プレリュード

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2007年05月03日
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カテゴリ: クラシック音楽
今日のクラシック音楽

グスタフ・マーラー(1860-1911)の音楽について書こうとすると、とても億劫になります。 彼の音楽 - 特に交響曲は彼自身が述べていることが多くて、それに惑わされてしまいがちになります。 その言葉も非常に哲学的な言葉が多くて、その意味を汲み取ろうとすると音楽の本質を見失うことがあります。 今までもマーラーの交響曲について書きたいという意欲がありましたが、どこから手をつけていいのかわからないという面がありましたのであまり書いていなかったのですが、昨日久しぶりにマーツァルが2005年にチェコフィルを振った昨年リリースされた新盤を聴いて、俄然書こうと意欲を燃やしたわけです。

マーラーは1860年7月7日にボヘミアで生まれたユダヤ系で、宗教はユダヤ教ですが1897年にローマ・カトリックに改宗しています(このことは今日の話題曲 - 交響曲第3番ととても密接な関係にあります)。

マーラーの時代 - 19世紀後半から20世紀前半にかけての時代はどういう作曲家がいたのか、ということから書いてみましょう。

1860年 マーラー誕生 ブルックナー36歳
1862年 ドビッシー誕生
1864年 R.シュトラウス誕生
1896年 マーラー36歳で交響曲第3番を書き上げた。 ブルックナー72歳で他界。

1911年 マーラー 51歳で他界。 この時、バルトーク30歳、アルバン・ベルグ26歳、 ドビッシー49歳、ラヴェル36歳、シェーンベルグ37歳
     ストラビンスキー29歳 プロコフィエフ20歳

これがマーラーの生きた時代の背景です。

マーラーを語る時にいつも出てくる場所にオーストリアのシュタインバッハという地名があります。 ここは1893-1896年までの夏の間に過ごした場所です。 この第3番は1896年に脱稿していますから、この曲もシュタインバッハで書かれています。 彼が滞在した家の写真を見ますと、アッター湖畔にあり風光明媚なところです。 きっと夏の陽光を浴びる湖や小高い緑の丘などは、作曲に専念するのに格好の場所であったろうと、この写真を見ると容易に想像できます。

マーラーの音楽はよくボヘミア的な影を色濃く残している、とか後期ドイツ・ロマン派音楽とか言われています。 しかしマーラーの音楽は、ドヴォルザークやスメタナなどのボヘミア的土着性の強い、ボヘミアの郷愁を感じるほどではなく、都会的で洗練された音楽が響いてきます。

この第3番はそういうボヘミア的なところがなくて、マーラー自身が「自然」と対話をしながら、やがて神への愛へと上りつめていくような、そういう言葉を残しています。

マーラーはこの曲で自然について語ろうとしています。 それがシュタインバッハでの自然の風景と重なってきます。 自然との触れ合いが反映していることは容易に想像できます。
しかし、ベートーベンの「田園」のように、自然の中で心に浮かぶ感情を表出しようと書いた音楽でもありません。

またこの時期マーラーの弟がピストル自殺をじた時期でもあり(1895年2月)、この曲の全曲初演(1902年6月12日)までに前述のようにキリスト教への改宗もあり、この曲は決して自然賛歌という形にならず、ニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」からの言葉を引用したアルト独唱を入れた第4楽章や子供に合唱を入れて「天国」への憧れの気分を入れた第5楽章、そしてフィナーレでは「神への救済を求める」ような音楽になっています。

現在は楽譜から消されていますが、この曲へのマーラーへの想いが語られている各楽章のタイトルがあります。 それを最後に書いておきますが、私はこういうマーラーの複雑な思いにとらわれることなく、素直に音楽を楽しめばいいと思っています。 

マーラーの交響曲は演奏時間が長いの特徴ですが、この第3番は最も長い曲でほぼ95分ー100分かかります。 第1楽章だけでベートーベンの第5番「運命」がすっぽりと入る長さです。

第1楽章

行進曲のリズムがこの楽章全体を支えており、まるで夏が行進してくるように音楽は進み、緑の新芽の吹き出すのを楽しむかのように自然の造形を敬い、楽しんでいるかのような音楽で、全曲中最も楽しい楽章です。

第2楽章 「牧場で花が私に語ること」

とても優美なメヌエットで野の花たちへの感謝のような音楽が展開しています。

第3楽章 「森の動物たちが私に語ること」

歌曲集「少年の魔法の角笛」の旋律がベースとなっており、とても美しく、ホルンの民謡調の音楽と好対照をなしている最もボへミヤ調の濃い音楽です。

第4楽章

アルト独唱がニーチェの「ツァラトゥストラはこう語りき」の一節を歌う楽章で、月の明るい夜に澄んだ夜気の瞑想的な情緒が、マーラーの宇宙観をよく表現した全曲中白眉の楽章の一つ。

第5楽章 「天使が私に語ること」

「神の愛」を語るかのような児童合唱による天国的な美しさの音楽が聴こえてきます。 女性合唱、アルト独唱も加わり対位法的に音楽が展開していきます。

第6楽章 「愛が私に語ること」

穏やかに歌われる主題が実に美しい旋律でやがて大伽藍建築のような壮絶なクライマックスへと導かれて全曲が閉じられます。

一度は聴いておきたいマーラー畢生の大作で、全曲はとても聴きやすい後期ロマン派の音楽で、アルト独唱、児童合唱、女性合唱を交えた大管弦楽による「自然賛歌」を歌いあげた音楽です。

愛聴盤 

(1)ズデニック・マーツァル指揮 チェコフィルハーモニー管弦楽団

OVCL00219 2005年5月録音
(EXTONレーベル OVCL00219 2005年5月録音)

何よりも録音の優秀なのが目を見張るばかりで、居ながらにしてコンサートホールで聴くような超優秀録音。 マーツアルの演奏は色彩豊かでどの楽章も光り輝くようで、従来のマーラー演奏とは一線を画す彩りを伝える名演。

(2)エリアフ・インバル指揮 フランクフルト放送交響楽団

COCO70473 1985年4月録音
(DENON CREST1000 COCO70473 1985年4月録音)

インバルの演奏はテンポが妥当で、それでゆったりとしたキメ細かな演奏を繰り広げており、そんなに数多くは聴いていない曲ですが、普遍的な演奏で録音も優秀。 紹介盤としては持っていませんが、Briliantレーベルで廉価で全集が出たライセンス盤で聴いています。

(3)ガリー・ベルティーニ指揮 ケルン放送交響楽団

EMI ハルモニア ムンディ 7475688 1985年4月録音
(ハルモニア・ムンディ EMIレーベル 7475688 1985年4月録音 輸入盤)

少し遅めのテンポでマーラーの音楽世界を深い響きで表現した、指揮者ベルテーニがマーラーに寄せる共感がひしひしと伝わってくる畢生の名演盤。 ベスト盤という言葉を極力使いわないようにしていますが、この曲に関する限り私が最も好きな名演奏。 録音は少しくすんだ感のある音づくりですが、それがこの曲のイメージにピッタリで、フィナーレ楽章の盛り上がりは筆舌に尽くしがたい演奏。 ただこのディスクを単売で見つけることは難しく、現在はベルティーニ追悼としてマーラー交響曲全集となっています。 単売での再発売が望まれる世紀の名盤だと思います。

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今日の音楽カレンダー

1856年 没  アドルフ・アダン(作曲家)
1917年 初演 ブロッホ ヘブライ狂詩曲

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ともの『 今日の一花 』     小手毬


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最終更新日  2007年05月03日 09時24分06秒
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