勝手に最遊記

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Darling ―15―



「悟浄っ!てめぇ惚けてんじゃねぇ!!あの腐れ肉の言う事を信じるのか!?」悟浄に向かって怒鳴る。
三蔵にも肉塊が迫りつつあった。「・・三蔵っ!!」桃花が悲鳴のように声を上げた。

「大体っ・・てめぇが子供作れないからって、ソレが何だって言うんだっ!!」その言葉が終わらぬうちに、
ゴポウッッ・・・・・・・・三蔵が肉に取り込まれた。



――――その光景を見てもなお――――悟浄はピクリとも動かない。座り込んだまま。

目にはナニも映っていないかのように・・・・・耳にはナニも聞こえないかのように・・・・・


いつもいつも 自分を見ては 泣いていた 泣いていた 母さん

殴られても 殴られても 恨む事なんて 出来なかった 小さな 自分


            『殺されてもイイ』  そう 思ったんだ 母さんが 泣きやむなら

でも  でも  死んだのは 母さんで  殺したのは 兄貴で  半端な俺の為に 殺した 兄貴が




「・・・なるほどな。」自嘲の笑みが 顔に浮かんだ。

存在を許されない“存在”で

兄貴に“母親殺し”の罪まで着せて

のうのうと 生きていられる ワケ 無いって 思ってたんだ 心の何処かで 俺は
此処で―――――――喰われちまった方が・・・・・・イイのかもな、俺は・・「悟浄おおおっ!!」

ガアアンッ―――――――桃花の右フックが、悟浄の顔面に炸裂した。

余りの勢いに、体勢が崩れて倒れる悟浄。「・・・・な・・・?」一瞬、理解できない。
「な・・ナニ・・「ナニじゃないっ!!」あまりの桃花の剣幕に、悟浄が口を噤む。

「なんなのよっ?その態度!もう、死んでもイイと思ってるワケ?
三蔵達は?このまま見殺しにするの!?」桃花の顔は怒りで真っ赤になっている。

「・・だ・・そりゃ・・。」自分のことで、頭が一杯になっていた――――――・・。
「三蔵だって言ってたでしょ?本当に子供を作れないからって、ソレが何!?悟浄君の価値は・・
「・・桃花っ!!」
静かに足下に迫っていた肉塊が――――――桃花の足に取り付き、夜空へと宙づりにする・・。

「きゃああああっ!!」桃花の手・・太股・・・首筋・・・背中・・・肉塊が這い伝わる。

「キヒヒヒヒヒ・・アンナ・・アンナ、タネナシ!アイテニ スルヨリ?コッチ アイテニ シロッ」
「・・ふざけんな!腐れ肉団子っ!!」桃花が叫ぶ。

「女はね!女は子供が欲しくて抱かれるんじゃないっ!
惚れてるから。愛しているから、抱かれるのっ!!」

悟浄は桃花の言葉を聞いている――――――――――――『愛・・?』

「悟浄君はね、すんごいイイ男なんだから!顔はイイし、気前はイイし、頼りがいはあるし、
女の人にモテ過ぎちゃうし!たかが子供が出来ないぐらいで、
悟浄君の価値は少しも損なわれないんだからっ!判ったか、この腐れ肉団子っ!!」

                     『俺の  価値』


「・・コノノノノッッ・・オンナアアア・・!!」肉塊の顔が歪む。
「はんっ!モテない男のひがみ?そんなグチョグチョの体で
女を口説こうなんて、バッカじゃないのっ!?」・・・・・・・既にキレている桃花。

「オオオオオマエ・・モッ・・クッテヤルウウッ!!」再び肉塊が蠢きだした・・シュパアアッン!!

「・・・きゃっ!」突然、体の自由を取り戻し・・落下する桃花を悟浄が受け止めた。
「―――悪かったな。後は俺がヤルから。」そう言って、桃花から離れる悟浄。

鉄枷は、引きちぎっていた。手首に残った跡が痛い・・が。『桃花の声の方が痛てぇよ。』心に響いて。

夜明けが近いのか――――――確かに此処は、山の上で。うっすらと明るくなってきていた。
連なる山々が遠くに見え・・・小鳥の鳴き声も聞こえてきている。

この醜い肉塊を除けば――――――爽やかな山での朝を迎えられたはずなのに・・「ったくな。」

「お代は高けーよ、お兄サン。」悟浄がウィンクをして、錫杖を振るう。

シュパアッシュパアアアッ・・ザシュウッザシュッ――――凄まじい回転で、次々と肉塊を切り裂く。

銀色の錫杖は、まるで夜明けに浮かぶ三日月のように、淡い光に照らされ・・・・輝き。
その光景は凄惨なまでに美しい。

あまりの早さに、肉塊の再生が追いつかない――――「・・三蔵っ!!」肉塊の隙間から姿が見えた。
「うおおおおおっっっ!!」肉塊の一部が吹き飛び、悟空が飛び出す。そして、三蔵を助け出す。
「・・・八戒ちゃんっ!」続いて八戒も飛び出す。

「悪りぃなぁ。大丈夫か?」―――――チンッ・・と錫杖を収め、ニヤニヤ笑いながら言った。
「てめーっ!悪いなんて思ってないだろーっ!」怒る悟空を制し、
「悪いと思うんなら・・体で払え。」三蔵が再び魔天経文を取り出す。

―――――肉塊が、再び・・形を成そうとしている―――――「今度こそ、殺るぞ。」


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