あんのうんワールド

あんのうんワールド

小説




突如、陽は瑠璃色の大きな剣を横にし、ドスランポスの強力な跳び蹴りを防いだ。
「我、瑠璃姫守る戦士なり…」
瑠璃の大剣を横に振り、ドスランポスに間合いを取らせた。
「よ、陽?」
姫が傷口を手で押さえ、目の前に立つ陽に言った。
「ハァー…ハァー…姫…」
瑠璃の剣は鱗に形を戻し、陽は倒れ込んだ。
ドスランポスは方向を変え、廊下を駆け出した。
「陽!」
皆が近づいて来た。
体には目立つ傷は無いものの、背中にさっき強打した時の痣が出来ていた。
「こっちも一旦体勢を立て直そ。」
山崎が言った。
「くっそぉお!次は絶対ぶっ殺す!」
康二がそう言って陽を背負った。荒雄と今河も神戸が一人で背負い、屋上へ向かった。
「皆!大丈夫だった?」
小林が駆け寄って来た。
「こいつらの手当して。」康二と神戸がケガ人を降ろした。
「わかった。…でアイツは?」
「…逃げられた。」
姫が暗い声で言った。
「でも何でアイツは立ち塞がる俺達じゃなくて姫を狙ったんだよ!」
神戸が言った。
「…それに!さっきの陽の剣とか訳わかんねーよ…」
康二が言った。
「…とにかくさ、アイツをおびき寄せてこのプールに入れれば倒せるんだから!皆で協力しようよ!」
渡辺先生が言った。
「私に囮をやらせて!」
「?!…駄目だ…俺がやる!」
陽が立ち上がった。
「陽!お前、それじゃ走るどころか立つのでやっとじゃないか!無理に決まってんだろ!」
康二が言った。
「私にやらせて!これ以上犠牲が出るのは嫌!」
姫は走って階段に向かった。
「俺も着いてく!」
神戸が走って姫を追った。
「…俺らも出来るかぎりの事はしようぜ!な?」
小野は手を叩いて皆を励ました。
「じゃあ俺らは薬を取ってくる。」
山崎と小野は再びペアを組んだ。
「保健室までチョッコー!」
小野は気合いを入れて走り出した。

「ごめんなさい…神戸君…私のわがままで…」
「あ、良いよ良いよ。うん…でもドスランポスがどこに居るかわかるの?」
「大体…ちょっと待って…」
姫は目を詰むって心を落ち着かせた。前、後、右、左と意識を集中させた。
ピクっと姫の体が動き、姫は指を指した。
「こっち!」
二人は走って指のが示した方へ向かった。
「や、やめて!…ハァハァ…きゃあああ!」
黄色くくりくりの目をキョロキョロさせて、獲物を追い掛け回した。
将来青くなるはずの鱗はまだ薄く、口バシは丸みを帯びていた。
それを、じっと親ランポスが見つめ、子供の狩りの練習を見守っていた。
「痛い!やめて!…ああ!」
歯は鋭くないが、人間の皮膚くらいは切ることが出来た。
3匹の子供は餌を囲み、それぞれ飛び掛かった。
「血の臭い…」
姫が鼻を押さえた。
「この中か…行くよ。」
おそらくランポスが蹴り開けたのであろうパソコン室のドアが凹み、落ちている上を通り、二人は一気に中に入った。
途端にいくつかの咆哮が聞こえ、二人は目を大きく開いた。
「危ない!」
神戸は姫を抱き、廊下へ転がった。
ドスランポスとランポスが一気に飛び掛かって来たのだ。
「助けて!」
中から女子の声が聞こえた。
「誰?!」
姫が教室へ向かって叫んだ。
「高岸だよ!…きゃあああ!!」
何かが崩れ落ちたような音がして高岸の声が止まった。
「姫!離れて!」
神戸が廊下を挟んでパソコン室と反対側の被服室のドアを外した。
ランポスがパソコン室から顔を出した。
「オラァアア!」
ドアを振り、ランポスの頭をドアの角が強打した。
直ぐさまドスランポスが飛び付いて来た。
「くそっ。」
ドアを立てて神戸は飛び掛かるドスランポスの攻撃を防いだ。
爪はドアを貫通し、神戸の体に刺さったがたいした深さじゃなかった。
「神戸君!私も!…風の声!」
胸に手を当ててからドスランポスに向かって伸ばした。
風はドスランポスの鱗を剥ぎ、数箇所から血が噴き出した。
「このヤロ!」
太い神戸の腕がドスランポスに向かって襲い掛かった。
ドスランポスは倒れたが意識はあった。
姫は急いでパソコン室に入って高岸を救助しにいった。
ドスランポスは立ち上がり鋭い牙を神戸に見せ付けた。
「へ、生憎俺はアマゾン育ちでね!そうゆー殺気は慣れてんだよ!」
神戸はドスランポスの黄色い瞳に向けて睨んだ。
ドスランポスは体勢を低くした。
「慣れてるな…」
神戸も膝を曲げて大勢を落とした。
「高岸さん?どこ?」
電気が着かないため、手探りで床を探した。
ガチャ…ガチャ…と爪が絡み合う音が周囲から聞こえた。
「え?…きゃああああ!」
3匹の子供は姫の体育着を食いちぎった。
必死に振り払おうとするが体育着に捕まるランポスを振り払ってもすぐに飛び付いて来た。
姫は倒れてもがき続けた。
「姫!今行く!」
神戸は暗いパソコン室に入った。
ドスランポスも後を追う。
神戸は跳び蹴りを交わし、近くのパソコンをたたき付けた。
「姫どこ?!」
「きゃ!…わ、私は良いから!高岸さんを!」
ビリビリと衣服が破れる音が響いた。
「目が慣れてきた!」
神戸は子ランポスに囲まれた姫の前に立って、子ランポスを取った。
そして床にたたき付け、踏み殺した。
「大丈夫?」
「うん…あんまりジロジロ見ないでよ!」
姫は体を隠した。
「高岸さんは?!」
「見当たらない!…クソ!もう目が覚めたか。」
気絶させたドスランポスが立ち上がり、暗闇でよく目立つ黄色い目をこちらに向けた。
「時間稼ぎして!私が高岸さんを!」
姫は大勢を低くして高岸を探した。
「わかったよ。…さ、ドスランポスさんよ…第二ラウンドだ!」
神戸はパソコンを持って、ドスランポスに投げ付けた。
「高岸さん?」
崩れた棚の下に血まみれの高岸が居た。
体中に傷があったが意識を失っているだけで、息はしていた。
「酷い…今助けるから。」
姫はゆっくりと高岸をパソコン室の外に運んだ。
「まずは服を探さなきゃ…」
高岸を被服室の机の下に寝かせ、姫は近くの更衣室に走った。
「コイツ…どんだけの精神力だよ!」
何度もパソコンを投げ付けても、ダメージが無かった。
「っんのやろ!」
椅子を持って飛び掛かるドスランポスに向かって投げ付けた。
ドスランポスは空中で大勢を崩し床に落ちた。
「オラァオラァオラァ!」椅子でドスランポスを叩き続けた。
「高岸さん!」
姫は制服を2人分持って来た。
「下着無いけどごめんね!」
姫は高岸に着せてあげた。
「姫!まだ?!」
神戸の声が聞こえた。
急いで自分も着替え始めた。
「ゴメンなさい!もう良いよ!」
姫は高岸を置いて廊下に出た。
「はぁ…はぁ…プールにおびき寄せなきゃ!」
神戸は息が切れて居た。
「大丈夫?!ゴメンなさい…」
「良いから、走ろう…」
「…先に行って!私が止めるから!」
姫は立ち止まり、神戸を先に行かせた。
「え?!何言ってんだよ!」
神戸は止まった。
ドスランポスは跳ぶ体勢になった。
「良いから早く!」
姫は思い切り叫んだ。
「私は振り切る力が残ってるから!」
ドスランポスの跳び蹴りを避けて言った。
「…わかった。信じる。」
神戸は思い切り走った。
「ふー…私…何言ってんだろ。逃げる力なんて今ので最期なのに…」
ペタっと床に尻を付いた。


今まで恐かったはずが今は死を目の前にしても恐く無かった。
子ランポスに噛まれた腹からは血が脈に合わせて流れた。
廊下は静かで、姫の息の音しか聞こえなく、静けさを増していた。

ドスランポスがゆっくり近づくと恐くも無いのに涙が流れた。
空気の音が耳に響き、今度は全ての音が大きく聞こえた。


ヒュッと風が耳を通り越した。窓から入る日の光りが何かに反射して、涙に濡れた視界が輝いた。
人影が駆け抜け、ドスランポスの顔を殴り付けた。
殴った勢いで体を回し、回転蹴りを首に当てた。
ドスランポスは倒れた。

「姫を泣かした奴はお前か?」
「陽…ヒクッ…うぐぅっ…」
涙を手の甲で払い、陽を見た。
陽の左手の甲に瑠璃色の痣が浮かび上がっている。
ドスランポスは起き上がり戦闘体勢に入った。
陽は急にドスランポスに突っ込み、ドスランポスの首筋に刺さったCDを抜いた。
回転してドスランポスの噛み付きを避け、姫にCDを投げた。
「姫!姫の武器です!」
フリスビーのように飛んでくるCDを姫はキャッチした。

ドックン!と姫の心臓が動き、頭の中がグシャグシャになった気がした。
「いやぁあああああ!!!!」
頭を抑えて姫は倒れた。
陽はポケットの瑠璃の鱗を掴んだ。
大剣の形に変化し、体を使い、大剣を横に振った。
ドスランポスの体に刺さり、そして吹き飛ばした。
斬られた部分から大量の血が噴き出し、ドスランポスは5メートル程吹き飛んだ。
陽は背中に大剣を背負い、立ち上がるドスランポスに向かって走った。
ドスランポスは階段の方に向きを変え、下へ逃げようとした。
「逃がさん!」
大剣を振り下ろし、道を遮った。
ドスランポスは廊下を走り、上へ上がる階段へと向かった。
頭を抑え、姫は壁に寄り掛かりながら来た。
大剣は背負い、陽は姫を支えた。
「プールまで走ります。」
陽は走りだした。姫も無言で着いて来た。
ドスランポスは長めの廊下を走った。
そして教室に入ろうとした。
「逃がさない。」
姫は人差し指と中指で挟んだCDを踊るように投げた。
CDは半円を描き戻って来て姫の後でまた半円を描き姫の足首辺りに帰って来た。
姫は軽くジャンプして回転するCDの上に爪先で乗った。
姫を乗せたCDは勢いを増し、ドスランポスに追い付いた。
ドスランポスは動きを止めて噛み付こうとした。
姫はCDの上でジャンプするとCDは姫の指に再び戻った。
姫はしゃがみ、噛み付きを回避し、体を回転させてドスランポスの反対側に回った。再び姫はCDを投げた。
今度はドスランポスの目の下を切り、戻って来た。
ドスランポスはまた向きを変え、屋上へ向かう階段へ走った。
直ぐに陽は追った。
姫も再びCDに乗り、陽に追い付いた。


「来たぞ!」
薬を取って来て、既に見張りの役割を持った山崎が言った。
ドスランポスは階段を駆け上がり、プールサイドへと出た。
姫と陽も直ぐに追い付いた。
「陽!姫!そいつをプールに入れて!」
小林が叫んだ。
陽は背中の大剣を抜き、ドスランポスを斬った。
空中にドスランポスが吹き飛ばされた。
そして水しぶきを起ててドスランポスはプールに落ちた。
傷口からでる血がプールを真っ赤に染めた。
「電力MAX!死ね!」
小林が機械にスイッチを入れた。

バジィィィィージジジジ!!!!!

学校中の電気がプールに流れ、ドスランポスは水中で黒焦げになった。
プールは蒸気を上げる程に熱くなった。
陽と姫はプールサイドに倒れ、気を失った。
その時、手の甲に瑠璃の痣は無くなっていた。

{助けて…助けて…真っ暗で何も見えない…}
{人間を…殺す…殺す…殺す…}
{ダメ…殺す…守る…殺す…}
{どうする?…殺す…守る…殺す…}
{殺せ!…殺せ!…殺せ!…殺せ!}
{殺せ…ダメ…殺せ…殺せ…}

冷たい何かが額に当たッた気がして、姫は目を覚ました。
頭痛がして、こめかみがズキズキした。
全身にひどく疲労を感じ、体は動かなかった。
しばらくすると体が軽くなり、ゆっくりと起き上がった。
「ここは…?」
洞窟に居るかのように声が何重にも帰って来た。
「町…?」
足元に人々が行き交う町があった。
MHにも出てくる小さな町。
主人公が住む町だった。

足元に感じる床のような物はゆっくりと下がり姫を町の入口まで運んだ。
「パパ?!」
少し若かったが姫の父親が前を通り、子を抱いた女性と一緒に町へ入って行った。
「パパ?!パパ?!パパァー!!!」

「姫!姫!大丈夫か?」
まだ頭痛がしたが、少しは和らいだ。
「う…うぅん…」
ぼやける視界を手の甲で払った。
「酷くうなされてたけど…」
姫の顔を覗き込む、心配そうな陽の顔があった。
「うん…大丈夫。…少し頭が痛いけど。」
ゆっくり体を起こし、陽を見た。
「何?」
「ドスランポス…は?あれ?…ドスランポス?ココどこ?何で?…思い出せ無
い!」
頭を抑えて姫は布団を顔に押し付けた。
「姫!落ち着いて!…大丈夫だから…」
陽は姫の背中に手を当てて撫でた。
「はぁ…はぁ…思い出せ無い。」
姫の瞳は涙で潤んでいた。
「歩ける?風に当たりながら話そう。」
姫がコクりと頷き、陽の手を借りて保健室から校庭へ出た。
石の塀に腰掛け、陽が言った。
「…実は俺も記憶飛んでてさ。あんまり覚えて無いんだ。」


「…パソコン室…た、高…高岸?…!!」
姫はハッと陽の顔を見て、陽の手を取り塀から降ろした。
「高岸さんが!!」
「高岸…?」
二人は急いで被服室に向かった。


「そんな…私のせいだ…私があの時しっかり手当しておけば…」
被服室の床に広がる血の海に立ち、姫が言った。
「私なんて!居なくなれば良いのに!」
姫は自分の首を自分で締めた。
「姫!!」

パン!

陽は姫の頬を叩いた。
「…ゴメン…でも、自分が居なくなれば良いなんて言うなよ!」
陽は姫の肩を強く掴んだ。
「でも!でも!…私が近くに居ると皆不幸になるの!誰も傷付いて欲しくないの!…だからもう…」
姫は泣き崩れた。
陽は返す言葉が無かった。

姫の泣き声だけが響いた。1時間位泣き続けた後、しばらく沈黙が続き


「…私、明るく生きようって決めたのに…これじゃ出来そうも無いよ…陽、助けて!」
姫はまた泣き始めた。
「わかった…俺、姫が明るく生きていけるように、姫の荷物も背負える位強くなる!…だから…泣かないでくれ!」
陽の瞳からも涙が溢れた。

そして、二人は目を真っ赤にして泣き続けた。


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