プレリュード

プレリュード

2007年01月10日
XML
カテゴリ: クラシック音楽
今日のクラシック音楽 』        シューベルト作曲 歌曲集「冬の旅」

1828年1月10日、フランツ・シューベルト(1797-1828)が作曲しました歌曲集「冬の旅」前半の12曲が、ウイーンの楽友協会ホールで初演されています。 

シューベルトは、31歳という短い生涯で9曲の交響曲、14曲の弦楽四重奏曲、2曲のピアノ三重奏曲、21曲のピアノソナタや多くのミサ曲、合唱曲やオペラなどを書残していますが、彼の名が音楽史上で語られるときに必ず言われるのは「歌曲王」という言葉です。 600曲を超える歌曲を書いたと言われているほど、数多くの歌曲を作曲しています。

声楽でも、オペラは登場人物の数だけの歌手、合唱団、オーケストラ、指揮者、演出家、舞台美術・小道具・衣装などを揃えて公演を行なう大プロジェクトとなるのが普通です(コンサート形式は別として)。 そして、これらの大人数によって物語が進められていきます。

それに較べると歌曲の世界は、オーケストラ伴奏のある音楽は別として、コンサート・ホールででもピアノ1台と伴奏者(譜面めくりの人1名)と歌手1人という簡素な仕立ての世界で、1曲によって物語が終ってしまうという音楽空間です。 そして深い精神性とそれを心象的に表す光景、風景の世界で人間の幸せ、楽しさ、悲しみ、辛さ、苦しみ、嘆き、喜びなどがわずか数分間という短い曲の中で表現されています。 

それは、ドイツの詩人ゲーテやハイネ、ミューラーといった詩人の作った「詩」に歌と伴奏音楽を付けている世界だからです。 「詩」そのものを音楽で表現している世界だからです。

そうした歌曲を「連作歌曲」としてシューベルトは、まづ最初に歌曲集「美しい水車小屋の娘」を作曲して、恋に破れた若い男の心理を見事に歌い上げました。

今日採り上げました「冬の旅」もミューラーの詩による歌曲集として24曲から構成されていますが、前後の物語性は前作の「水車小屋の娘」のようにはなくて、詩そのものが単独に書かれているのですが、共通していることは失恋した一人の若い男があてのない旅に出て、その旅で経験する色々な出来事や心情を歌っている音楽です。 



この初演は、亡きベートーベンの棺に泣きながら付き添ってから、まだ1年と経たない日で(ベートーベンの命日は1827年3月29日)、この「冬の旅」初演から約11月後の1828年11月19日にシューベルトは、その短い、不遇な人生を閉じたのです。 この「冬の旅」最後の24曲目の「辻音楽師」は、寒風の中で村のはずれに立って、震えながらオルゴールを手で回しながら歌う老辻音楽師が描かれています。

村のはずれに一人の筒琴弾きが立っていて、
凍える指でいつまでも筒琴をかき鳴らす。
氷の上を、裸足であちこちと歩き回りながら。
しかし彼の小さな盆にはいつまでも銭が入らない。

誰一人耳をかたむけず誰一人目をとめる者もなく。
ただ犬だけがその老人のまわりで吠えたてる。
すべてをなすがままに勝手にさせながら、
老人は筒琴を奏でその音はいつまでも絶えずに続く。

ふしぎな老人よ、お前と一緒に従いて行ってよいだろうか?
私の歌にお前の筒琴のしらべを合わせてくれまいか?

(訳 高崎保男)


この「辻音楽師」に、貧困と不遇な人生を若くして閉じたシューベルトにダブらせてしまうのは、私だけでしょうか?

愛聴盤  ディートリッヒ・フィッシャー=ディスカウ(バリトン) アルフレード・ブレンデル(P)

UCCP7068 1985年録音 1/10
(Philips原盤 ユニヴァーサル・ミュージック UCCP7069 1985年録音 )

この盤は現在では1000円の廉価盤として再発売されています。



今日の音楽カレンダー

1828年 初演 シューベルト 歌曲集「冬の旅」前半12曲
1886年 初演 ブルックナー 「テ・デウム」
1935年 生誕 シェリル・ミルンズ(バリトン

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ともの『 今日の一花 』      寒あやめ


これも旧画像です。


1/10撮影地 奈良県・石光寺 2005年1月19日





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2007年01月10日 01時07分25秒
コメント(14) | コメントを書く
[クラシック音楽] カテゴリの最新記事


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


Re:シューベルト 歌曲集「冬の旅」(01/10)  
たけぽ2001  さん
寒あやめというのもあるんですね。
冬場はほとんど咲く花もないと思っていましたが、以外とたくさんの花が咲いていることに驚きます。
この花だけ見たら春の盛りといった趣ですが。
(2007年01月10日 01時07分39秒)

素晴らしい☆  
麻由子 さん
はじめまして!
音楽と花。どちらも私は大好きです。
その両方があるサイトに、感激です!!
過去の記事も、いくつか拝読させていただきました。
とても参考になります。
また時々お邪魔させてくださいね♪
(2007年01月10日 01時27分32秒)

たけぽ2001さん、あrがとうございます  
とも4768  さん
たけぽ2001さん
>寒あやめというのもあるんですね。
>冬場はほとんど咲く花もないと思っていましたが、以外とたくさんの花が咲いていることに驚きます。
>この花だけ見たら春の盛りといった趣ですが。
-----

この花は1月限定として咲いています。 ほとんどお寺に咲いています。 有名なのが奈良・石光寺なんですが、今月末までが見頃だそうです。 今年も寒牡丹の観頃を逸してしまいました。

(2007年01月10日 05時55分01秒)

麻由子さん、ありがとございます  
とも4768  さん
麻由子さん
>はじめまして!素晴らしい☆
>音楽と花。どちらも私は大好きです。
>その両方があるサイトに、感激です!!
>過去の記事も、いくつか拝読させていただきました。
>とても参考になります。
>また時々お邪魔させてくださいね♪
-----

ご訪問と書き込みに感謝致しております。独断と偏見の記事ですが、2004年の8月以来同じスタンスで毎日更新しています。 書きたい音楽記事はまだまだ無尽蔵のごとくありますから、どうぞ期待してください。 ご訪問を楽しみにお待ち致しております。

(2007年01月10日 06時05分15秒)

Re:シューベルト 歌曲集「冬の旅」/寒あやめ(01/10)  
おはようございます。
「冬の旅」もフィッシャー=ディスガウも、大好きです。
ディスガウのコンサートに行ったことを思い出しました。
もう20年以上前のことです。
素晴らしかったです。 (2007年01月10日 09時43分45秒)

Re:シューベルト 歌曲集「冬の旅」/寒あやめ(01/10)  
またまた素敵なお話をありがとうございました。
不勉強なもので・・、ともさんのお話をただただ「へぇ~」「ふぅ~ん」と読み見入ってしまいました。
『寒あやめ』の写真で我に返った感じです*^-^*

今日はこれからピアノの研究会なんですが、その前にこの記事を読ませていただいてよかったです♪
ちょっと「冬の旅」を弾いてから出かけてみます☆
24曲目、今までとは違った感覚で弾いてみることが出来そうです。
ありがとうございました(^0^)
(2007年01月10日 15時10分16秒)

カニの床屋さんさん、ありがとうございます  
とも4768  さん
カニの床屋さんさん
>おはようございます。
>「冬の旅」もフィッシャー=ディスガウも、大好きです。
>ディスガウのコンサートに行ったことを思い出しました。
>もう20年以上前のことです。
>素晴らしかったです。
-----

ディースカウの歌唱は時には技巧的過ぎるきらいもありますが、聴いているうちにそれも忘れてしまうほどに歌の世界に引き込まれてしまいますね。


(2007年01月10日 17時18分18秒)

しあわせのたねさん、ありがとうございます  
とも4768  さん
しあわせのたねさん
>またまた素敵なお話をありがとうございました。
>不勉強なもので・・、ともさんのお話をただただ「へぇ~」「ふぅ~ん」と読み見入ってしまいました。
>『寒あやめ』の写真で我に返った感じです*^-^*

>今日はこれからピアノの研究会なんですが、その前にこの記事を読ませていただいてよかったです♪
>ちょっと「冬の旅」を弾いてから出かけてみます☆
>24曲目、今までとは違った感覚で弾いてみることが出来そうです。
>ありがとうございました(^0^)
-----

いつもご訪問をいただき、ありがとうございます。 これからも自分の持っている経験・知識を日記に書いていきますのでよろしくお願い致します。

ピアノの勉強に頑張って下さい。


(2007年01月10日 17時21分08秒)

Re:シューベルト 歌曲集「冬の旅」/寒あやめ(01/10)  
深い精神性を感じながら鑑賞できる音楽の世界。また一つクラッシク音楽の楽しみ方を教えてもらえてとても嬉しく思います。
いつも美しい言葉で書き綴られたお言葉にこころが洗われます。ありがとうございます。 (2007年01月10日 18時35分47秒)

Re:シューベルト 歌曲集「冬の旅」/寒あやめ(01/10)  
いちき さん
あけましておめでとうございます。
不思議なことなのですが、冬の旅の一部を口ずさんでいました。ともさんの日記のタイトルを読んでドキッとしました。
やはりディ・スカウいいですね。
(2007年01月11日 01時43分56秒)

ねこまめんたさん、ありがとうございます  
とも4768  さん
ねこまめんたさん
>深い精神性を感じながら鑑賞できる音楽の世界。また一つクラッシク音楽の楽しみ方を教えてもらえてとても嬉しく思います。
>いつも美しい言葉で書き綴られたお言葉にこころが洗われます。ありがとうございます。
-----

こちらこそありがとうございます。 歌曲の世界は一人の歌手、伴奏者(ほとんどがピアノ)によって語られる短い時間に人生が凝縮された深い精神性を歌った稀有の音楽空間で、聴く方にも緊張を与える音楽で、聴く側にも相当の覚悟を要求される世界ですが、歌の世界を理解した時の満足感はオペラのそれとは違ったものがあります。


(2007年01月11日 02時30分21秒)

いちきさん、ありがとうございます  
とも4768  さん
いちきさん
>あけましておめでとうございます。
>不思議なことなのですが、冬の旅の一部を口ずさんでいました。ともさんの日記のタイトルを読んでドキッとしました。
>やはりディ・スカウいいですね。
-----

とても偶然でしたね。 ディースカウの世界は独特ですね。 時には技巧臭いと感じることもありますが、深い精神性の表現の前にはそれも消えてしまい、歌曲の素晴らしさを教えてくれますね。


(2007年01月11日 02時33分53秒)

Re:シューベルト 歌曲集「冬の旅」/寒あやめ(01/10)  
オケイ6306  さん
あけましておめでとうございます。
ご挨拶がすっかり遅れてしまって失礼しました。
ともさんのページにお邪魔すると長くなってしまうのですが・・、今「菩提樹」を聴いています。
例のCD.なのですが、フィッシャー=ディスカウです。別にカセットでジェラール=スゼー(ビロードの声)と聴き較べています。どちらも優しさや激しさが見事に表現されているようです・・。
別の曲も聴いてみなければ・・・ね!

“寒あやめ”が綺麗ですね。
2年も前に、こんなに素敵な写真を撮られていたのですね。
音楽・写真 これからもいろいろ教えてくださいね。
今年もどうぞ宜しく御願い致します。 (2007年01月11日 23時06分07秒)

オケイ6306さん、ありがとうございます  
とも4768  さん
オケイ6306さん
>あけましておめでとうございます。

新年明けましておめでとうございます。 お久しぶりです。

>ご挨拶がすっかり遅れてしまって失礼しました。
>ともさんのページにお邪魔すると長くなってしまうのですが・・、今「菩提樹」を聴いています。
>例のCD.なのですが、フィッシャー=ディスカウです。別にカセットでジェラール=スゼー(ビロードの声)と聴き較べています。どちらも優しさや激しさが見事に表現されているようです・・。
>別の曲も聴いてみなければ・・・ね!

スゼーの歌唱はとても柔和な表現が魅力ですね。LP時代には擦り切れるほど聴いていました。

>“寒あやめ”が綺麗ですね。
>2年も前に、こんなに素敵な写真を撮られていたのですね。
>音楽・写真 これからもいろいろ教えてくださいね。
>今年もどうぞ宜しく御願い致します。

今年も読んでいただいて楽しめる記事にしたいと張り切っています。

本年もよろしくお願い致します。
(2007年01月12日 03時51分00秒)

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

プロフィール

とも4768

とも4768

コメント新着

http://buycialisky.com/@ Re:ドニゼッティ 弦楽四重奏曲/オキザリス(08/31) cialis in der apotheke ohne rezeptcost …
http://viagravipsale.com/@ Re:ドニゼッティ 弦楽四重奏曲/オキザリス(08/31) interacoes medicamentosas viagra <a…
shoko@ Re:デュカス ピアノソナタ/初雪草(08/29) 初めまして。 デュカスのピアノソナタを聴…
ifJU8X Really enjoyed this blog article.Much thank@ ifJU8X Really enjoyed this blog article.Much thanks again. Great. ifJU8X Really enjoyed this blog article…
ONY72s I cannot thank you enough for the post. Wil@ ONY72s I cannot thank you enough for the post. Will read on... ONY72s I cannot thank you enough for th…

フリーページ


© Rakuten Group, Inc.
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: