「That's What It Takes」は、その『Cloud Nine』収録のナンバー。個人的にはアルバム中のベスト・トラックといえるチャーミングな一曲だ。 ゲイリー・ライトもクレジットに入れられている。 ミドル・テンポで派手さのない楽曲ながら、ジェフのプロデュース・ワークに包まれ、ほんのりと温かい仕上がりとなった。
ジョージは、自身もプロデューサーとして優れた男だったが、コマーシャルな音作りは得意とはいえなかった。 同時に、フィル・スペクターとのコラボ作品『All Things Must Pass』('70年)を成功させた経験もある彼は、ほかの誰かにプロデュースをまかせることで自分の音楽が輝きを増すことを知っていたと思う。 強度のビートルズ・フリークであり、ELOとして数々のきらめくようなポップ・ソングを残してきたジェフ・リンは、その役割に最適だと判断したのだろう。 ジェフは、フィル・スペクター同様、オーバープロデュースをするタイプだったが、ジョージと相性は実によかったと思う。
『Cloud Nine』は、ジョージのポップ・センスが華やかにコーティングされた傑作となった。 ここからは、先述の「Got My Mind Set On You」が全米1位を記録。後続シングルの「When We Was Fab」(過去ログ参照)も中規模ながらヒットしている。 アルバム自体も商業的にひさびさの大成功をおさめ、賛否は分かれるものの、『All Things Must Pass』と並ぶ代表作となった。 そして、この時のセッションはそのままトラヴェリング・ウィルベリ-ズにつながっていくのである。
アルバム・タイトルの「Cloud Nine」は"至福の時"という意味らしい。 "ビートルズ第三の男"だったジョージの人生は、ソロになってからも苦難の連続だった。 盗作問題による裁判、妻パティとの別居~離婚、多量の飲酒による肝臓病、ソロ・ツアーや自己レーベルの不振、創作活動の挫折……などなど。 精神の救いを宗教に求めた時期もあった。 全米1位を記録した「My Sweet Lord」や「Give Me Love」は、神への希求を歌った曲である。
そんな幾多の逆境を乗り越えて『Cloud Nine』は発表された。 ここでのジョージの歌声は、余裕と貫禄を感じさせるものだ。 「That's What It Takes」を聴くと、仲間にかこまれて楽しそうに演奏している彼の姿が浮かんでくるようでもある。 思えば、このアルバムの頃が彼にとって、アーティストとして、あるいは人間としての"ほんとうに幸せな"時期だったのかもしれない。 それだけに、これがジョージ生前最後のオリジナル・アルバムとなってしまったことが、よけい残念に思えるのである。