りゅうちゃんミストラル

りゅうちゃんミストラル

2009.11.18
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カテゴリ: 読書




29歳から30になる派遣社員の女性ナガセが主人公。
彼女は工場でクリームの検品作業をしている。
友人のカフェでアルバイトもしている。
老人相手のインターネット講師とデータ入力も兼任。
豊かではないが忙しい毎日だ。

その工場で、彼女は一枚のポスターを見つける。
163万円で世界一周ができるというクルーズ船の募集だった。
(この値段から考えると、 ピースボート あたりしかない)
この金額は、彼女の年収とほぼ同じ。

ナガセは離婚を経験した母親と実家で同居。
倹約生活で163万円貯めようと決意する。
だがナガセの家に、元同級生が幼い娘とともに転がりこんでくる。
夫との相違から、離婚を考える元同級生。

女性の視点であることがよく分かる小説。
少し前に 「対岸の彼女」 (角田光代)を読んだだけに余計そう思う。

人は、途中を生きている。
始めと終わりを見た人はいない。
歴史の途中で人は生まれ、最後を見届ける前に死ぬ。
日常を描くとはそういったことだと私は考えている。

小説の目的は以下の二つの集約される。

「人生とは何か」「人とは何か」



それはそれでいい。
しかし、退屈な小説であっても主人公に感情移入できる部分がほしい。
「ポトスライムの舟」に、私はその部分を見つけられなかった。
読者が一度でもそのように意識してしまった場合。
残りを読むのは苦痛でしかない。最後まで読んだら失望が残る。


「十二月の窓辺」

この本に収録されているもうひとつの作品。
印刷会社勤務の女性ツガワが女性係長からパワハラを受ける。


その間の葛藤が描かれている。

ツガワの選んだ退職の判断は正しいと私は考えた。
退職というとこんなこと言われるかもしれない。

「何だ我慢のない!」
「次の職場でもきっと同じだよ」

作品の中でも表現されていたが、こうした意見は昔もあった。
だが、入水自殺騒動を起こすのなら退職のほうがいい。
現代社会は狂っている。
だからこそ鬱になったり、自殺者が3万人も出たりする。

いくつか苦言を。
係長の悲劇が本当なのか否かは分からない。

それが私には分からなかった。正直、消化不良だった。
理解しにくい部分すらあった。


アマゾンで検索してみると、この作品は評価が分かれている。
正直に書くと、私が考えるより評価が低い。

文学と読者の乖離は数年前よりさらにひどくなっている。


「芥川賞受賞作は純文学だから売れない」というのは常識。
しかし「売れなくてもいい」わけではない。
読者に迎合してまで売れる必要はない。
結果として「売れなくても仕方ない」ということ。

何人かの選考委員と呼ばれる「常識人」。
彼らによってこの作品は芥川賞が決まった。
だが私にはその理由が理解できない。
「如実に現代社会を表現できている」とでも言うのか。

津村記久子の作品は他にもいくつかある。
しかし私はもう一冊読みたいとは思わなかった。

読者には内容が批判でも書評を書くこと。
そして「もうこれ以上読まない」という選択肢がある。

読みたい本は他にも沢山ある。
それは彼女の作品である必要を今は感じない。

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関連記事

新芥川賞作品「ポトスライムの舟」を読む

↑この小説について書いた記事。
この方も芥川賞受賞について疑問を投げかけている。
この記事に寄せられたコメント(それに対する反論)も参考になる。

ポトスライムの舟 津村記久子

↑この作品に対して高評価の記事。
その理由についてこう記述している。

>人間を人間として扱わなかったことが何を引き起こすのか、そして今の日本の搾取の構造も含めてこの作品が突きつけたものは重い。

不公平にならないよう、こうした記事も紹介しておく。

『ポトスライムの舟』津村記久子

ポトスライムの舟

ポトスライムの舟 / 津村記久子

「ポトスライムの舟」津村記久子

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最終更新日  2009.11.19 18:52:08


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