勝手に最遊記

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Promise ―15―


あの金蝉の事だ。苛々して待っているに違いない――――『それにしても。』

それにしても・・・天界とはなんと醜い世界なのか。桃花は胸が痛い。
悟空にしても、ナタクにしても、他とは違う“異端”というだけで、明らかに差別されている。
桜が年中、咲き誇り・・緑が溢れ、爽やかな風が吹いている・・・。
病気も、貧困も、死さえ存在しないこの世界で――――この平和な世界で、だ。
“不殺生”とは名ばかり。
自らの手を汚さずに、子供に殺戮を命じるなど・・醜い天界の世界。

「・・・人間と、変わんないじゃん。」
いや、それより性質(たち)が悪いかも・・そんな事を思いながら、歩いていると

「痛っ・・!!」グラリと体が揺れる。前触れもなく襲われた頭痛に為す術もなく、
こめかみを押さえ、ズルズルと廊下にしゃがみ込む。

『・・こんな・・トコで・・。』必死に前へ這い進む。
金蝉の部屋は未だ遠い。彼らに迷惑はかけられない・・・激しい痛みに耐えている桃花の視界に、天蓬の姿が映った。

「――――桃花っ!」駆けてくる天蓬の姿を最後に・・ブラックアウトした。

「随分、頻繁に倒れますね。」
桃花を金蝉の部屋にかつぎ込み・・・金蝉と膝を交えながら、天蓬が言った。

「今日は何回、倒れたんです?」
「・・・これで三度目だ。」不機嫌オーラ全開の顔で、金蝉が答えた。
チラッと悟空を見ると、不安げな顔で天蓬と金蝉を見ている。

「悟空。桃花の傍についてろ。」金蝉に促されて、悟空は寝室へと向かった。

「・・・悟空は随分、懐いてますねぇ。」そう言いながら、
「心配、ですか?」金蝉を窺う。

「毎度毎度、倒れられたら俺の腰がもたん。」苦々しげに言いながら、
「・・・・悟空がアレだけ懐くと、別れる時に面倒だ。」ため息をつく。

―――――――――悟空にとって、けして居心地が良いとは言えない天界の生活。
其処に振って現れたような、あの女は・・・悟空にとって、とても大事な存在になっている。
しかし、あの女はこの世界では存在できない――――いずれ。いずれは・・・・・

「・・・ですね。悟空には可哀想ですが・・・。
彼女が元の世界に帰る日が、近づいていると思いますよ。」
「本当か?」
天蓬が金蝉の眼を見つめながら、
「ええ。これも推測ですが、副作用と考えている頭痛が日を追う事に頻繁になって来ています。
きっと、もうすぐ・・・。」天蓬は言葉を切った。

「・・・悟空。」悟空が扉の前で立っている。

「・・・っっ。イヤだ・・イヤだよ、お姉ちゃんが居なくなるのっ!」
悟空が叫んで部屋を飛び出す。
「悟空!!」金蝉が後を追いかけようとしたが、
「・・あたしが、行くから。」桃花が顔を出した。

「桃花?貴女は・・・。」天蓬の言葉を遮るように、
「もう、大丈夫。ちゃんと連れてくるから・・ね?」
何か言いたげな金蝉と天蓬に笑いかけ、部屋を出ていく。

金蝉と天蓬は、只、黙って見送った。

悟空は、初めて桃花と出逢った・・桜に木の根本にやって来た。

桃花がココから居なくなる・・初めから判っていた事。
それでも。
それでも、傍にいて欲しかった。
金蝉達以外・・・自分に優しくしてくれるヒトなど居なかった。

「・・・悟空、ちゃん。」

悟空が振り返ると、桃花が立っていた。
優しく微笑んでいる。

「ココだと思ったんだ。」桃花がゆっくりと近づいてくる。

「・・お姉ちゃん・・。」
悟空の大きな金精眼から、涙が溢れ出した。


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