの部屋に入った。
 紗英さんは眠っていた。起こすのもどうかと思ったので、私は交換したばかりのメールアドレスに今は眠っているので、起きてから連れ出す前にメールしますと書いて送った。
 窓から見える空には暗い雲が低く広がっていた。午前中に降り出した雨は止みそうになかった。
 しばらくして目を覚ました紗英さんは、私が来たことをとても喜んでくれた。体調はどうかと聞くと、タップリ寝たからもう大丈夫だと答えた。
「でもね、しばらくは大人しくしてろって、今日から当分の間、車椅子使えって琢人に言われたの」
 部屋の隅には一台の車椅子があった。
 その上にはピンクのミニバラのアレンジメントと一枚のカード。カードには「ここに座すべき姫君へ」と書いてあった。
「本当にバカな奴でしょ、琢人って」
 部屋の外での出来事を何も知らない紗英さんが、無邪気な笑顔を咲かせてみせた。
「それじゃあ、姫君、これに乗って、ロビーで午後のお茶でも楽しみましょうか?」
「やだ、変なのは琢人だけで十分だから。くーちゃんまでおかしくならないでよ」
 全然関係のない友達にメールするふりをして、今から部屋を出ますと取手さんに送ってから、紗英さんの乗った車椅子を押して廊下に出た。
 ああは言ったものの、突然目の前に取手さんが飛び出してくるかも知れない。内心怖くて仕方がなかった。でも私たちはロビーでしばらく話した後、何事もなく部屋に戻った。
 車椅子に座っている元妻を、元夫はどんな気持ちで見ていたのだろう。
 その翌日、取手さんからメールが来た。
『紗英には会わないまま、京都に戻ります。紗英のこと、よろしくお願いします。』
それ以来、取手さんが私たちの前に現れることはなかった。
 本当にこれで良かったのかな。だけど、その答えは多分誰にも見つけられない。
 坂下さんからのピンクのミニバラは、紗英さんのベッドの脇のサイドボードに置かれ、優しい香りをそこはかとなく漂わせていた。きっとその香りだけが、答えを知っている。そんな気がした。(つづく)

○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○


読んでくださり、ありがとうございました!
ぽちっとランキングへの応援を。励みになってます
♪♪♪ お気持ちに感謝♪(*^^)v ファイブ ブログランキング 「コンテンツバンク」で記事をチェック! ♪♪♪



PCの不調で、ご心配・ご迷惑をおかけしました。
PCって機械のくせに気分屋な奴で困りますねー

さて前回と今回の紗英の元夫の話。
実は最初の構想の中にもあったものの、
最近はもう書かなくてもいいかな~と思ってました。

でもふと「思うところ」があって書きました。
ぶっちゃけ、物語の展開に何か刺激も欲しかったし。笑
でもこの二話を書いたことで終りがまた先延びに…^^;

多分最終話は61話くらいになると思います。今のところ。

その「思うところ」というのは、許すと言うことの大切さ、難しさ。
自分自身ももちろんですが、それを子供たちにどう伝えるか。
ある事件を通じて、そんなことを考えたんです。

勝手にリンクしちゃいますが、詳細は こちら
zero0923さんのブログ「太陽の欠片 月の雫」の1/31の日記です。
(恥ずかしながら私の思ったこと、コメントさせていただいてます)

zero0923さん(大西隆博さん)の小説・ 「太陽の欠片 月の雫」 もよろしく♪


それと本文とは関係なく、皆様にお願いです。

cat plase 70匹の猫達

緊急です! 取り残されてしまいます!!
リンクの協力募ってます。一時預かりでも宜しくお願いします!




今日もありがとうございました ブログ管理人・ぽあんかれ


Copyright (c) 2007 - 2008 “poincare ~ポアンカレ~” All rights reserved.

小さな命・消さないで・・・猫に愛の手。

※迷惑コメント対策で「 http: 」を 禁止ワード に設定しました。
URLをご記入される場合は「http:」を省いてお書きください。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  February 15, 2009 11:32:09 PM
コメント(64) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Profile

ぽあんかれ

ぽあんかれ

Favorite Blog

シルヴァ・サーガ2 … New! ぱに〜にさん

操舵への道 ひかるせぶんさん
SWEETS byちゅっぷ chuppprinさん
ちょこっと掛川 ☆fuwari-usagi☆さん
りとるはぴねす 美冬2717さん

Free Space


   mail  poincare@fragments.m001.jp

   ※お返事は遅くなるかもしれません。
     ご了承ください。m(__)m 


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: