狎鴎亭的横濱生活

狎鴎亭的横濱生活

Mar 2, 2005
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それは10数年前のこと。

母親は娘が大学に行かずに専門学校へ行き、看護婦になることを猛烈に反対していた。反対されると、さらに燃え上がるのが10代。
母親に援助してもらわなくても、自力で行ってやるとまで考えていた。

結局他の学科を一切受けない私にあきれつつ怒っていたが、最終的には「仕方ない」と思ってくれた母。
看護学校は記念受験(受けても受かりそうもないけど、とりあえず記念で受けた学校)も含めて10校くらいあったと思う。
数校に合格したけど、結局母親のススメで、ある大学の医学部付属の看護学校に入った。

看護学校は3年。もちろん、いろんなコースがあるんだけど、普通の高校を出て、正看護婦になりたい人はこのレギュラーコースと言うものに通う。
1年目は基礎学科と専門学科の一部を勉強して、病院実習は3年生に連れられていく1週間の実習だけ。まだキャップももらっていなくて、かっこ悪い四角巾で作られた召使のような帽子をかぶる。

これで一人前の学生になれた証拠。待ちに待ったナースキャップを頭につけ、喜んで写真を撮るのはこの日だけ。
これから悪夢が始まる。
そして悲話も始まるのだ。

臨床実習と言われるこの悪夢の実習は2年生の始めから3年生の始めまである。
月曜日から木曜日まで病棟実習に行き、金曜日と土曜日は学校で勉強だ。と言っても、授業ではなく、個々の実習で必要な勉強の時間となる。

実習は内科から外科、産婦人科、小児科、精神科とほとんどの科を周るが、人によって循環器内科に行くか、消化器内科に行くか、天使病院に行くか悪魔病院に行くか異なる。

天使病院が多かったり「簡単」と言われる病棟にばかり当たる人たちはシンデレラコースと呼ばれ、悪魔病院ばかりだったり、「怖い」と言われる病棟にばかり当たる人たちは・・・名前はない。ただただ哀れみの目で見られるだけだ。

病棟実習は指導者で決まると言っても過言ではない。
指導者と言うのは看護婦の中でも学生の指導をする人のこと。勉強になる指導者もいれば、ただやさしい指導者もいる。そしてこわぁい指導者もいれば、ただいじめるだけの指導者もいるのだ。

学生は8時から始まる申し送りの少なくとも1時間前に病棟にいないといけない。グループ全員そろって病棟に向かい(エレベーター使用禁止)ステーションの入り口で「おはようございます」とバカデカイ声で挨拶。

それから学生がいていい場所、たいていが1畳ほどの処置室に自分の荷物を置き、情報収集にかかる。自分の受け持ちの患者の夜間に変わったことや、今日の処置の確認などをする。


万が一看護婦さんが先に取ってしまったら怒られるか、嫌味を言われる。看護婦のようにナースコールで「どうしましたかぁ」なんて聞いてはダメ。「伺います!」と言って、病室まで行って用件を聞かないといけない。看護婦さんのように走ってもダメ、常に早歩きだ。

ある時、ナースコールが鳴って病室に行った。担当の看護婦じゃないと無理な用件だった。早速担当の看護婦を探しにまわる。この時も看護婦のように大声で「○○さぁん」なんて叫んではダメ。だからひたすら探しまわる。
どこにもいない。ウロウロしている私を見て、やさしい看護婦さんが「誰探してるの?」と聞いてくれた。
そこで看護婦さんの一声「○○~!!」
ノコノコと休憩室から出てくる。

「そんなこと、もっと早く言ってよ!」
「もっと私を探してっ!!」

(あんたが休憩中でもないのにサボってるからわかんないんじゃないかっ)

学生には「朝の突っ込み」と言う恐ろしい儀式が待っている。
申し送りの後、学生たちが一人一人、全員の看護婦の前で、今日の目標、行動計画を発表し、「何かアドバイスをお願いいたします」と言わないといけない。これはいじめてくれと言う意味だ。

私の記録用紙をチラチラと見ながら、「じゃあ~聞くけどぉ」と始まる。
真面目にただ勉強してきてるか確認するだけの看護婦さんもいれば、朝からストレス発散にいじめちゃおうという意地悪な看護婦まで色々。
ひどい時は答えられなくなるまで突っ込む。最後の方の質問は質問にもなっていない。そこで答えに詰ると、「じゃ、この処置は今日しないでね。ちゃんと勉強してきて」と言い放つ。

一度皮下注射をするという処置計画があった。そこで「怖い」指導者さんから「そういえば、××さん、午後に注射するんだよね、じゃ目的と注意事項を言ってみて」と聞かれた。勉強したことをそのまま答える。クリア。
「必要物品を言ってみて」
もちろん、これもクリア。
「じゃ、さっき21G(ゲージ、針のサイズ)を使うって言ったけど、何で?」
・・・ここで詰った。何でってそんなこと書いてなかったぞ。
「何で23Gや19Gじゃいけないの?」
「あ・・・23は細すぎるし、19は太すぎるからです」
「何でダメなの?理由は?」
もうアドリブも無理。
「調べてきます」
「じゃ、お昼休みに調べてきてね。」

昼休みって30分しかない。教科書には載ってないから、図書館に行くしかない、とご飯も食べず、図書館に向かった。
でも一体どんな本を見ればそんなこと載ってるのか分からない。
30分図書館にかじりついて粘ってみたけど、無理だった。
「分かりませんでした」
「じゃ、今日はしないでね。」
もちろん、答えは教えてくれない。指導者なんてそんなもの。質問はするんだけど、教えてはくれないのだ。

そして投薬の時間。この時は指導者ではなく、その受け持ちの患者がいる部屋を担当している看護婦に行き、「薬の確認をお願いします」と言って、薬のひとつひとつを取りながら、作用・副作用・禁忌を言う。
これは、毎回看護婦が違うので、いろんな突込みがあったり、逆に全然聞いてない看護婦もいる。
同じグループの一人が要注意看護婦に確認をしてもらうところだった。
勉強家の彼女はスラスラと言っていく。
副作用を一通り言ったとき、その要注意は「それからぁ?」と言った。
彼女は明らかに戸惑っている。
今までそれでずっとOKをもらってきたのに「足りない」と言われるとそれはそれはオロオロするものだ。
散々考えた挙句、どの薬を調べても必ず最後の最後に出てくる、一番マイナーな副作用を恐る恐る口にした。
「そうよ!ちゃんと覚えておいてよね。あたしも忙しいんだからさ。」
と言った後、彼女は「禁忌」に方に移った。
最後まで聞いた後、その要注意は手を忙しく動かしながら、「いいんだけどさぁ、なんていうの~、
美しくないのよねぇ~。」

何じゃ、そりゃ。

(お前の言葉使いも美しくないよ、ちょっとはドクターに話すときみたいに美しく話してみなっ)

悲話はもちろんこれの限りではない。
でもそろそろ終わりにして、次回は患者編。





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Last updated  Mar 2, 2005 08:58:11 PM
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