桃との出逢い

母がウサギをもう一匹欲しいと言い出し、私は飼育委員のクラスメイト、チャコ(あだ名)に掛け合った。
チャコは言った。
「もう大人のしかいないよ？」

ちょっとガッカリ。
その帰り道、学校の裏を通りかかった時だった。

「ゆこちゃん！」
隣のクラスの瑞樹ちゃんと、チャコが白いウサギを抱いてフェンス越しに駆け寄ってきた。

「一匹だけ残ってた！この子でもいい？」

桜より一回りほど大きかっただろうか・・・・。
それでもゆこタレは、そのデカイうさぎを受け取った。

家に帰ると、家族みんな、あんぐり口をあけた。

「で、でかいな・・・」

今から考えれば仔ウサギだったが、桜から比べたら、とてつもなくデカイ生き物に見えたのだ。
しかも愛想もなけりゃウサ相も悪い。

「なんでこんなの貰ってきたの。」

母と祖母は口を揃えて言った。

「これしかいなかったの。」

ゆこタレだって不本意だ。
コイツは多分、桜を貰ってくるときに
「コイツだけはいらない・・・」と思ったウサギだったからだ。

桜と一緒にしても、桜にされるがまま。
乗っかられたり、はたかれたり・・・・・・・。
ドッシリとして、じっとして・・動かない。
しかも食べない！
桜も食べなかったけれど、それは来たばかりの時の話。
桃は一週間後もずっと食べない。

今思えば、あの時、桃は寂しかったのかもしれない。
飼い主は何かにつけて桜ばかりを可愛がっていたから。

「桃、かわいくなーい。」
一日に何度言っていたか・・・。
本当、ごめんね。

それは桜の死後に判明したことだ。
桜が死んでからというもの、桃は少しずつ自己主張するようになり始めた。
桜が死んでからはじらくは、どことなく落ち着かず、桜を探しているようにすら見えたが、
時間に経つにつれ、それとは違う行動を見せるようになった。

飼い主の膝に乗りたがったり・・・、気を引くためか、エサ入れをガチャガチャ動かしたり。
飼い主も次第に、桃に心動かされ、桃を可愛いと思うようになった。

そんなある日、ゆこタレは桃を家の中に入れて、フローリングの上に置いた。
その瞬間に桃は痙攣を引き起こし、何度も体が飛び跳ね、１mほど何度も床に体をたたき続けた末、気を失ってしまった。

「また私、桃も殺したの！？」

頭の中が真っ白になったが、その場に居た母が桃を抱き上げ、ずっと桃を抱いていた。
しばらくして目を醒ましたが、体を固く震わせている。
それから半日ほど、母はその場で桃を抱き続けた。
その日から桃は、飼い主を慕うようになった。
人見知りもしない良い子です。

今となっては自分がウサギか人間かという区別も付いていないかもしれないほどに変わっている。

桃ももう７歳。
ウサギ世界で言えば、もう５０代。
これからまだまだ長生きしてもらいたいものだ。