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グリーン
グリーンが速いとか遅いとか、よく話題になりますよね。
最近は高速グリーンがはやりで、速ければ速いほど、ゴルファーの受けもいいようです。
「グリーンが速すぎて今日のスコアメイクはガタガタだよ」なんて苦情は、
ほとんど聞くことがありません。
ほとんどというより、一度もいわれたことがありません。
どのようなコースセッティングをしても、すべてのゴルファーを満足させることは難しいのですが、
速いグリーンだけは別物のようです。
このグリーンの速さについて、多くのゴルファーが誤解していることがあります。
最近はあまり聞かなくなりましたが、テレビ解説者もずーっと誤解していたことがあります。
それは、刈り高です。
「低く刈ると、グリーンが速くなる」
残念ながら、それは迷信です。
早朝、パッティンググリーンなんかでグリーン刈りをしていると、
早く来られたゴルファーのかたに「今日の刈り高は何ミリなの」なんて訊ねられます。
「5ミリです」とお答えすると、「結構高いんだ、それじゃ転がりは期待できないね」といわれます。
違うんです!!
グリーンの転がりを決めるのは、刈り高だけじゃないんです。
5ミリだから転がらないなんて、そんな風に考えていると、とんでもないことになりますよ(^^)。
どうやって私たちがグリーンの転がりを決めているか、そのことは長くなりますので、
また別の機会にお伝えします。ゴルファーには申し上げにくい裏技もあります。
それもついでに書いちゃいます。
ただここでは、このことだけ覚えておいてください。
もしあなたがゴルフ場に行って、私たちに訊ねられるとき、このようにいわれると、
私たちも思わず芝刈りの手を止めてしまいます。
「今日のグリーンは何フィート?」
私たちは、スティンプメータと呼ばれる簡単な道具を使って、
グリーンの転がり速度を計測しています。
決められた傾斜角度でボールを転がし、その転がり距離を測るのです。
トーナメントなどの場合は、予め主催者から何フィートぐらい転がして欲しいという注文が付けられます。
一応の目安ですが、一般的なゴルフ場で8~9フィートくらいです。
打ち頃の速さです。
10フィートとなるとかなり速く感じると思います。
11フィートでは下りのパットで背筋が凍ります。
日本のトーナメントで最も速いとされている太平洋マスターズで13フィートくらいだと思います。
前に、マスターズで15フィートといっていましたが、驚異の速さですね。
多分シングルのかたでも、まともなスコアメイクは困難でしょう。
まさに「ガラスのグリーン」です。
ある時、あまりメンバーの方がおっしゃるので、月例会の設定を12フィートまで伸ばしました。
ついでに、ピンポジションも少々難しめにしました。
トーナメントの3日目です。
一般に、トーナメントではふるい落としを目的に、3日目のピンポジションが一番難しいとされています。
最終日は逆転の可能性を出すために、比較的やさしくします。
で、その月例会ですが、日没サスペンドになりました。
競技委員長も支配人も怒らなかったけど、ごめんなさい。ちょっとやりすぎちゃいました。
でもそれ以後は、単に速くしろとはいわれなくなりました。
「今度の競技は何フィートで」と、ご指示をいただくようになりました。
●Vol.2● グリーンの転がりについて(2)
グリーンに使用される草種としてベントグラスが一般的になり、また高速グリーンの流行で、速いグリーンが良いグリーンだと理解されがちなのですが、私たちの考え方は少し違います。
私たちが考え、日々目指していることは「すべてのグリーンが同じ速さ」という課題です。
ゴルフ場には18面のグリーンといくつかの練習グリーンがありますが、
これらすべてが、同じ速さで転がることが、良いグリーンだと私たちは考えます。
ご承知のとおり、ゴルフのルールではグリーン上でのテストが禁止されています。
したがって、どのくらい転がるのかということは、実際にパッティングしてみないとわかりません。
これを補うのが、私たちの仕事です。
私たちは、練習グリーンをただ単に練習するグリーンとは考えていません。
今日のグリーンはこの速さで設定されていますよ、というメッセージを
皆さんにお伝えする場所が練習グリーンだと考えています。
練習グリーンでお伝えしたのと同じ速さで18面のグリーンが転がれば、
あとは皆さんの技術です。
もしそうでなければ、ホールごとにグリーンの速さが変わったりすれば、
まともなパッティングはできませんよね。
同じゴルフ場でも日の当たるグリーンもあれば、日陰のグリーンもあります。
風通しのいいところもあれば、悪いところもあります。
微妙に芝生の生育やグリーンの堅さが変わるので、なかなか完璧とはいえませんが、
それでもなんとかして、グリーンの転がりを調整しようとしてます。
遠路はるばるお越しになる皆さんに、こんなことを申し上げるのは恐縮なのですが、
少しだけ早めにご来場ください。
そして、私たちがご提供するグリーンの感触をお確かめください。
そう考えて、練習グリーンをお使いいただけたら、スコアアップに繋がるのではないでしょうか。
ちょっとだけ、さみしいのです。練習グリーンを素通りされるかたを見ると。
●Vol.3● グリーンの転がりについて(3)
グリーンの転がりについてお話しするとき、忘れてならないのが「芝目」です。
ゴルファーの皆さんも、「順目なの、逆目なの」と、たまにキャディーさんに訊かれていますよね。
この芝目をどう読むかということなんですが、その前に申し上げたいのは、すべてのグリーンに芝目があるというのではないということです。それは、グリーンの草種によります。
通常、グリーンはコウライシバかベントグラスで造られます。
そのほかに、まれにですがティフトンのグリーンもあります。
もう少し細かくいうと、コウライグリーンの場合は、ヒメコウライの使用が一般的です。
また、ベントグリーンの場合は、ペンクロスという品種が広く使われています。
近年、ペンリンクス、コブラ、パターなどという品種も使われるようになりましたが、ほとんどのゴルフ場はペンクロスを使用しているのではないでしょうか。
まっ、ベントグラスと一口に言っても、たくさんの品種があるということなんです。
おそらく日本で使用されているもので10品種ほど、世界中では200種類ほどのベントグラスがあるということくらいは、話のネタに覚えておられてもと思います。
芝目がもっともきつくでるのが、コウライシバです。
コウライシバの芝目をなくすのは、ほとんど不可能に近いと思います。
そしてその読み方ですが、ごめんなさい、分かりません。
カップ際を見るとか、カラーを見るとかいわれていますが、ある程度参考にはなるものの、それで完全というものではありません。
一つのグリーン上で、場所によって違う芝目ができていたこともあります。
どうしてなのか、本当に分かりません。
ティフトンについては、私は直接管理したことがないので、断定的なことはお伝えできません。ただ、技術的にかなりの部分まで芝目の解消は可能なようです。
最後にベントグラスについてですが、この項でもっともお伝えしたかったのは、このことです。
実はコース管理は、芝目を解消することも仕事の一つなのです。
そして、ベントグラスに関していえば、プレーに影響がでない範囲で、芝目をなくすることも可能です。
むしろ芝目をつくるグリーンキーパは、技術的に劣っていると判断されます。
前に、私が管理していたゴルフ場に高名なプレーヤが来て、スキンズマッチをされたのですが、テレビ放映の時、ショートパットをはずしたシーンで「逆目でした」と、いわれました。
ベントグリーンです。
その放映が終わる前から、私の電話は各地のキーパ仲間からの連絡で鳴りっぱなしになりました。
「何をとろいことをやっているのだ」と。
違いますって。絶対芝目なんかないですよ。
すぐにスティンプメータを持って、プレー当日カップを切ったあたりの転がりを計測しましたが、絶対なかった ----と、思います。
そんな昔の話はともかくとして、ベントグリーンを管理するものは、芝目を造らないことが仕事です。
もし、あなたがメンバーのゴルフ場で、ベントグリーンで、明らかに芝目があると感じられたときは、苦情をおっしゃってもかまいません。
それは「あり」です。
●Vol.4● グリーンの転がりについて(4)
パッティングの時にご注意願いたいことは、グリーンの傾斜を読み間違えないでということです。
私たちは、グリーンの傾斜を知るために、スティンプメータをグリーン上におき、その上にボールをのせます。
そうすると傾斜が分かるのですが、ゴルファーの皆さんがそれをやるとペナルティーですよね。
オーソドックスな方法ですが、違う角度から傾斜を確認するということが大切なようです。
ある時、支配人に呼ばれました。一緒にグリーンに行って欲しいと。
支配人がいうのには、そのグリーンの一部に変な芝目ができているというのです。
で、グリーンに行って確認したのですが、どう見ても芝目はありません。
それでも支配人は執拗に「芝目がある」と主張します。
すったもんだの末、私はあることに気がついて支配人に訊いてみました。
「ここからピンに向かっては下りですよね」と。
すると支配人は不思議そうな顔をして、「登りだよ」というのです。
それで、すべての謎は解けました。これでは話が食い違うのも無理はありません。
私は支配人にスティンプメータでグリーンの傾斜をお見せしました。
支配人は驚いた顔で、「五年間、ずっと登りだと思っていた」と、いいました。
そんなこともあるのです。
よく坂道をボールが上るという怪奇現象がありますが、あれと同じです。
目の錯覚なのです。
そして、意図的にそう造られているかいないかは別にして、ゴルフ場には結構そのような場所があるのです。
特にグリーン裏の地形が、グリーンに向かって急激な下りで、
グリーンもその延長で下っている場合、そしてその下りが緩やかな場合、
逆勾配に見えることがあるようです。
そのほかにも、アンジュレーションが微妙かつ複雑で大きなグリーンには、思わぬ錯覚が生じるようなことがあるのです。
私がもしどこかのゴルフ場のメンバーで、しかもクラチャンをねらうほどの腕だとしたら、必ずやると思いますね。
一日犠牲にして、プレーをしながら、勾配を計る標準器をもってすべてのグリーンの微妙な傾斜を確認します
(これはルール違反じゃないですよね。マナーに反するのでしょうか? >球道さん)。
プレーしながらは、無理でしょうね。時間かかっちゃいますから。
目線をグリーンの高さに持って行ったり、前から、後ろから、遠くから眺めるしかないですね。
でもあらかじめグリーンの傾斜をメモっておくことはレベルが高くなると重要ですよね。
件の支配人も、同じことをしました。
そして、自分が思っていたのと逆の勾配だった箇所が6カ所も見つかって、少しの間、落ち込んでいました(^^)。
●Vol.5● ピンポジション(1)
ピンポジションについて、現在のお話をする前に、昔の「ちょっといい話」です。
今では、ほとんどそのようなことはされていませんが、昔はグリーンキーパが毎日コースを廻り、ピンプレースメントを決めていました。そんな時代 ・・・
あるゴルフ場で、その日もプレー終了後、グリーンキーパは18枚のコインを持って、コースを巡回しました。
そのゴルフ場では、ピンポジションをキーパが決めて、そこにコインを置いてくるというのが、習慣でした。
実際にカップを切り替えるのは作業員の仕事です。
翌日キーパが早朝のチェックのためコースを回ると、ピンの位置が違います。
自分の指示したとおりになっていないのです。
すぐに昨日のカップ切りをした担当者を呼びつけましたが、彼はコインの通り切り替えたと主張します。
それから、そんなことが何度が続きました。不審に思ったキーパは、いつものようにコインを置いて回った後、もう一度コースに出ました。
そして、コインを動かしている「犯人」を見つけたのです。
その犯人は、半年前に採用された所属プロでした。
もちろんキーパは抗議をしました。そしてこの問題は、支配人まで巻き込むことになりました。
「グリーンの痛み具合を確認し、翌日の予約数と18ホールのバランスを考えて決めているのだから、勝手に動かさないで欲しい」と、グリーンキーパ。
「ゴルフのプロとして、プレーを考えてピン位置を決めている。自分がこのコースの所属プロになった以上、今後は自分に決めさせて欲しい」
二人の意見は真っ向から対立し、お互いにプロとして譲りません。困った支配人は、次の定休日に二人を呼びだし、それぞれにコインを渡しました。
そして、「自分がここしかないと思うベストの位置に、コインを置いてきてください」と、指示しました。
二人がコインを置き終わったあと、支配人は一人でコースを巡回しました。
帰ってきた支配人の裁定を待つ二人に、支配人は先ほど二人に渡したコインをポケットから取り出して、こういいました。
「もう一度同じ場所においてきてくれないか」
お話の結末は、お分かりですね。二人のうち一人は、完全に前と同じ場所にコインを置きました。そしてもう一人は、いくつかのコインが、前の場所とは違う場所に置かれていたのです。
●Vol.6● ピンポジション(2)
ベントワングリーンの普及と、グリーンの大型化にともない、ピンポジションの決定の方法も変わってきました。
グリーンの痛みとかに、前ほど注意しなくても良くなったからです。
それと、ちゃんと設計されているコースでは、ピンを切れる位置が十分に確保されていますから。
今ではかなり機械的に決められている場合が多いようです。
基本的なルールとしては、ピン位置が偏らないように配慮されています。
単純にいえば、手前、中、奥の三つが偏らないようにということです。
この3分割をそれぞれに2分割し、合計6分割のエリアを決めて、ピンポジのローテーションを組むというやり方が、一時採用されたことがあります。
ただ、これはすぐに駄目だということになりました。
週に1回定休日があるゴルフ場では、6つのバリエションでカップを移動すると、曜日ごとに同じパターンが使われるということになるからです。決まった曜日に来場されるゴルファーはつまらないですよね。
6分割が進化したのが9分割です。
手前、中、奥の3つのエリアを、さらにエリアごとに3分割します。
これを採用しているコースは結構あるのではないでしょうか。
A~Iのエリアが設定され、それをローテーションで回していきます。
担当者は、その日決められたエリアで、もっとも痛みの少ないところにカップを切ります。
9分割の配分ですが、私の場合は、競技委員の皆さんと話し合いました。
おおむね、どのパターンを採用しても、同程度の難易度になるよう考えられています。
手前、中、奥が適度に散らばることは当然として、花道からストレートに見えるとか、バンカーとの関連とか、そのようなことも考慮されています。
それでも、完全にイーブンとはできず、例えば私が前にいたゴルフ場では、Eのパターンはかなり難しい設定になっていました。
こういうことは、多分会報なんかで紹介すればいいんでしょうね、9つのパターンのピンプレースメントがあって、それぞれのパターンの特徴は、とか。
「Bのパターンは2番ホールが難しくなっています。L字型グリーンの奥に切られていますので、デッドに狙うときは、ガードバンカーに注意です。もし、このバンカーに入れると、パーセーブはほとんど不可能でしょう」 なんてね。
それを知っていれば、ゴルフの楽しみが一つ増えるかもしれません。全体のスコアメイクというかコースマネージメントにも、違う発想が生まれるのではないでしょうか。
「このホールは、ピン位置が難しいので、無理はしないでおこう。ここを無難に越えれば、次のホールのピンはやさしいところに切ってあるから」みたいな感じで。
●Vol.7● ピンポジション(3)
前回、9分割のローテーション表についてご紹介しましたが、これを利用している場合も、すべてそのローテーション表どおりに動かしているわけではありません。
当然のことながら、応用編もあります。
その代表的なものが「雨降りバージョン」ですね。サンドグリーンの採用で、排水が良くなったとはいえ、やはり雨降りの時は、高いところにカップを切ります。水を含んで軟弱化した箇所は、どうしても踏み傷めに弱いのです。
ちょっと話がそれますが、この踏み傷めについて、一番その影響を受けるところはどこかご存じですか。
それは、カップの周辺30cmです。カップインされて、ボールをピックアップするときの姿勢を思い出してください。
利き足のつま先にほぼ全体中が乗りますよね。それが繰り返されるのですから、そこが一番傷みます。
だから、OK ありのゴルフは実は芝生の保護のためにも助かるのです。
もちろん、そうしてくださいとお願いしているのではありません。
それは本末転倒ですから。遅い組の場合、どうしてもカップ廻りが荒れていることがある理由をご理解いただきたいのです。
話題を元に戻して、ピンポジションの応用編ですが、「50組バージョン」というのもありました。
組数が多いときなどに、プレーを早めるためのバージョンです。
これは、かなりやさしいところに切ってあります。
もちろん、すべて前に切ると露骨ですので、真ん中や奥にも切りますが、奥に切る場合も、かなりやさしいところが選ばれています。
ベストスコアを狙うのでしたら、ゴルフ場が込み合っているときにプレーするのも一つの手かもしれません。
前の組に待たされてリズムが狂うということがない人向きですが。
もっとやさしく設定するバージョンもあります。「パーティーバージョン」です。
開場何周年とか、メンバーが還暦のお祝いで貸し切りコンペをされるとき用です。
プレーの後にパーティーが予定されていて、どうしてもその開始時間を遵守したい時に使います。
これは露骨にやさしくしますが、主旨が主旨だけに苦情が出ることはありません。
それだけ露骨にすると、むしろ好意的に受け取っていただけます。
ピンポジションがプレーに影響を与えることを、認識していただくいい機会にもなります。
逆にプレーを難しくするバージョンもありました。月例会用です。競技委員会のご注文でつくりました。
難しいというより、緊張感が連続するようなバージョンでした。
でもあれって、逆にいいスコアが出たりするから不思議です。
ただし、崩れる人は大崩れします。緊張の糸が切れるって、ああいうことなんでしょうね。
ここでお話ししていることは、一般的なことではありません。
それぞれのゴルフ場で、独自に工夫したり、決めごとをつくっていることです。
また今回は、私が使用していた9分割のローテーションを中心にお話ししましたが、ゴルフ場によっては、9つのエリアを確保するのが困難であったり、昔ながらにグリーンキーパが毎日位置を決めているコースもあると思います。
もちろん、そんなことには無頓着なコースもあるでしょう (^^;)
でも、やっぱりピンポジションのコンビネーションに、コース側の意図が働いてたほうが、おもしろいですよね。
そしてその意図が、ゴルファーにさりげなく伝えられたらいいな、とそんなことも考えたりします。
ご自分のホームコースに行かれたときは、ちょっとだけこのことを思い出してください。
何度か通っているうちに、もしそのコースに、あるいはグリーンキーパに、何らかの意図があれば、見えてくるものがあるはずです。
そういったことも、ゴルフのささやかな楽しみだと思います。
●Vol.8●グリーンのメンテナンス/刈り込み(1)
コース管理の仕事で一番手間をかけているのがグリーンです。
求められるターフの品質がもっともきびしいので、それは当然のことなのですが、作業メニューはかなりのものになります。
最初に刈り込みです。これが一番、時間をとります。
刈り込み作業はほぼ毎日行っています。早朝、4~7人の担当者がこの仕事に当たります。
最近できたゴルフ場は、グリーンの面積が広いので、5人体制の4面刈り込み(練習グリーンを含む)というのが、一般的なようです。
5人もいるの? と驚かれるかもしれません。
実際、私が前にいたゴルフ場でも、社長が「何でそんなにいるんだ、もっと人減らしはできないのか」なんて、言ってましたが、これが必要なんですね。
ちなみにそのゴルフ場は、7人体制で、6人が本グリーンを、1人が練習グリーンを刈り込んでいました。
グリーンの面積は平均で750平米でした(これは最近のゴルフ場では決して広いグリーンではありません)。
50cm幅のグリーンモア(草刈り機)で刈り込むためには、約1.5km歩かなくてはいけません。
これを3面担当すると、4.5kmの歩行距離になります。かなりのものでしょ。
グリーン刈り込みの担当者は、毎朝ハーフラウンド以上の距離を歩いているのです。
刈り込みが始まるのは、スタート時間の30分から1時間前です。
プレーヤに追いつかれては駄目ですので、刈り込みを担当するホールを「1・4・7」「2・5・8」「3・6・9」と配分します。
750平米のグリーンを刈るのに約30分かかりますので、このように配分すると、最初の30分で、スタート3ホールの刈り込みが完了します。
つまり皆さんが、#1ティーでティーアップされたときには、4.5.6番ホールの刈り込みが始まっているのです。
それで、皆さんが3番ホールをホールアウトされる少し前に、これらのホールの刈り込みが完了するということになります。
たまにいますよね。メンバーさんなんかで、早く着いたし、スタート組なので早めにスタートさせろなんて方が。
勘弁してください。
少しくらいならともかく、予定より10分早くスタートされただけで、グリーン刈りがパニックになる可能性もあるのです。
練習グリーンは、早めに刈り込んでいますので、どうぞそちらで時間調整をお願いします。
もっとすごいメンバーさんなんかは、お二人で見えられて、スタート組の前にプレーさせろなんて、これは絶対に追いつかれます。
このようにしてグリーンが刈り込まれているということを前提にすれば、4~7人の担当者が必要だというのもご理解いただけますよね。
例の社長は、2人でできないのかとおっしゃっておりましたが、とんでもない。
本グリーンだけでも、2人で刈るとなると、1人が13.5kmも歩かなくてはならないんですよ。
毎朝2ラウンド分を歩けとおっしゃるのでしょうか。しかも、所要時間はグリーン間の移動も含めて約5時間。朝の9時までに終わらすとして、4時開始ですね。まだ朝日が出ていません。
無理に決まっているじゃないですか(^^;)
●Vol.9●グリーンのメンテナンス/刈り込み(2)
前回、グリーンの刈り込みを何人かで分担して行うというお話をしましたが、その理由は他にもいくつかあります。
まず、グリーンモア(芝刈り機)の刃の問題です。切れ味が悪くなるので、そんなに何面も刈れないのです。
一般には知られていませんが(当たり前)、グリーンモアの刃は、毎日研磨しています(ラッピングといいます)。 もう一つは集中力です。まっすぐ、同じ幅で刈り込むには、そこそこの集中力が必要です。刈り跡が曲がっていたり、幅がまちまちだったり、ましてや刈り残しがあったのでは、困ります。
それでは、刈り込みの実際についてご紹介しましょう。
早朝のグリーン。季節にもよりますが、これはかなり気持ちのいい場所です。
朝の張りつめた空気が何ともいえません。
グリーン面には朝露が降りて、白く輝いています。
最初の刈り込みはグリーンの中央を二つに割るようにはじめます。そこでラインを決めるのです。
なるべく長いラインがとれるように位置決めして、遠くの目標物をみながら、まっすぐに歩きます。
このラインが曲がってしまうと、後のラインすべてに影響しますので、必ずまっすぐに歩きます。
これがすごく気持ちいいのです。朝露のグリーン上に自分が刈り込んだラインがくっきりと現れます。
芝生を刈り込むときの匂い立つような香りもすがすがしいものです。
2列目からは前のラインぎりぎりにあわせて、刈り込んでいきます。
ラインのあわせ方は人それぞれで、最初は基本形を教わるのですが、やっているうちに自分なりの方法に変わるみたいです。
グリーンの端までくると刃を浮かせます。そうしないと、カラーを刈り込んでしまうからです。
カラーを刈り込んでしまうことを「囓る(かじる)」といいますが、これはペナルティーものです。
そして、刃を浮かせたまま、グリーンの外で180度回転します。
慣れないうちは、次のラインにはいるために、微調整が必要なのですが、慣れてくると、振り返った時に、ドンピシャでグリーンモアが次のライン上に向くようになります。
どのくらいグリーン刈りに慣れてきたかは、この回転動作をみれば分かります。
ベテランは本当にスムーズに回転します。
右の手元に親指で操作するアクセルがついているのですが、なれている人はフルスピードでグリーンを出て、そのまま回転し、フルスピードのまま再度侵入します。
慣れてない人は、グリーンの端でアクセルをゆるめて、慎重にこの回転動作を行います。
この繰り返しで、縦に縦にとグリーンを刈り込み、最後に外周を回ります。
外周は刃を浮かせていますので、刈り残しの状態になっているからです。
右回りの時は、刃の左端がちょうどカラーの境目にくるように、慎重に刈ります。
グリーン刈りでもっとも神経を使うときです。
ちゃんとあわせないと、カラーを囓ったり、逆にそれを怖がると、刈り残したりします。
それを繰り返すと、カラーのラインがぼやけてしまい、グリーンのしまりがなくなるのです。
●Vol.10●グリーンのメンテナンス/刈り込み(3)
どうして毎朝グリーンを刈るの? という疑問について。
これも、例の社長に訊かれたのですが、「ワシの家の庭なんて、年に5回くらいしか刈ってないぞ」と、おっしゃいます。
シャチョー、いくら何でもあなたの庭と比べられたのでは、困ります。
(この社長、これからもたびたび登場するでしょうから、Q社長としておきます。Qならいいですよね。日本人で、Qで始まるイニシャルの人は、多分いないでしょうから。ちなみに根はとてもいい人です。説明さえちゃんとすれば、「よしよし」と分かってくれます)
まっ、それでも、一般の方には、毎日グリーン刈るというのも、ちょっと疑問に思われるかもしれませんね。
実は、刈り込みは、ただ単に、低く刈りそろえるという目的だけに行われるのではないのです。
刈り込みのもう一つの重要な役割は、整地です。一日営業したグリーンは、スパイク痕やボールマークで結構いたんでします。
それから、プレーヤの靴にひっついて持ち込まれたゴミやバンカーから打ち上げられ多砂も、結構たまっています。
これらをきれいにならして、掃除するのも刈り込みの役割なのです。
もちろん、最盛期にはたくさんの刈りかすが出ます。
皆さんが想像する以上に、芝生は成長します。肥料のやり方や散水で変わりますので、一概にどれだけとはいえませんが、芝生の刈りかすの処理は、たいていのゴルフ場で悩みの種です。
焼却炉を備えているところも少なくありませんが、特にベントグラスは水を多く含んでいるので、簡単には燃やせません。
それに追い打ちをかけているのが、昨今のダイオキシン問題です。
規格にあわない焼却炉は無用の長物と化しています。
ちょっと、話がそれましたが、そんなわけですので、芝生の成長が止まる冬でも、芝刈り作業は続けています。
さすがにこの時期は、グリーンが凍結していることがあるので、早朝の作業はできませんが、夕方、皆さんの後を追いかけるように、グリーンモアは稼働しています。
そうやって、整地と掃除をしておかないと、ボールがなめらかに転がらないのです。
ちなみに、ボールがなめらかに転がることを、スムースランニングといいます(ついでです)。
ただ、その時期のグリーン刈りは、ここだけの話、ちょっとつまらないですね。
ラインがくっきりとは出ませんし、なにより芝生を刈り取る感触が手に伝わってこないのがもの足りません。
あの「シャリシャリ」感、いいですよね。
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