ポカポカ村物語



この間ご近所の人とポンポコ山にキノコ狩りに行きました。

一時間に一本しかないバスで山のふもとまで後は徒歩で頂上を目指します。

そこで私は不思議な体験をしました。

前日の夜の雨で道は多少ぬかるんでいる中を歩いていて足を滑らせがけの下にまっさかさまに落ちてしまいました。

何時間たったでしょう?

気がつくと川のそばで倒れていました。

周りを見回すとそばで心配そうに一匹の黒猫が私を見ていました。

こんな山の中に黒猫が?人に飼われているなら誰か人間が来て助けてくれるかも?とぼんやりとした頭で考えました。

少し頭を打ったようです。落ちた拍子に足首も痛めたようです。

起き上がろうとしても足に力が入りません。

突然声がしました。

「動いちゃダメだよ、今仲間を呼ぶからじっとしてて」

周りを見回しても人の姿はありません。

黒猫が近づいてくるとにっこり笑いました。

「僕は黒猫のクロ、僕たちの村で傷の手当をして動けるまで休んでいくといいよ」

なんと話しかけてきたのは黒猫でした。

私は夢を見ているのか?とぼんやりしていると岩陰から大きな猫が数匹やってきてあっという間に私を担ぎ上げてどこかへ連れて行こうとします。

逆らおうにも体は動きません。

「大丈夫だからね、ちょっとビックリしたでしょう?」

クロネコ君は話しかけます。

山の中をしばらく歩くと急に視界が開けて数軒の家がある場所に付いた。

古い昔風の農家が並んでいる。

クロネコ君は「ようこそ、我らの理想郷ポカポカ村へいらっしゃいました」

丁寧にご挨拶しました。

私はその中の一軒の家に運び込まれました。

台所からはいい匂いが立ち上っています。

クロネコ君は台所に向かって話しかけました。

「ユキちゃん、花ちゃんお客様がいらっしゃったよ、夕食を追加してね」

台所から二ひきのかわいいメス猫が顔を出してにっこり笑いました。

「まかせて、飛び切りのご馳走を作るから」

見ると猫娘たちはおそろいの三角巾とエプロン姿。

台所で忙しく料理の支度をしているようです。

板の間の布団に寝かされて寝ていると夕方になって猫ちゃんたちが次々に帰ってきます。

クロネコ君は僕にそのこたちを紹介してくれる。

「君を運んできた大猫はゴン、ケンスケ、ポン太、猫なのにポン太はおかしいよね?」

そういってクロネコ君はちょっと笑った。

「台所にいたのがユキちゃんと花ちゃん、姉妹なんだよ。中々美人でしょ?」

そういいながらクロネコ君はまた笑った。

そのほかいろんなネコチャンを次々に紹介してくれたけど多すぎて一度に覚えられない。

やがて夕食の準備が整って宴会が始まった。

踊ったり歌ったり、山の奥なのにすばらしいご馳走が目の前に用意されていた。

囲炉裏の前の一番暖かくていい場所を勧められて僕は座った。

僕は足の痛みも忘れて楽しんだ。

翌朝僕は日が高くなるまで寝ていた。

目が覚めると周りは静かで昨日のクロネコ君だけしかいない。

「皆は?」と聞くと「皆は今日の仕事に出かけたよ」と話した。

「ココは猫ちゃんたちの村なの?」と僕は聞いてみた。

「そうだよ、猫の自立と自由を求めて3年前に僕ら5匹で始めたんだ」

「噂を聞いて全国から猫が集まってきて今ではちょっとした村になった。」

「僕らがこの廃村になった家をきれいにして住めるようにしたんだ」

「畑で農作物を作る班、木を切り出す班、川で魚を取る班、後は料理や洗濯をする班皆いろんな班に分かれて働いているんだ」

「空気はいいし人間はいないしいいところだろう?気に入ったらいつまでいてもいいんだよ」

足は昨日より痛みが少ないようだ。

昨日クロネコ君が村に伝わる薬だといって緑の歯磨き粉のようなものを足に塗ってくれた。

それがよく効いたらしい。

僕はその村に10日くらい滞在した。位と言うのは時計がないからはっきりしたことは分からない。

何もしないでご馳走になってばかりはいられないので僕は子猫を集めてお話を聞かせたりどんぐりでコマを作ったりして教えてあげた。

夢のような楽しい毎日だった。

でも帰らないわけには行かない。

ある日、僕は意を決してクロネコ君に明日の朝村を出て家に帰るつもりだといった。

クロネコ君は寂しそうに笑った。

「そうなの、寂しくなるなあ」

次の日の朝早く僕はクロネコ君に途中まで見送ってもらって家に帰ることになった。

僕の姿が見えなくなるまでクロネコ君が手を振ってくれた。

さよなら、ネコの理想郷、ポカポカ村。

あれからまた何度も行こうとしたけど二度とは行けなかった。

僕は夢を見ていたのだろうか?こんな話をしても君は信じてくれるかい?

この地球のどこかにきっとあるんだ。ポカポカ村。

またいつかクロネコ君に会いたいと僕は思っている。



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