家庭教育

家庭教育

虐待 「夫の暴力 心病む息子」朝日新聞よ



「起きろ!」夜11時過ぎ、帰宅した夫が、赤ん坊の長男を揺さぶり、耳元で大声をあげる。すやすや眠っていた長男が泣き出した。「あー泣いた、泣いた」夫は喜び、酒を飲み始める。由美が寝かしつけると、夫はまた起こす。そんなことが1晩に3、4回繰り返された。小学校高学年になるまで続いた。長男が「お父さん、やめてよー」と訴えても、夫はせせら笑い揺さぶった。時には包丁を振り回し、火をつけたライターを長男の顔に近づけた。長男が怖がると「いくじなし」とニヤリとした。由美が止めても、夫は執拗に虐待を続けた。同時に、かばう由美を殴りつけた。由美の顔にはあざができ、腰も骨折した。
 長男は幼稚園のころからチックの症状がでた。まばたきや、せきを繰り返した。何度も何度も手を洗うようにもなった。「ストレスがたまっている」と医師に言われた。子どもを連れて家を出たいと、弁護士に相談した。が、「離婚成立までは子どもと離れるぐらいの覚悟は必要」と告げられた。母子生活支援施設にもかけ合ったが、「離婚していないと入れられない」と言われた。離婚には踏み切れなかった。代わりに外で働き始めたり、動き回ることで、気持ちを外に向け、自分の感情を押し殺した。
 由美の両親は夫婦仲が悪かった。離婚話が出るたびに、母は泣いて父を責めた。長女の由美は、小学生のころから母のなだめ役だった。明るい家庭では決してなかった。それでも両親には「離婚することは許せない。成人するまでは親として最低限のことはしてほしい」と迫った。両親がそろっていることが理想と信じていた。だから、結婚してからも、夫の暴力に耐えるしかないと思った。
 それがいつしか限界にきた。死ぬことばかりを考えるようになり、数年前、子どもを連れて実家に戻った。つきまとわれたが翌年、ようやく離婚が成立した。一歩を踏み出してほっとしたとたん、高校生になった長男が不登校になった。睡眠障害を起こし、引きこもった。毛布にくるまり一日中、身動きしない日が続いた。カッターで自分の顔や身体を傷だらけにした。
 「強迫神経症」と診断された。「小さい時の虐待が原因」と精神科医に言われた。「勇気を持って、もっと早く家を出ていれば」。最大限の努力はしたが、結果として子どもを守れなかった。46歳の由美はいま、苦い思いをかみしめる。
 成人した長男は「母には感謝している」と言いながら、やり場のない苛立ちを由美にぶつける。「なんでおれを生んだんだよ。生まれてこなければよかった」心を病む長男を「何とかしてやりたい」と思う反面、怒ったときのの形相が夫に似ているのを見ると弓は嫌悪も感じる。
 「悪魔のような夫は目の前から消えたが、地獄のような生活は変わらない」虐待から逃れて5年以上。親子の葛藤は続いている。


© Rakuten Group, Inc.
X

Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: