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サイド自由欄

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トールも製作に関わったオラクルカードです♪
2010年10月29日
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  僕が王様  ね、女王様になって?

  おつきの人達を呼んで 仕事を言いつけてよ
  耕したり 運んだり
  干草作りに 小麦の刈り取りをさ

  そしたら僕たち 二人きりでいられるから……



ひどい戦いだった。
市街戦から戻ったオーディンは、寮のロッカールームのベンチにどさりと腰を下ろした。

下等兵が詰め込まれた寮は相部屋で、シャワーは共同である。髪も身体も洗って上がったばかりだが、血の匂いがどこかこびりついている気がする。



自分より三歳ほど下だろうか、せいぜい十五、六だろう。二等兵の募集は最低十五歳からではあるが、たいがいはオーディンのように高校卒業後、十八歳くらいで入る者が多かった。
まだ背も伸びきっていないような少年は、さすがに少ない。

「大丈夫か?」

長い銀髪を首の後ろでひとつにまとめ、上半身は首にタオルをかけただけのその細い背があまりにも痛々しくて、彼は思わず声をかけた。
膝に両腕をつき、がっくりと首をうなだれている少年には聞こえなかったのか、何も反応がない。
身体に怪我はないようだが、心から血が流れているのが見えるようだ。

「……おい?」

オーディンは立ち上がると、少年のとなりに腰かけた。
ぱっと少年が顔をあげ、藍色の瞳がオーディンを見る。

(こいつ……)

その顔を見てオーディンは思い出した。サイキックの高い少年兵がいると聞いたことがある。今日の戦いでも、その能力で子供を一人助けたはずだ。


(こいつ、能力もすげえけど、その分余計になんか思いつめてねえか?)

「おい、その……よ」

彼自身も初の市街戦に出たばかりで、フォローできるほど落ち着いていたわけではない。
けれども傷ついた瞳を放っておけなくて、オーディンは壁を見ながら呟いた。

「あんまり気にすんなよ。な? 大きなお世話かもしれねえけど。……できるはずのことを、やらなかったわけじゃないんだからさ」


すると少年が一瞬その瞳を見開き、そして小さく呟いた。

「あなたも喪ったんですね……」
「……なんだって?」

低くなったオーディンの声に、少年ははっと顔色を変えた。言うつもりはなかったという顔だ。

「すみません」

慌てて立ち上がって肩の手を払おうとするのを、オーディンは逆に押さえ込んだ。細身の少年に比べると、彼のほうがまだ背が高く体格もいい。
まだ瘡蓋にもならない傷口をえぐられたような気がして、オーディンの声はさらに低く鋭くなった。

「待てよ。お前、能力者なんだろ? 何を見た?」
「すみません。見るつもりはなかったんです。誰にも言いませんから」

少女と言っても通りそうな優しげな顔をゆがめて、銀髪の少年は小さく首を振った。
ひどく辛そうなその表情に、まだ筋肉が少なく骨ばった肩に指を食い込ませていたことに気づいて力をゆるめる。
ゆっくりと息を吐いてオーディンは続けた。

「いや。聞いたことがある。強い能力者は相手の心を読むつもりがなくても、強い感情や記憶は拾ってしまうことがあるってな。お前もだろ?」
「……わざとじゃないんです」
「わかってる。訓練でそれを閉じることはできるそうだが、子供にゃ無理な話だよな。ましてシャワーを浴びたばかりで、制御機器もつけてない」

子供。そうだ、目の前の少年は妙に大人びているようでもあったが、傷ついた子供のようでもあった。

十代での三歳違いは大きい。年下相手に、俺は何をやってるんだ?
オーディンは自らを止めようと試みたが、何が自分の心から漏れていたのかが気になっていた。すべて隠して抱きしめていようと思っていたもの。

(……ラベンダーです。青紫の花の咲く、いい香りのする窓辺。ベッドに横たわる青ざめた顔色の若い女性。その人が起き上がっているとき、あなたは手に一束のラベンダーを持って、窓の外から声をかけた……)

突如として頭に声が響いたので、オーディンは息を呑んだ。見直した藍色の瞳が、輝きながらじっとこちらを見ている。どうやら少年の声であることは間違いがないようだった。

(心話……? 俺にはそんな能力はないはずだが)
(僕は相手の受発信をサポートすることができます。他の人に聞こえないほうがいいと思ったので)
(サポートだと? どれだけの能力者なんだお前)

初めての心話の声は、聞き間違えようがないほど明瞭だ。呆気にとられたオーディンに、少年は首を左右に振った。

(いいえ。制御できなくては意味がありませんから)

そして少年はふっと顔をそらした。

(それから……黒い服の葬列。空になった寂しい窓辺に立ち尽くしては、涙をこらえて慌てて歩き出すあなた……僕が見たのは、それだけです)

ごめんなさい、と心話にも収まりきれないような謝罪の気持ちがオーディンに押し寄せた。
図らずも他人のプライバシーを覗いてしまったことへの悔恨と申し訳なさがあふれている。
そこに言いふらそうとしたり茶化したりする意図は微塵もない。

優しい奴だとオーディンは思い、素直な謝罪に怒る気がなくなってしまった。

(そうか、見えたのか……)

幼馴染の彼女とは、いつか一緒になるんだと自然に思っていた。
だが婚約も結婚もしていなかったから、亡くなったときは「知り合いの不幸」と体調不良を理由に数日帰郷しただけだ。

喪服を着て、呆然と彼女の遺体を見ている彼の肩に、彼女の父親がそっと手を置いたのを覚えている。

「エリィは君のことを待っていた。私たちもね、もう少し元気になったら君と一緒になってもらいたいと思っていたんだよ……」

待っていた。待っていた。
その単語が頭を駆け巡る。

軍人になった彼を、エリーデはひどく心配していたのだという。けれども、彼が選んだ大事なお仕事だからとずっと黙っていたのだと。

彼女が危篤になったとき、オーディンは作戦中だった。下っ端の二等兵である彼には連絡さえそのときには届かず、作戦が終わって戻ってからそれは伝えられた。
矢も盾もたまらずに土に汚れた軍服のまま基地を飛び出し、故郷に着いたときにはもう……間に合わなかったのだ。

冷静に言うなら、彼女の死は彼のせいではないのかもしれない。
彼女の身体は生まれつき弱くて、いつもベッドに寝てばかりだった。
たとえ間に合ったとしても、癒しのための知識を持ち合わせているわけでもなかった。

しかし、もし息のあるうちに会えていたなら。
体温の消えぬ手を握り、励ますことができていたなら。
もう少し、もう少し彼女は長生きしてくれたかもしれないと、どうしても思ってしまうのだ。

ラベンダーの香りの向こうにゆれる、やわらかな微笑み。
身体が弱くていつもにこにこと微笑んで心配症で、そのくせ誰よりも強い芯を持ったひと。

誰よりもこの腕で護りたかった、……護れなかった、人。

「……素敵なかただったんですね」

真摯な声で、大事な面影をそっと包むように少年がささやいた。
いつしかシャワールームからは人影がなくなっている。皆腹ごしらえか眠りに行ったのだろう。

「……ああ、そうだよ」

ブルースピネルの瞳でまっすぐに見返し、オーディンは答えた。
消え去りやらぬ忘れ去りやらぬ、やさしい青紫の花の面影。


  そうだよ、俺にとっては誰よりもさ。






  …… ラベンダーは青い ラベンダーは緑

     僕が王様   ね、女王様になって……













【銀の月のものがたり】 道案内

【第二部 陽の雫】 目次


オーディンさんの物語です。
流れ的にちょうどいいので、ここに。
4話ありますので、たまにはちょっと日を詰め気味にアップしようかと思っていますw

ちなみに、ラベンダーそのものがヴェールにあったかどうかはわかりませんが
似たようなハーブはあったように記憶しています。
名前が実はわからないんですが、歌と掛けたかったのであえてそのまま地球語で 爆


それから、トールことやヒーリングの種類、不思議な世界感、石のことなど、どうやってわかるようになったのか、習ったのか、というご質問をいただきましたが。

うーん…
石のことは本やネットで勉強して、中の人やヒーリング、世界観については元々の感覚や実践によってなので
特に誰かに習ったりはしておりませんです~
ある意味てけとーです 爆


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最終更新日  2010年10月29日 16時38分16秒
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