勝手に最遊記

勝手に最遊記

Boys Meets Girl ―8―


「大・・大丈夫・・。あたし・・マラソンって・・苦手で・・。」
息も絶え絶えである。足下がよく見えない森の中を走るのは、思ったよりキツイらしい。

「何なら俺が、桃花を抱えてやろーか?」悟浄がちょっかいを出す。
「ケッコーです!」桃花が睨み付けた。

・・・・・・暫くして、開けた場所へたどり着いた。

「もう、町はずれですね。」辺りを見回して八戒が言った。
悟空が心配そうに「八戒、ジープは?」
「ああ、ジープなら心配ありませんよ。この町を出たところで待っているはずですから。」
「そっか!・・桃花、何やってんだ?」後ろ向きにしゃがみ込んでいた桃花に声をかける。

「この樹の・・・根本なら・・・子供達のお墓に・・いいかなって・・。」
まだ呼吸も整っていない桃花が、素手で穴を掘り始めていた。

「んな事したらケガすんだろ!?俺がやるから!」慌てて悟空が歩み寄る。
「如意棒じゃ上手く掘れませんよ。気功で穴を開けますから、二人ともちょっと退がって下さい。」

三人が墓穴を掘っているの見ていた悟浄が「なぁ、経の一つでもあげてやれば?」
「必要ねぇだろ。」懐からマルボロを取り出して三蔵が答えた。

「そりゃーな、お前の経は“死んだ者の為じゃない”って言うのは知ってけどよ。」
「・・・違げぇよ。」三蔵が煙草に火を付けながら、見やった。


桃花が子供達の亡骸を抱えて泣いていた。
「今度・・今度、生まれてくる時には・・・幸せな人生が送れますように・・。」
繰り返し、繰り返し、亡骸を撫でて、ゆっくりと土に帰した。


「100の経より、成仏出来るだろ。」「ハハ・・そりゃそうだ。」悟浄もハイライトを取り出す。

埋葬が終わり、落ち着いたのを見計らって三蔵が、
「八戒、あの灯油はどうしたんだ?」
「ああ、アレは桃花さんが見つけてくれたんですよ。台所の裏手が風呂場になっていて、
燃料としての買い置きがありましたから・・・利用させて頂きましたv」

「そうか・・。」三蔵が桃花を見ると、涙を拭いて立ち上がっていた。
三蔵は桃花に近寄り、
「お前に聞きたいことがある。」いつものように、不機嫌な顔で言った。

「?何??」

「お前はさっきのことで悟空達が妖怪だと知った。何故、驚かない?
それに何の関係もない妖怪の子供を庇った。・・妖怪に酷い目に遭った事があるんだろ?
どうしてなんだ、答えろ。」

桃花は三蔵を睨んで、
「・・・別に。悟空ちゃん達が妖怪だからどうだっていうの?大体、人に物を聞く態度がなってない!」
ビシッと三蔵を指さす桃花。

「・・何・・・だと?」三蔵の顔つきが険しくなる。

「も、桃花っ!?」日々、三蔵の暴力(?)に晒(さら)されている悟空が慌てる。

「・・・だよなぁ~三蔵様って尊大だから♪」悟浄が笑いを抑えきれないと言った表情(かお)をする。

普段、自分たち以外で三蔵に対してモノをはっきり言う人間は少ない。
大抵が三蔵の威圧感に押され、口を噤(つぐ)んでしまうのだ。

ソレをあっさりと言ってしまう桃花に感動すら(?)していた。

三蔵と桃花の間にビシバシと火花が散る。悟空が間で動揺しているのを見て、
・・・まーまーと八戒が仲に入った。

「僕も知りたいんですよ。・・背中の傷を見ましたからね。話して頂けませんか?」
「いいよっ!八戒さん♪」あっさりと承諾する。
「・・・何、目ぇキラキラさせてんだっ。」三蔵がハリセンを握りしめていた。

「ホント・・特別な事じゃない。妖怪の人達に命を救ってもらったから・・。」

静かに桃花が語り始めた。

―――――――――――――2年前、性質(たち)の悪い妖怪に殺されかけ、
瀕死の重傷を負った桃花が、山に放置されていた。

「こりゃーもう、死ぬんだろうなって感じだった。」

自分の血を見ながら意識を無くした桃花を助けたのが、山間の村に住んでいた妖怪の少年だった。

その村は村人全員が妖怪だった。薬草の知識に長け、麓の町へ薬を売ったりして生計を立てていた。
裕福な村ではなかったが、村人は善良でとても親切だった。

少年の家にかつぎ込まれた桃花は手厚い看護を受け、奇跡的に命を取り留め、そこで暮らし始めた。

「・・半年間、とっても幸せだった。」
少年の名前は大桷。彼の家には父と母と幼い妹が住んでおり、
桃花のことも家族同然に可愛がってくれた。

「俺、桃花を嫁さんにするから。」大桷はそう言った。人間と妖怪の交わりが禁忌だと分かっているのに。

「そーねっ!大桷が私の年を越えたらね!」
「身長はともかく・・年なんて越えられないだろっ!!」すぐムキになる大桷をからかって笑ってた・・。

「・・・可愛い弟のようだった。あの日が来るまで、あたしは幸せだった。」

「・・・桃源郷を変えたあの日か・・。」

―――――――――――――――――そう、悲劇は何の前触れもなく・・・やってきた。


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: