勝手に最遊記

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BUD―4




宿屋での夕食―――――皆が円卓を囲み、一斉に食べ始めたのだが・・・・『・・どうして、この人達は・・・。』一気に 食欲が失せた。


「だから俺の餃子を取んなって言ってんだろっ!?」←右手に箸・左手に肉まん。口からはエビのシッポが飛び出ている。
「文句言うなっ!胃袋猿!!てめーが俺らの分まで喰ってんだろーが!!」←右手にジョッキ・左手で悟空の頭を押さえつけている。
「ああっ!!もうっ!!もう一皿取ればいいんでしょー!?喧嘩しないのっ!!」←左手でメリケンサックを持ち、右手にはめた。

余りの喧噪に、食堂中の客達が口をあんぐり開けながら眺めている――――舞姫は恥ずかしくて堪らない。

八戒は、いつもの事なんですと、他人事のように事態を傍観しているが、慣れない舞姫にとってこの状況は、いかんともし難い。
「さ、三蔵様・・・・・。」一人、黙々と酒を呑んでいる三蔵に騒ぎを収めて貰おうと、三蔵の顔色を伺ったが・・・

「・・・・・貴様らっ・・・いい加減にしやがれえぇっ!!」 大声で怒鳴りつけ、 ガウンガウンガウンガウンガウンッ ・・・乱射した。

髪を掠めていった弾丸に、悟浄と悟空が凍り付く。
「ちょっと三蔵!危ないでしょー!?」喰ってかかったのは桃花。「他の人に当たったらどうすんのよ!?」
「フン。運が悪かったと諦めてもらうだけだ。」「・・毎度毎度、思うけどさ。アンタ、ホントに坊主?」
「何が言いてぇんだ?てめぇは・・・。」「だって!天下の三蔵法師様よ?こぉんな 破戒坊主が!!

スッパアアアンッ――――― 銃声の代わりに、ハリセンの音が鳴り響く。「暴力坊主っ!!」「黙れバカ女っ!!」
ぎゃあぎゃあと。悟浄、悟空に負けないぐらい(?)騒ぎ始めた三蔵と桃花。
八戒は他の客へ詫びに回り、悟浄・悟空はまた争いながら食事を始めた。

『・・イヤ・・・イヤッ・・・本当に、ココの人達ってっ・・・・。』箸を握ることも出来ず。 ただ、ただ、呆然と。

(いつもながらの)三蔵一行を、眺めている事しかできない (哀れな)舞姫であった。



元々、桃花が一人部屋だったのを・・・・・八戒が宿の主人に お願い して(どう お願い したかは秘密v)ベッドをもう一つ運び入れた。

「舞ちゃん?大丈夫??」疲れた様子の舞姫に、桃花が心配そうに伺った。「慣れない下界なので・・少し、疲れただけです。」
そう言って弱々しく微笑む舞姫に、「そう?あんまり無理しないでね?」よしよしと頭を撫でる桃花に、舞姫は少々面食らった。

悟浄さん達と居る時とは・・・違う。 街のごろつき共と対峙する強さと言い、三蔵とタメを張るぐらいの度胸と言い・・・

「えっと・・何か顔に付いてる?」舞姫に穴が空くほど見つめられ、苦笑しながら桃花が首を傾げた。
「あっ・・すみません!何だか桃花さんの印象が・・昼間はあんなに強いのに・・。」思わず本音をポロリと。ハッと口に手をあてる。
実は桃花の事を、粗野で乱暴な女性なのでは・・・と。そう、思っていたのだ。こんなに優しい表情(かお)を見るまでは。

「強いって・・・まぁ・・・ははは。」ガックリ項垂れて、乾いた笑みを浮かべる桃花。
正直、こんな可憐な美少女に“強い”と言われて喜ぶほど、剛力女を目指している訳ではないのだから。

「気を悪くされましたか?すみません、私・・「イイのイイの!そう言う風に見られてるの、自覚してるから!」
謝る舞姫を遮り、「まっ!アイツらと居るには、コレぐらい強くならないとね~。」パチン、とウィンクをして見せた。

「アイツら・・・三蔵様達と居るには、ですか?」「まーねぇ。」のほほん、とした桃花の顔を眺めながら、
「どうしてですか?三蔵様達はもの凄く強いと聞いてます。牛魔王蘇生実験の阻止の命を、三仏神様から受けるぐらい。
そんな強い三蔵様達と居るのに、強くならなくても良いのでは・・?」女性なんですから、と。言外に含ませる舞姫に、

「・・・それじゃあ、自分の気が済まないから。」苦笑して、「あたしは、三蔵達と対等でいたいの。例え、弱くったって。」



――――――――真夜中。 

    下弦の月が、無数の星達と共に夜空を照らす・・・・・舞姫はそっと、部屋から抜け出し、宿の庭へと足を進めた。


明日も晴天だろうと。 容易く予想できる程に月明かりは明るく、影もない。昼間とは違う景色を見ながら、舞姫は思いを馳せた。


天上界とは・・・・・・本当に、違う。

戦う必要もない。 懸命に努力する必要もない。 ただ、其処に在ればいい・・・そんな平和で、安易な世界。

蓮の花の化身として、産まれた自分は――――・・・美しく咲き、皆の目を楽しませる事が仕事。それが、存在理由。
与えられる生活は、安穏として退屈。そう、天上界に居るときには自覚していなかったのだ。

『・・・・私は、何・・・・?』ただ、美しくなる事だけが存在理由とすれば、あまりにも・・・・「こんな所で、何してやがる。」
不機嫌さを隠す事もない、剣呑な声が背後から聞こえた。

「三蔵様・・・・。」振り返れば、黒のアンダーだけの姿で木に凭れ、煙草を吸っている三蔵の姿が在った。
「何をしている、と。聞いているんだ。」相変わらず愛想の欠片もない、三蔵の言葉。


月光が、三蔵の金糸の髪を縁取り・・・・その端正で、華奢な姿を浮かび上がらせている。

「いえ、あの・・ちょっと考え事を。三蔵様は何故、此処に?」舞姫の質問に、
「・・・預かりモンが無くなったら、面倒だろうが。」つまらなさそうに言って、生欠伸を噛み殺した。

『・・・預かりモン?』ハテ?と首を傾げ、「・・ぁ。す、すいませんっ!」自分の事と思い当たり、頭を下げた。

『三蔵様って・・・・。』頭を下げながら、笑みが零れた。「何、笑ってやがる。」察しの良い三蔵が、紫暗を細めた。
「はっ・・いえっ!!べっ別にっ・・。」慌てて取り繕うとしたが、既に三蔵が詰め寄っている。

「いやーん。三蔵さまったら、ロリコーン♪」揶揄する声が、舞姫の危機(?)を救った。
「死にてぇか。エロ河童。」ガチャリ、銃口を悟浄に合わせ威嚇した三蔵へ、「こんな真夜中に、発砲しないで下さい!」
思わず非難の声が付いて出た。

「・・・・・・・・。」沈黙と共に振り返った三蔵へ、「・・って・・すいません!無礼な事をっ・・。」身を竦めた舞姫へ、
「・・・言いてぇ事、言えるんじゃねぇか。」フッと薄い笑みを口元に浮かべ、「俺は寝る。騒ぐんじゃねぇぞ。」

法衣を翻し、さっさと部屋へ戻って行った。

「・・あの、三蔵様は・・・。」不安そうな舞姫に、「んー?怒っちゃいねーって。むしろ・・だろ?」悟浄が面白そうに笑って見せた。 


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