November 17, 2009
XML


 腸の癒着は、これまでにも何度か起きていた。母は若い頃に盲腸の手術を受けたのだが、その時の処置が適切ではなかったのか、それ以来、腸が癒着しやすくなって何度か病院に通ったことがある。腸と腸の一部分がペタリと貼り付いてはがれなくなり、動くたびに貼り付いた部分が引っ張り合うので相当苦しいらしい。
 今回も腸の癒着ではないかと思っていたけれど、これまで突然救急車で運ばれて緊急入院なんてことはなかったし、それがただ事ではない気がして、ガンの再発の可能性を否定し切れなかった。悪戯に不安がっていても良くないと思いつつ、だからと言って考えないようにしようとすればするほど、胸の中に冷たい墨汁のような不安がぼたりぼたりと重く垂れて広がっていった。
「詳しいことはこちらに来られてから、担当の医師が直接ご説明しますので、今日は簡単にお話しますね」
 電話で対応してくれた看護師は、そう前置きをしてから慎重に話し始めた。
 予想通り、母は腸の癒着を起こしていた。もう少し詳しく検査する必要はあるが、現段階では緊急で手術をするほどではなさそうなので、点滴や薬で経過観察中らしい。
 大腸ガンではなく、癒着も手術を要するような緊急の状態ではないということが分かって、それだけでもほっとした。
「入院は長くなりそうですか?」
「それも担当医に聞いてみないと分かりませんが、それほど長くはならないかと。順調にいけば恐らく一週間から十日くらいだと思いますが…」
 電話はこちらから質問したことに、看護師が答えるという形だった。病院の方から進んで説明してくれるわけではなかったので、今一つ分かりにくくて物足りなかった。何を聞いても歯切れが悪く、消極的だった。
 にも関わらず、この電話でのやり取りで不安になったり、イライラしたりすることはなかった。
「ご連絡を待っていたんですよ」とか、「一刻も早く来てください」と言われることも考えていたので、そう言われずに済んで安心した。もしそんなことを言われていたら、焦った気持ちが心臓をノックしまくって鼓動を打つ暇も与えなかったかもしれない。
 大変な状況であることに少しも変わりはなかったが、最初にあまりに慌て過ぎたような気がしてきた。
 父が大騒ぎするからだ。確かに自分が動けないのでは、事実確認のしようがないから心配なのは分かるけれど。
 いつだって母の方が冷静というか、「何とかなるでしょ」という感じだった。
 もちろん今回は腹痛がひどくて苦しくて連絡どころじゃないのだろうけれど、だからと言って焦って病院の人に身内への電話を頼んだりしない。緊急でないのなら、容態が落ち着いてから連絡すればいいだろう、あるいは孝之がそのうち連絡するだろう、そんなふうに考えている気がする。
 母がそんなだから父が慌てるのだ。そして父がこんなだから母は心配させるくらいならと知らせない方がいいと思うのだ。父の狼狽ぶり、母の変に沈着な態度、それがそれぞれの病院の応対に比例しているようだった。
 父と母はいつもこんなふうにちぐはぐなところがある。
 私は何だか、両親にしてやられたような気分になってきた。
「母が自分で電話をかけるのは、当分は無理でしょうか?」
「そうですね、いつ頃ならとハッキリは言えませんが、もう少し容態が落ち着いてからでないと…」
 自分のことを連絡するのは後回しで構わないと思っていても、孝之や父がどうしているのかはさすがの母も心配しているだろう。それだけでも何とか母に伝えたかった。
「電話が無理なら、私が書いたものをファックスでそちらの病院に送らせてもらって、それを母に渡してもらうということは頼めますか?」
「そうですね。遠方にお住まいなので、こちらに来られるまでは特別に」
 父の入院先からの電話を切る時よりは、落ち着いて電話を切った。それからすぐに母へのメッセージを書いた。
「谷山幸枝様
お母さんが救急車で運ばれて入院していると、瀬賀浦中央病院の看護師長さんから連絡がありました。孝之が電話で知らせたそうです。
大丈夫? 苦しかったよね…。
釜谷総合病院の看護師さんから、今のお母さんの状態はだいたい聞きました。
できるだけ早く、私もそちらに行くので、心配しないでいいからね。
お父さんも、孝之も大丈夫です。先程、孝之には電話しました。そちらに行くまでは、孝之にはちょくちょく電話して様子を聞くようにします。
だから安心してね。無理せず、ゆっくり身体を休めるようにして、治療に専念してください。  高井麻実」
 追伸に「こういう時は病院の人にでも頼んで、私にも早目に連絡ください」と書こうかと思ったが、それでは母を責めているみたいなので止めておいた。(つづく)

※この作品はフィクションです。登場人物や団体等、実在するものとは一切関係はありません。


いつも見に来てくださる方も、今日初めてお越しいただいた方も、
ご訪問、ありがとうございました手書きハート よかったら、応援お願いします!^^
お気持ちに感謝♪ ファイブ ブログランキング



大変遅くなりましたが、やっと更新です。^^
色々と励ましのコメント、メッセージ、
ありがとうございました!
順番にお返事いたしますので、お待ちくださいね。

さて、とうとう小4の息子のクラスが
新型インフルエンザで学級閉鎖となりました。

ウチの息子は元気です。元気なのはいいとして…
明日から予定では一週間、元気なまま自宅待機。
例え元気であっても外出禁止。
元気なものどうしであってもお友達との行き来も禁止

学校から課題は出ているものの、すぐ終わるだろうし、
最初の1~2日はテレビ観たり、本を読んだり、
ゲームをしたりして楽しむでしょうけれど、
そんなのすぐ飽きるに決まってる。(>_<;)
すぐに退屈して元気を持て余すに違いない~~~

なので、今週は一緒にお昼ご飯作ったり、
一緒に部屋の掃除や模様替えでもしたり、
何かで一緒に遊んだりしながら過ごすことにします。

みなさまのところへの訪問・応援くらいはできると思いますが、
今週末(11/21)は続きの更新をお休みさせていただきますので、
ご了承くださいませ。m(__)m

本当は今回UPした分ももうちょっと練り直したいのですが、
それも無理っぽいのでとりあえずUPしました。
後日ちょこちょこ修正すっかな~。^^;

急に寒くなりました。
みなさまも体調を崩さぬよう、お気をつけくださいね。


今日もありがとうございました♪ぽあんかれ (*^^)v

※一部リンク先は携帯からはご覧になれませんので、ご了承ください。


Copyright (c) 2007 - 2009 “fragments”All rights reserved.

小さな命・消さないで・・・猫に愛の手。

※迷惑コメント対策で「 http: 」を 禁止ワード に設定しました。
 URLをご記入の際には「http:」とご記入にならないよう、お願い致します。

※基本的にいただいたコメントに対するお返事は、
 サイトをお持ちの方で私がURLの分かる方は、お邪魔してお返事させていただいてます。
 サイトの運営をされていない方、URLの明記は避けたい方のみ
 私のブログ内のコメント欄でお返事させていただきますので、
 お手数ですが後日お返事を見に来ていただけると嬉しいです。^^







お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  November 28, 2009 05:59:38 PM
コメント(60) | コメントを書く
[ユークリッドの平行線] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Profile

ぽあんかれ

ぽあんかれ

Favorite Blog

シルヴァ・サーガ2 … New! ぱに〜にさん

操舵への道 ひかるせぶんさん
SWEETS byちゅっぷ chuppprinさん
ちょこっと掛川 ☆fuwari-usagi☆さん
りとるはぴねす 美冬2717さん

Free Space


   mail  poincare@fragments.m001.jp

   ※お返事は遅くなるかもしれません。
     ご了承ください。m(__)m 


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: