勝手に最遊記

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Stay ―11―



「桃花っ!!」帰ってきた桃花を見て、一同は目を見張った。

今朝、ポニーテールに結わえてあった髪は解(ほど)かれバサバサで、体中が泥と砂埃にまみれている。
そのうえ、擦り傷や痣だらけで血が滲みだしていた。

「顔までケガを・・。」八戒が心配そうに見つめる。

桃花は自分の頬に擦り傷があるのを隠し、「ん?あ、大丈夫、大丈夫。・・晴掩さん、はいコレ・・。」

村人達は晴掩に歩み寄る桃花を見て、道を開けた。
右足を引きずっているところを見ると、捻挫をしているらしい。

桃花の差し出した一輪の白い花。晴掩が黙って受け取る。

「・・・フンッ!どうせ偽物だろうよ!!」飛が喚いた。

・・・“偽物”ってどう言う事だ?三蔵達は顔を見合わせた。


「静かにしろ!今に分かる。」飛を一喝して、花を空に掲げた。


白い花は夕焼け色に染まった・・・。


暫く花を見つめていた晴掩だったが、

「間違いない。・・・本物だ。」晴掩の言葉に村人達がどよめく。

「そんな・・・バカな・・。よそ者が・・。」飛が呻(うめ)く。

「おい、何が“偽物”何だ?」三蔵が怪訝そうに言った。

「この村に伝わる儀式の意味は“自分の心に正直であれ”そして、
“誘惑に打ち勝つことの出来る心の強さ”を求められる。」

晴掩は桃花を見ながら、
「嬢ちゃん、この花と同じ花が咲いていただろ?頂上に行くまでに。」
「え・・はい。そこかしこに咲いていましたけど・・。」

桃花は、何言ってんですか?みたいな顔をした。
晴掩はゆっくりと頷き、
「あの岩山に咲いている白い花は、頂上に咲いている花以外、夕刻になると萎(しお)れてしまうんだ。」

「な、何で?」桃花が驚く。むろん、三蔵達も同様だ。

「さあな。日照のせいかどうか・・俺達も良くは分からない。
ただ村ではその性質を利用しての儀式が、昔から執り行われている。
男が信じるに値する人間となったかどうかのな。」

「なるほど・・・。苦しい思いをして頂上に行くのを諦めた人は、
下に咲いている花を摘んで帰ってくる・・。」八戒が得たりと頷いた。

「夕刻に村に帰ってきて、花が萎れていると“誘惑に負けた”と言う証拠ってか?
・・・うざい儀式だなー全く。」悟浄が渋い顔する。

「じゃ、桃花はちゃんと頂上まで登ったって事が証明されたんだよな!やったな、桃花!」

「うん、ありがとう悟空ちゃん・・。」

「しかし良く頂上まで登って間に合ったもんだな。大丈夫だったのか?」晴掩が改めて桃花を見る。

「あ・・はは。上に行ったまでは良かったんですけど、帰り間に合いそうも
なかったので・・。滑り落ちてきました。足、捻挫しちゃったけど・・。」

「無茶をする・・。しかし“誘惑”にも負けなかったのはどうしてだ?」

「エッ?あ、だって“頂上の花”って言ったでしょ?
だから『頂上に咲いている花を摘む!』って言う事しか考えてなかった・・。」

他に咲いている花を摘むなんて事は思いも寄らなかった。

              「・・・・・・・・・・」一同、目が点に。

「・・・そいつはバカだから。大丈夫だって言ったろ。」三蔵がしれっと言う。

「な、何ぃ~!あたしが居ない間、またそんな事を・・。」
いつものように怒りだそうとした桃花だったが、力を抜いた。

「もーいーよ。・・ハイ、これ・・貸してくれてありがとう。」三蔵に銃を差し出した。

「・・役には立ったのか?」

「さっき、役に立ったでしょ?それに、この銃を返さなきゃ地獄の果てまで
追っかけて来る気がして、最後まで頑張れたんだよ。」

「そうか・・。」三蔵がすこし、微笑った。


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