脳死 日本帰国後に意識回復


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060726-00000069-mai-soci
<脳死>米国・カナダで判定の3人、日本帰国後に意識回復

 米国やカナダ滞在中に脳血管の病気で意識不明になった日本人で、家族らが現地の医師から「脳死」と説明されたにもかかわらず、帰国後に意識を回復した人が3人いたことが中堅損害保険会社の調査で明らかになった。東京都内で開かれた日本渡航医学会で、損保の担当者が報告した。海外での脳死診断は日本ほど厳格でなく、治療を打ち切る場合があることを浮き彫りにする事例で、報告した担当者は「医療文化が違う国にいることをはっきり認識すべきだ」と警告する。
 報告によると、02~05年度に、旅行や仕事で米国、カナダに滞在中の旅行保険契約者9人が脳血管障害で入院。主治医は家族や損保の現地スタッフに「脳死」と説明した。うち3人の家族は「治療中止は納得できない」などと訴え、チャーター機で帰国。日本で治療を受け、意識が回復した。搬送費用の約2000万円は保険で支払われた。残り6人は、チャーター機手配に必要な額の保険に加入していなかったことなどから帰国を断念。現地で死亡したという。
 意識が戻った60代男性の場合、カナダで脳梗塞(こうそく)となり、入院した。人工呼吸器をつけなくても呼吸できる自発呼吸はあったが、医師は家族に「脳死」と説明したという。しかし、男性は帰国後1カ月で意識が戻り、記憶も回復した。
 日本、米国、カナダとも自発呼吸があれば脳死とは判定されない。回復した3例は病院の診断書に「脳死」との記述はなかった。病院側は損保に「保険会社で死の解釈が違う。治療費を保険で確実に出してもらうため、(病院としては)脳死かどうかは書かない」などと返答したという。
 日本医科大の横田裕行助教授(救命救急医学)は「海外の基準でも脳死なら意識は回復しない。米やカナダなどの一般医療現場では、回復は難しいなどの意味で脳死を使うことがある」と言う。【大場あい】
 ◆脳死判定 日本では、臓器移植法に基づき、臓器提供の場合に限って、脳死が法律上の死とみなされる。脳死と判定するためには、(1)深いこん睡(2)瞳孔の散大と固定(3)脳幹反射の消失(4)平たん脳波(5)自発呼吸の消失――のすべてを満たし、6時間たっても状態が変わらないことを確認する必要がある。米国では、州法などで「脳死」を「脳幹を含む全脳の不可逆的停止」などと定義している。どちらの国でも、自発呼吸があれば、脳死とは判定されない。
 ◇病院間で脳死判定基準に相違…米国
 米国は脳死者からの臓器移植先進国で、年間6000例前後が実施される。脳死は人の死という考え方が広く受け入れられているためだ。松本歯科大の倉持武教授(哲学)は「日本よりも臓器移植を強く推進するというムードが強く、医療現場に影響しているのかもしれない」と指摘する。
 実際、米麻酔学会誌(1999年7月号)によると、頭部外傷で脳死と判定された男性が、臓器摘出直前に自発呼吸をしていることが分かったが、そのまま摘出された例などが紹介されている。
 日本とは医療制度、保険制度が異なり、医療も「営利産業」とされる。患者死亡の場合、保険会社が死亡直前の治療を「無駄」と判断するケースもある。病院側は保険会社からの支払いを受けるため、早めに治療を打ち切る傾向もあるようだ。
 日本では臓器移植法が施行された97年以降、脳死移植は47例。杏林大学病院の島崎修次救命救急センター長は「米国、カナダの脳死判定では脳波は取らず、日本ほど厳格ではない。カナダでは病院ごとに判定基準を定めている」と説明する。【大場あい、山田大輔】
(毎日新聞) - 7月26日15時6分更新


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