プレリュード

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2007年12月29日
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カテゴリ: クラシック音楽
室内楽の楽しみ 』      ベートーヴェン作曲 ヴァイオリンソナタ第9番イ長調 


ベートーヴェン(1770-1827)はヴァイオリンソナタ第5番「春」を書いた後、6番ー8番を作品30として一括して出版したあとに、1803年5月にイ長調の第9番「クロイツェル」を書き上げています。 ベートーヴェン32歳の春でした。 交響曲では3番「英雄」が完成間近の頃にあたります。 

彼はヴァイオリン・ソナタを全部で10曲書いていますから、「傑作の森」と呼ばれる中期以前の第1期にすでに9割のソナタを書き上げてしまったことになり、最後の10番の完成はほぼ10年経った1812年まで待たねばならないのです。そして1812年以降、亡くなるまでの15年間はとうとうヴァイオリンソナタを書くことがありませんでした。

さて、この第9番の「クロイツェル」ですが、様々なエピソードが残されています。
第一に、ベートーヴェン自身が副題をスコアに書いているのが「ヴァイオリンの助奏を伴うきわめて協奏的なピアノのためのソナタ」と指示していますが、とんでもない、この曲は「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」と呼ぶべきで、ヴァイオリンは助奏どころかきわめて二重奏的な色合いの濃い曲となっています。 

これは前作の第5番「春」についても言えることですが、ヴァイオリンとピアノのパートが独立性が高く、まるで2つの楽器による二重奏といった趣きで、決してヴァイオリンパートは「助奏」ではありません。 もっとも曲を聴けばそんなことはすぐにわかるくらいにきわめて優れた二重奏曲であると理解はできますが。

演奏時間は30分を超す雄大・壮大な規模で書かれており、3楽章形式です。

第1楽章 は、二つの楽器の対話で進む緊張感にあふれたアダージョ・ソステヌートで始まり、大規模な主部へと進んでヴァイオリンとピアノの掛け合いによる張り詰めた緊張を伴う音楽に耳を奪われます。 ベートーベンのほとんどの音楽がそうであるように、とても腰が据わった安定感のある旋律・リズム・和声で貫かれた堂々とした音楽です。

第2楽章

終楽章 は、プレストでまるでイタリアの「タランテラ舞曲」を想起させるようなリズミックな躍動感にあふれ、華麗で、力強い音楽で締めくくられています。

まさにヴァイオリンソナタの音楽史上でも稀な大傑作です。

ベートーヴェンは、この曲をイギリス国籍のブリッジタワーというヴァイオリニストに献呈するために書いたと言われています。 ですから初演はこのブリッジタワーとベートーヴェンによって行われたのですが、完成が遅れたために初演のステージでは、楽譜の清書が間に合わず、第2楽章はヴァイオリンは草稿のまま、ピアノはスケッチで演奏されたというエピソードが残っています。

ブリッジタワーに献呈するために書かれたこの曲が、何故「クロイツェル」なのか? 

それは初演のあとベートーヴェンとブリッジタワーが不仲となり、フランスのヴァイオリニストのロドルフォ・クロイツェルに献呈されてこの副題がつけられたそうです。

しかし、クロイツェル自身がベートーヴェンの激しい音楽を好んでいなかったので、彼によってこの曲は一度も演奏されなかったという後日談が残っています。

この曲にまつわる話は、ロシアの文豪トルストイが書いた小説「クロイツェル・ソナタ」があります。 

倦怠期のロシア貴族の一家庭の不倫事件を扱っており、貴族の妻が家庭に出入りするヴァイオリニストと恋に落ち、夫が嫉妬のあまり妻を殺すという物語ですが、その不倫の発端となったのがこの「クロイツェル・ソナタ」の合奏だったのです。 トルストイはこの小説の展開上、この曲を重要な予想として扱っています。

またチェコの作曲家ヤナーチェックは、このトルストイの小説を読んで「トルストイのクロイツェル・ソナタに霊感をうけて」と題した弦楽四重奏曲第1番を作曲しています。


愛聴盤

(1)ギドン・クレーメル(VN)  マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)

UCCG7062


緊張感の漲った演奏で丁々発止と受け渡しをしながら演奏される名人芸に酔うのに格好のディスク

(2)ダヴィッド・オイストラフ(VN)、レフ・オボーリン(ピアノ)

UCCP7040 1962年録音 5/24
(Philps原盤 ユニヴァーサル・ミュージック 1967年録音)

風格がただよう、オイストラフの遅めのテンポが王者の足取りのように聴こえてきます。 しかも力強い気迫のこもった熱い演奏で、40年以上の前の録音というのを忘れてしますほどの堂々とした熱演で、これこそ名演奏と呼べる記録だと思います。LP時代から一体何度再発売を繰り返してきたことでしょう。 現在は1000円盤で第5番「春」とのカップリングもうれしいディスクです。

(3)アルテュール・グリュミオー(Vn) クララ・ハスキル(P)

UCCP3438


私が14-5歳の頃に買って聴いた懐かしい録音で、しなやかで温かみのあるグリュミオーのヴァイオリンとハスキルの奏でるピアノは、至福の時空へ誘ってくるれような演奏です。 これも何度再発売されているかわからない程リリースを繰り返しています。 現在は「歴史的名演シリーズ」として1200円盤として再発売されています。

(4)西崎崇子(Vn) イェネ・ヤンドー(ピアノ)

5/24
(Naxos 8.550283 1989年録音)

可もなし不可もなしと言ってしまえばそれまでですが、西崎の実に素直な音色が美しい演奏で、こういうのを「普遍的」と呼べる演奏ではないでしょうか。 知人のヴァィリオンの先生に聴いてもらったところ「こんなんやったら私でも弾けるわ」と言われたそうです。それほどに西崎の音色は素直そのものです。Naxos社長夫人という地位にありながら、さすが世界で最も録音の数が多いヴァイオリニストの演奏と肯ける模範的で万人に薦めたいディスクです。 価格も1000円。 ベートーベンの「スプリング・ソナタ」とのカップリングです。

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今日の音楽カレンダー

1876年 誕生 パブロ・カザルス(チェリスト)
1893年 初演 ドビッシー 弦楽四重奏曲
1906年 初演 シベリウス 交響詩「ポヒョラの娘」
1965年 没  山田耕作(作曲家)
2001年 没  朝比奈 隆(指揮者)






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最終更新日  2007年12月29日 00時05分31秒
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