勝手に最遊記

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HAPPY BIRTHDAY! ―完―



「うん!八戒ちゃんと一緒に産まれたんだから、祝うのも一緒!・・・でも、嫌だった?」
八戒の反応が薄いので――――お祝いなんて不謹慎だったのかと、不安に駆られた。

「そんな事は、無いです。・・・ありがとうございます、桃花。」
「良かったぁ!まだ時期が早いから、なかなか咲いてなくて!やっと見付けたんだよ!?」
背中で桃花の嬉しそうな声を聞きながら――――――八戒は想いを馳せた。

『・・・・・花喃。』 双子の姉。

この世に一緒に生を受け―――――愛し合った・・・・只、独りの女性(ひと)。

花喃が生きていた頃は、ひっそりと誕生日を祝ったものだ。

“ねぇ、悟能。” 幸せそうな花喃の微笑み。“悟能と一緒に産まれて・・良かったわ。”

花喃に負けないぐらい――――――悟能も幸せそうな顔で、“死ぬ時も。一緒に逝けたら・・。”

他愛ない、恋人達の会話。それが。 それが最後の誕生日。





――――――――――暫くして、屋敷に帰った八戒達は・・・・・各自部屋へと戻った。

コップに水を入れ、秋桜を窓辺へ飾る八戒。

夕日が落ちてきて――――――秋桜がキラキラと輝くのを見つめた。


『僕一人が・・・生きていて。』誕生日が来る度に・・・・切ない想いが胸をよぎった。
一人・・・緩やかに年を重ねていく。それが花喃を置き去りにしているようで、辛かったのだ。

それが―――――

「八戒ちゃんのお誕生日と言う事は、花喃さんのお誕生日なんだから!祝うのも一緒!!」
アッケラカンと言われた言葉。

くすっ・・・・微笑みが顔に浮かぶ。

「花喃・・・お誕生日、おめでとう。」優しい笑顔で、秋桜を見つめた。


その夜―――――――「・・・みなさーん。お月見をしましょう!」八戒の声に、部屋から出て来る面々。

「お月見?月見団子、作ってる?」そう言いながら、すかさず八戒の手元をチェックする悟空。
「はい。用意してありますよ。」見れば縁側に、月見をするための準備が成されていて。
「すっごーい!ススキまで飾ってる~っ!」桃花が感動して、
「マメだねぇ、八戒は。」ハイライトを吸いながら、悟浄がウィンクした。
「・・・・月見酒か。」三蔵が縁側に座った。

今夜は中秋の名月――――――――穏やかな夜の空気に、金色の月が良く見える。

賑やかに(悟空と悟浄が争いながら)月見をしていると、唐突に八戒が言いだした。
「僕は、決心しました。」その言葉に、ドッチが多くの団子を食べたか・・と、
争っていた悟空と悟浄が止まった。 

八戒がにこやかに、キッパリと、 「僕が、桃花を幸せにして見せます。」・・・言い放った。


「はっ!?八戒ちゃん!?」真っ赤な桃花。ソレって・・・ソレって・・・。
八戒は尚もにこやかに、
「はい。僕が、責任持って・・・・桃花をお嫁に出します。」 のたまった。

「へっ!?お嫁に・・・出す?」キョトンとする。
「八戒~。普通は、嫁に貰うって言うんだぜ?」悟浄が突っ込む。
「あははははは。僕、桃花をお嫁さんにする程・・・命知らずじゃないですからv」
爽やかに笑う八戒に、『ソレってどういう意味!?』・・・言えないが、
「で、でも!あたし、結婚しないって決めてるんだから!」抵抗を試みる桃花。だが、八戒はしれっと

「桃花には、幸せになって欲しいんです。 頭が良くて、優しくて、背が高くて、美形で、
お姑さんが居なくて、働き者で、そこそこ財力もあって、桃花だけを愛してくれて・・・。」
八戒が一息ついて、
「ま、こんなところですかね?最低条件はv」満面の笑みを浮かべた。

「最低条件って・・・・・。」『結局、嫁に行けないんじゃ・・・』そう、思ったのは八戒以外の面々で。

「ですからね?桃花にも花嫁修業をして頂きたいなとv」「・・・花嫁・・修行?」嫌な予感に怯える桃花。
「良いところにお嫁に行くには、自分も釣り合ようにならないと。まずは裁縫から頑張りましょうね。」
八戒が差し出したのは“お裁縫セット”で。

サ~ッと血の気が引く桃花を見つつ、「桃花?自分のボタン付けぐらいは、自分で出来ないと。」
「お前・・・ボタン付けも出来んのか?」冷ややかな三蔵の視線。
「だっ・・て!あたしより、八戒ちゃんの方が上手なんだもんっ!!」ブンブン手を振る桃花。

苦手なものだから・・・・つい、器用な八戒に頼り切っていたのだ。

「大丈夫ですよ。針で指を刺しても・・・気功ですぐに治してあげますからねv」極上の、八戒の微笑み。

気功ですぐに傷は塞がる――――しかし、針で刺した時は痛いのだ。治らなければ、中断出来るのに。
気功で治れば・・・・延々と針仕事をやらなければならない。  無限地獄のように。

「・・いつか。桃花の花嫁姿を見たいですね~。」ますます極上のスマイルを炸裂させる八戒に
誰も逆らえる術はなく。

悟空や悟浄や三蔵までが、我関せず、とばかりに桃花の視線を避ける。

「それが、僕への最高のプレゼントですv」  

トドメとばかりに、八戒が桃花の顔を覗き込んだ。 史上最強(最恐)の微笑みで。


「・・・・・精進、致します。」ガックリ項垂れた桃花と、異様に機嫌の良い八戒。

しかし――――――――――――――桃花が八戒の修行(拷問)を投げ出す日は、近い。


                       完


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