スーフィーの物語「規則の限界」

規則の限界


偉大なスルタンのマフムードはある日、
彼の都のガズナの通りで、やせ細った人夫が大きな石を背負い、
苦痛に満ちた表情で運んでいるのを見た。
その境遇を哀れに思い、同情の念を禁じ得なかったマフムードは、
大声でその男に命じた。
「人夫よ、石を降ろすのだ」
男はただちにスルタンのその命令に従った。

その後、石はそこに置かれたまま、何年も人々の往来を妨げた。

ある日、住民達の代表がスルタンの元にやってきて、
石を取り除いて欲しいと、嘆願した。

しかし、マフムードは、民を治める者の分別を働かせて、
このように答えたのであった。
「民の者が、君主は気まぐれで命令していると思わないように、
いったん下された命令を、他の同じレベルの命令によって撤回してはならない。
あの石は、あのままにしておくのだ」

こうしてその石は、マフムードの存命中、道に置かれたままだった。

そして彼が亡くなったときでさえ、
スルタンの命令に対する尊敬の念から、動かされることはなかった。



 石にまつわるこの話は、人々によく知られていた。
彼らは自分達の能力に応じてその意味を3通りに解釈していた。

体制に反抗している者たちは、
権力を誇示しようとする統治者の愚かさをよく表している、
と考えていたし、

権威を崇め奉っている者たちは、
それがいかに不便なことであろうと、スルタンの命令には敬意を抱いていた。

そしてこの話を正しく理解した者たちは、
不注意な者たちの世評に無頓着な、
このスルタンの意図した真の教訓を見抜いた。

迷惑な場所に障害物を置き、
しかもそれを放置しつづけている理由を広めることによって、
マフムードは理解する能力のある者たちに次のように教えていたのである。

世俗的な権力には従うべきだが、
固定化された規則に従って統治する者が、常に人々の益になるとはかぎらない、
と。

それ故、この教訓を読み取った者は真理の探究者の列に加わり、
多くの者が道を発見した。

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ここで用いたのは、1965年に没したスーフィーのシャイフ
カンダハールのダーウードの教えの一部であり、
人々は意識の度合いに応じて他者の行為をさまざまなレベルで理解するという、
スーフィーの考えが典型的に表現されている。
スルタンのマフムードが用いたこの啓発の方法は、スーフィーの導師たちの
伝統的な手法であり、次の一句に要約することができる。

「壁に向かって語れ。そうすれば、扉が開くであろう」
mori
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以上、Tales of the Dervishes ダルヴィーシュの伝承
『スーフィーの物語』平河出版社より抜粋


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