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サイド自由欄

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トールも製作に関わったオラクルカードです♪
2009年07月26日
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校長がそう言って白髭をひねると、聴きいっていた生徒達の間からため息がもれた。

「先生、バラッド(古詩)のようなことは本当にあったんですか?」

尖り耳に丸眼鏡の少年に、もちろんあったとも、とうなずく。少年はますます目を丸くして尋ねた。

「有名な翼の物語や、月の騎士の物語も、ですか」

「そうじゃとも。伝説というのはな、実際にあったからそう語り継がれてきたんじゃよ」

校長は優しい目で石造りの講堂内を見回した。定期試験の最後の日、食堂を兼ねた広い部屋にはすべての生徒たちが集まっている。
常勤講師として部屋の隅に参加していたトールは、校長の視線が自分の上に一瞬長くとどまったことを感じていた。
なんとはなしに悪い予感がする。

「……たとえば、月の騎士のバラッドにはれっきとしたモデルがおる。それも、お前さんたちが全員会ったことのある人じゃよ」

いたずらっぽく校長がウインクすると、一気に講堂内が沸いた。誰だろう、ここにいる全員が会ったことがあるって? よほど有名な人? それとも校長先生その人とか?
興奮したざわめきの中、誰かが話題のバラッドを歌い出した。


  凍りつきたる その深遠に
  ただ姫君を守るため
  騎士の剣は輝けり
  そは月の光を鍛えたる

  永遠にめぐる時の環を
  月のごとくに寄り添いて
  ただ姫君を守るため
  騎士の技は磨かれし……


(……ちょっと待ってくださいよ。バラッド、ですって?)

意味ありげに自分を見ている校長に、トールは心話で問いかけた。そのバラッドは知らなかったが、今聞く限り、ありふれた歌詞ではないのか。

(そう、誰もお前さんには教えんかったじゃろうな。まだ続いている物語だったのじゃから)

言葉尻にかかるように、バラッドの続きが聞こえてくる。いつしかそれは生徒達の合唱のようになっていた。
その歌詞は古く、ありがちな騎士道的冒険譚のようであった。しかしその中に、世界を支える樹だの、失った翼だの、という言葉が出てくると、いいかげん気づかざるをえない。

(……アシュタール、まさか?)

校長はトールを見つめたまま、ゆっくりとうなずいた。

(そう。バラッドは真実ではないし、すべてを語っているわけでもない。じゃがな、お前たちのことは、ひとつの象徴だったのじゃよ。
ようやく……ようやく、あの戦いの時代が終わったんじゃ)

バラッドを歌っていた生徒達が、校長の視線の意味を推し量り始める。それを見た白髪の老人は、顔をほころばせて高らかに言った。

「そうとも。月の騎士のモデルは、ここにいるトール先生じゃよ。儂とは古い戦友でな……そうじゃ、剣の腕も素晴らしかったのう」

途端に、うおおおお、と講堂中が沸いた。
トールは今まで、剣が使えるということをあえて申告していなかった。だから生徒達は、初めて聞く情報に目を輝かせて銀髪の教師を注目し、どれほど使えるのだろう、と口々に言い合っていた。

校長はトールに横目で睨まれても平気な顔で、両手をゆっくりと上げ下げして会場を静める。
あげく、試験明けのごほうびに模範試合でも見せてもらおうかと言い出した。

(アシュタール?)

(まあ、まあ。たまには年寄りの喜びにつきあってくれてもいいじゃろ。あれが思い出話にできることの喜びを、お前さんならわかるじゃろうが)

トールは内心舌打ちしたい気分になった。だが、あの時代を、あの過去を、過ぎ去った思い出として物語として語れることの感慨はわからなくもない。

(まったく……)

仕方なくトールはため息をついて立ち上がり、手をすっと動かして練習用の刃をつぶした長剣を掌に呼んだ。生徒達の歓声がひときわ強くなる。
学内でだけかけている銀縁の眼鏡を外して胸ポケットに入れ、ちらりと剣術の教師を見やると、若い教師は途端に首を横に振った。

「いや、私ごとき若輩者では相手になりませんよ」

隣の教師たちも同じく。外見年齢はトールとそう変わらないが、実戦経験がないわけではあるまい。ただ、あれほど激しい戦いであったかどうかはわからない。

見やった教師たちが全滅してしまい、トールはもう一度ため息をついた。教えるのが上手いからといって強いとは限らない、と言っていたのはエル・フィンだったか。
今日はちょうど彼も来ていたはずだ。そろそろ帰る刻限だろうが、仕方がない、つきあってもらおう。
しかしこうまで周囲が騒がしくては心話もままならない。
トールは小さな幼竜のディアンを呼び出し、エル・フィンへの伝言を頼んで放った。

学内の演習場で待っていると、ディアンを肩にとまらせた金髪の部下が、苦虫を噛み潰したような顔でやってきた。
彼は非常勤の臨時講師としてたまに授業を持っているのだが、やはりこれから帰るところだったのだ。

「なにか御用ですか」

不審そうな表情で演習場の中央に立つトールと校長のところにやってくる。

「呼び立ててすまないね。模範試合をしてほしいそうなんだ」

「トール師がですか? 剣術の教師たちは?」

「あっさり断られてしまったよ」

上司の苦笑が流れた先を、エル・フィンの碧眼が冷たく睨みつける。こいつらのせいで帰れなくなったと思えば、不遜にも校長まで睨まずにはいられない。しかも彼も、剣が使えることを申告していなかったのだ。
だが若い教師たちはともかく、校長はまったく動じない様子でエル・フィンに微笑んだ。

「頼むぞ、エル・フィン」

「……」

無言のまま、仕方なくエル・フィンは校長に一礼した。演習場の隅に荷物を置き、同じく練習用の剣を持って中央でトールと向き合うと心話が届いた。

(とりあえず仕事のほうはこちらで融通をつけておくから)
(ありがとうございます)

軽く剣を触れ合わせて開始の合図。

エル・フィンは嫌々ながら踏み込んだ。その斬撃は早く鋭いが、どこか投げやりであることにすぐトールは気づいた。
二合ほども撃ち合い、銀髪の錬金術師は厳しい声を出した。

「エル・フィン。それでは生徒たちに模範試合を見せる意味がないだろう。それに、衝撃波はまわりに立つ教師達が抑える手はずだから大丈夫だ。もっと思い切りきなさい」

(それに、レオンが来ているよ)

付け足された心話に、エル・フィンはわずかに目をみはった。
背中で気配を探れば、確かに人垣の後ろのほうにレオンとその叔父のルークのエネルギーを感じる。レオンはこの学校に編入することになっていたから、見学に来たのだろう。
そういえば、今朝出るときルークに珍しく予定を聞かれたことを思い出す。

「……では、遠慮なく」

碧眼を一瞬細めて、エル・フィンは強烈な斬撃を放った。座興の模範試合であれ、生徒達に最高のものを見せたいというトールの思いやりにも心打たれていたし、衝撃波の問題も解決しているなら、手を抜く理由はない。

それに、やはり戦士の性なのだろう、強い者との対戦にはどうしても血が騒いでしまう。
いつのまにかすうっと集中し、演習場を囲む生徒達の歓声も耳から消えていた。
ただトールの操る剣の輝きが、光る鞭のごとくに目の前を踊る。その動きに合わせまた反して、エル・フィンの剣筋も流れるような弧を描いた。

「そこまで」

はっと気づくと、校長が両手に剣を持って二人の間に入っていた。
完全に夢中になっていた自分と比べると、銀髪の錬金術師は手加減していたに違いないが、それでも対戦の最中に止めに入れるとはよほどの技量だ。
見ればトールも苦笑している。
さすがに校長だ、とエル・フィンは剣をひいて深く黙礼した。

顔をあげると、天を突くような大歓声が自分達を包んでいた。























<水晶薔薇庭園館綺譚7 模擬試合(6月上~中旬)>
http://elfin285.blog68.fc2.com/blog-entry-55.html



*************

>>【銀の月のものがたり】  目次1  ・  目次 2

>> 登場人物紹介(随時更新)


はじめてバラッドの話が降りてきたとき。
さすがに嘘だろー、と思って、内容を黙ったままエル・フィンさんの本体さんに調べていただいたんですが。
そしたら、エル・フィンさんが図書館みたいなところで本を探して持ってきてくださったそうです。
ホントにあったんかい!・・・というわけで観念してネタにしてみますた orz






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最終更新日  2009年07月26日 16時01分50秒
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