勝手に最遊記

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Darling ―13―



ソレをきっかけに・・・我先にと、出口へ駆け出す。

「・・・ひひっ・・・チカラ・・チカラ・・だ・・。」リーダー格の男が、逃げ出した仲間を追う。

既に――――――人間の姿では無い―――――――長く伸びた鎌のような爪で、切り裂く。

ビシャアッ・・・狭い空間が、血に塗りつぶされていく・・・口から飛び出しそうな悲鳴を堪え、
桃花は悟浄の側に寄り添った。

「悟浄君・・悟浄君!大丈夫?」桃花に支えられ、悟浄は何とか体を起こした。
「うっ・・。は、早く逃げろっ。ヤベーって、アイツ・・。」痛みに顔をしかめる。

ムシャムシャと、一心不乱に仲間だった肉塊を頬張る男・・・・強い妖気が充満していくのが判る。

「逃げるんなら一緒!死ぬのも・・一緒とは言いたくないけど。未だ、死ぬには早いでしょ!?」
桃花の言い方に苦笑しつつ、
「わーったよ。薬も切れてきたみたいだし・・・行くゼ?」力無い体を、無理矢理立たせる。
そこへ、
「・・ニ・・逃ガサナイ・・ッテ、言ッタダロ・・オオオォォッッ!!?」男が叫んで、
――――――――バアキイインッッ・・・メキョッオッ・・体が変形を始めた。

「形態変異(メタモルフォーゼ)・・?」人間だったハズなのに?呆然とする悟浄と桃花。

体を変形させつつ、巨大化していく男。元々あばら小屋の為、天井がアッという間に崩れてきた。
「―――危ねぇ!!」悟浄が桃花の体に覆い被さる。背中にドンドン木材が落ちてくる。
「ごっ・・ごじょ・・」悟浄の体にスッポリと包み込まれ
顔は見えないモノの、体に感じる衝撃が悟浄の苦痛を示していた。

・・・・ドズゥンッ・・・・小屋がバラバラになって、崩れ落ちた。


「・・悟浄・・・君っ!!」自分に覆い被さったまま、ピクリとも動かない悟浄の体。
桃花は起き上がり、悟浄の体を揺さぶる。「悟浄君っ!悟浄君っ!?」必死に名前を呼ぶ。

「・・泣くなって・・泣くオンナは・・苦手だって・・っただろ?」
鉄枷が付いたまま、悟浄の手が桃花の頬をなぞる。
「・・・あ・・・良かった・・・。」悟浄に頬を撫でられ、初めて自分が泣いていた事を知った。
「泣くオンナより、泣かせるオトコの方が悪いのよ?知ってた?」鼻を啜り上げ、憎まれ口をきく。
「たはは・・・違げーね~なぁ。」苦笑しつつ、悟浄が目を空へと向けると・・・・

ドンッ・・悟浄が桃花を突き飛ばした――――瞬間、空からナニカが振って来た――――。

「きゃあああっ!!」桃花が悲鳴を上げる。

目の前に――――幾つもの体を融合させた・・・巨大な肉塊が、悟浄の体を取り込もうとしている。
シュウウゥゥッ・・・肉が焦げるような臭い・・悟浄の顔が苦痛に歪む。「・・溶解液かっ!」
身を捩るが、肉の塊からは逃れられない。
『・・このまま・・喰われちまうってかっ!?』思わず諦めかけた悟浄の目に、
木材を拾い上げ、肉塊に向かって突っ込んでくる桃花の姿が映った。

「馬鹿っ・・!」こんなの相手に敵うはずがない!!・・・・ダメだっ・・・・!!

振り下ろした木材が、肉塊に突き刺さる――ズジュブウッ――厭な音と共に、木材がめり込む。
そして、ズブズブと肉塊に木材が吸い込まれていく・・・・「なっ!?」桃花が驚きの声を出す。

肉塊は、全てのモノを喰らい尽くすかのように貪欲に増殖を始めた。

「桃花っ!逃げろっ!!」既に、上半身まで肉塊に埋もれた悟浄が、声を限りに叫ぶ。
肉塊の一部が、桃花の足下まで迫って来ていた。「・・だって!このままじゃ・・!!」
ズオオオッ―――――肉塊が、津波のように大きく広がり、悟浄と桃花を飲み込もうと襲いかかる。

『・・・・・っ!!』桃花は固く、目を瞑った――――ドオオオッンッ・・・目の裏で、白い光が炸裂した。

肉塊が焦げて、バラバラに落ちていく。

眼を開く「・・・・あ。」


「まったく。僕の目の届かない所で、危ない遊びをしないで貰えませんか?」
「だからエロ河童だけじゃ、ダメなんだって!」
「・・・下らねぇ。さっさと帰るぞ。」

爽やかな笑顔の八戒と、元気一杯の悟空と、不機嫌な三蔵。

『みんな・・来てくれたんだ。』思わず―――――――――――脱力した桃花。

来て欲しいと思っていた。来てくれると信じていた。

「ホントに・・・来てくれるなんて。」嬉しさに顔が綻(ほころ)ぶ。そして、悟浄に振り返り、
「――――・・・悟浄君っ!良か・・・」言葉を飲んだ。いや、声が出なかった。

辺りに散らばった肉片が・・・・また一つに纏(まと)まりつつある。そして、形を成す―――。


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