家庭教育

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ある園長先生が聞いた、すがすがしくなる話



 『先日、電車に乗って池袋に行った。車内は、座席がわずかに空いているくらいで、唯一優先席だけ誰も座っていない程度だった。
 ある駅から、小学校高学年くらいの女の子3人が乗ってきた。そして、優先席を見ると、大声で「あそこがいいよ!」と言いながらにぎやかに並んで座った。それぞれがバックの中からぺっとボトルを取り出してゴクゴクと飲み、車内に響き渡る声で喋りだした。時折、席を立ってはつり革にぶら下がったりしている。
 乗客は誰もが苦々しく思っていただろう。それでも誰も何も言わなかったし、私もその一人だった。
 ややあって、だいぶ離れたところに座っていた20歳半ばくらいの女性が立ち上がると、つかつかと子ども達の前に立った。乗客の目は、どうするのかという目でそこに注がれた。女性は、つり革につかまり姿勢をかがみ気味にして子ども達に話しかけだした。女性は笑顔だった。ニコニコしながら子ども達に話しかけている。なにやら子ども達もニコニコと応答している。しばらく会話が進むうちに、子ども達はきちんと座りなおし、放り出していたバックを膝の上に置き、ペットボトルをしまった。しかし、決して叱られているような印象はなく、静かにしゃべる子ども達の顔は相変わらず楽しそうである。女性も笑顔を絶やすことなく、さらに子ども達との会話を続けていた。次に子ども達がとった行動は、席を立ち、ドア付近の隅に立ったことであった。
 女性はそれを見守ると、子ども達に微笑みながら「りっぱ!」というように片手を上げ、はつらつと元の席に戻って言った。子ども達も笑顔で手を振って応じた。そして、そこに移動したあと、決して騒がしくすることはなかったが、それぞれの表情には前にも増して明るく楽しそうであった。注目していた乗客達の間に、そのうら若きすばらしい女性に感動するような、さわやかな空気が流れた。』

 私にそう語られたS先生は、さらに、『私がやるとしたら、きっと子ども達を叱るかお説教をしていたでしょう。それが一番手っ取り早い方法だから。けれど、それでは子ども達は、今後自分から進んで今日のような行動をとることにはつながらないでしょう。
 叱ることは、してはいけないことを覚えていく上でとても大切なことです。何でも認めて機嫌をとっていれば、わがままになります。ですから叱らねばなりません。しかし、叱れば良くなると思うのは、叱る側の自己満足に過ぎないこともある。また、叱られるばかりの子は、萎縮するか嘘をつくか、あるいは自分を認めて欲しいが故に悪さをするか、拒否するために殻にこもる。子ども達に笑顔で語りかけ、まるで子ども達が自主的に正しい行動をしたように仕向けてしまったあの若い女性!この年になってもう一度勉強させていただいた思いです』と付け加えられました。‥‥

 朝、園庭を掃いていると、澄み切った空気を通して遠くの山がくっきりと見えます。冬が来て、もう暮れですね。今年の終わりを、どの子も笑顔で締めくくれるよう、がんばっていきたいと存じます。



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