勝手に最遊記

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Position ―5―



「うわぁ・・・。」感嘆の言葉しか出ない。

連れて来られたのは紅孩児の“別荘”であった。しかし、『別荘?・・っていうか、邸宅・・。』
てっきり“別荘”と言うから、何となく丸太小屋?みたいな雰囲気を、桃花は思い浮かべていたのだ。

『マジでお坊ちゃま・・・。』そういえば、八戒に紅孩児は“吠登城”と言う城に住んでいると教えられた。
其処が、三蔵達の目指す“天竺”の最終地点と言う事も。

お城に住んで居るんだから・・・この“別荘”も、ケタが違うよね・・。半ば呆れ気味に部屋を見回す。

リビングだけで、30・・・いや、40畳位はあるだろう。全体的にウッディ調でまとめられた別荘。
決して派手な装飾などは無く、シンプルで趣味の良い家具が置かれていて、落ち着きのある佇まい。

暖炉が設(しつら)えてある所を見ると、冬も快適に過ごせるのだろう。

ボーッと不抜けた顔で、突っ立っていると「・・何をしている。早く上がれ。」後ろから紅孩児に促された。
「あ・・はいっ。お邪魔・・します。」濡れた体でなるべく部屋を汚さないように、部屋へと入る。

「こっちだ。」紅孩児に真っ先に案内されたのは、風呂場。(しかもデカイ)「あ、あの?紅君・・?」
「体を温めろ。風邪を引くだろう・・。」ぶっきらぼうだが、紅孩児らしい心遣い。素直に頷く。

「でも、紅君は?紅君だって雨に濡れて・・・。」「人間のように脆弱な体では無い。先に入れ。」
真面目な紅孩児の顔に、「じゃっv一緒に入る?」途端に紅孩児が赤面する。

「なっ?・・ふっ、婦女子と・・・!?」「冗談だって。それじゃ、お先にv」
バタンッと閉められたドアの前で、紅孩児が立ちつくした。

「・・・・まったく。」どうもあの人間と居ると・・・等と思いつつ、「ジープとやら。体を拭いてやる。」
ジープを連れて、リビングへ向かった。



――――シャアアアァァッッ・・・・熱いシャワーを強く出して・・・堪えても出てくる嗚咽をかみ殺した。

紅孩児の前では、必死にいつもの自分を装ったものの。  それは精一杯の虚勢。

「・・っ・・ぅあ・・っく・・。」シャワーと一緒に涙が流れ落ちていく。もう、立っている気力も無い。

しゃがみ込んで―――――――――お湯に打たれるまま、涙が流れるまま、桃花は悲しみを流す。

排水口へと何もかもが吸い込まれてしまえば良いのに・・・・滲んだ視界を最後に、意識が途切れた。



「・・・・・・ん・・?」薄暗い部屋で、桃花は目を覚ました。

「気が付いたか。」すぐ側でした声に、「・・・紅・・君・・?」困惑した。

そっか。夢じゃないんだ。三蔵に突き放されて・・危ない所を紅君に助けてもらって・・別荘へ・・?えっ?
ガバアッと、起き上がる。『シャ・・シャワーしてたよね?その後の記憶が・・。』恐る恐る、確認をすると。

「バッ・・バスローブッ・・・!!?」思わず出た大声。ベッドに寝かされていた自分は、バスローブ一枚で。
バスローブの中の体は・・・・もちろん、全裸で。「はっ・・裸っ・・・!」狼狽える桃花。

「お前が何時まで経っても、風呂場から出て来なくてな。
様子を見に行ったら返事も無い。悪いとは思ったが・・。」視線を逸らせる紅孩児。やや落ち着きがない。


別に下心もないのだが、やはり不可抗力とは言え裸を見てしまったのだ。
大人しい女ならともかく、相手が桃花なら――――
「・・・桃花?」訝しげに桃花を見る紅孩児。・・・・様子が違う?

「そういえば・・三蔵達と一緒では無かったのか?お前一人で、あんな所・・。」

自分が助けなければ、溺れ死んでいただろう。
『・・・眼が?』薄暗い中でも、紅孩児の眼は良く見える。桃花の頬に、そっと手を這わせた。

「どうした?泣いて・・・いたのか?」泣き腫らして真っ赤な眼。

「なっ・・なんでもないよ!?助けてくれてありがとうねっ。」慌てて紅孩児の手を避ける桃花。
裸見られたのも気にしてないよ~っ・・・等と明るく振る舞う・・・が、

「訳を説明しないか?でないと・・・力にもなってやれん。」真摯な表情(かお)の紅孩児。

その眼を見返すことが出来なくて――――――背けた顔からポタポタと落ちる涙。

「・・・・っ・・め・・だよ。だめ・・。優しく・・しない・・でっ・・。」途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
優しくされたら――――――――――きっと、甘えてしまう。 こんな自分が。 情けなくて。


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