勝手に最遊記

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Promise ―12―



「・・・なんだかなぁ。」すっかり見慣れた天井に、ため息をつく。
「変わった第一声だな。」ベッドの横に、金蝉が居るのを見て桃花は驚いた。

「金・・蝉?」
「・・天蓬によれば、この世界に存在している事に無理があるそうだ。
だから気絶するほどの頭痛に見舞われる・・一種の副作用らしいな。」

「なるほどね・・・悟空ちゃんは?」体を起こす。
「じきに日が暮れるが・・・お前に花を摘んでやりたいと、出掛けて行った。」

『優しいのは昔からなんだ。』思わず微笑む。

「夕食を持ってきてやる。寝てろ。」
そう言って出ていく金蝉に、
「金蝉って優しいね~。」声をかけて睨まれた桃花。

『・・・みんな全然違うヒト・・・。』改めて思い知る。

姿形が似ていても、その中身は別人だ。

特に天蓬・・彼なんか、八戒とは似ても似つかない生活を送っている。
整理整頓は出来ない、ヘビースモーカー。顔だけはソックリなのに。

反対に金蝉には笑えた。
煙草が駄目らしく、吸わないし・・自分の部屋で吸われると睨み付けている。
しかもひ弱。
と言うより体力皆無。三蔵は“美丈夫”なのに。
軍人の捲簾や天蓬と違い、文官の彼は肉体労働など出来ない。

そして・・「お姉ちゃん~!起きたんだーっ!」悟空が飛び込んでくる。

「あのね!お姉ちゃんの為に、花を摘んできたんだよ?」
小さな花束を差し出す悟空。
「キレイ・・。ありがとうね、悟空ちゃん。」受け取り、頭を撫でてやると、
悟空は嬉しそうに笑った。

悟空ちゃん・・。自分の知っている悟空は18歳で。
年齢より幼く見える事が、彼にとって悩みで。
子供扱いされる事が何よりも嫌いで。
いつも・・男らしく、守るって・・・・・・・・「お姉ちゃんっ!?」

知らず知らずのうちに、桃花は泣いていた。

「お姉ちゃん?頭が痛いの?大丈夫っ?」悟空が慌てる。

「大・・大丈夫・・だから・・。」桃花は悟空を抱き寄せた。
小さな小さな悟空。
自分の腕に、すっぽりと入ってしまう悟空が可愛くて・・・不安で。
自分が存在できない世界だと、改めて実感する。

『帰りたい。』みんなの元へ。

超元気で、大食漢の悟空の元へ。

女好きで、セクハラな悟浄の元へ。

几帳面で、口うるさい八戒の元へ。

不機嫌で、生臭坊主の三蔵の元へ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あたしは、いつ 帰れるの?

悟空を抱き締めながら泣く桃花を、金蝉が扉の影から見ていた。


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