2005年4月12日(火)習志野文化ホール「狂言の夕べ」
<番組表>敬称略
【解 説】 深田博治
【梟山伏】
山伏:野村萬斎/兄:月崎晴夫/弟:高野和憲/後見:野村良乍
【二人袴】
親 :野村万之介/聟:竹山悠樹/舅:石田幸雄/太郎冠者:深田博治/後見:高野和憲
やたらと緊張した様子の深田さん。(いつも大体そうだと聞き及んでおりますが)狂言以外でお話する声を聞いたことがなかったけれど、意外に爽やか系の(笑)←もっと図太い渋い声を想像。
今回の解説は、まさに狂言の『い・ろ・は』の『い』に当たる部分のお話で、初めて狂言を観る方には良かったのではないかしら(^.^)
舞台上の決まり事。
左側に廊下(橋掛リ)、大、中、小(一の松、二の松、三の松)があり、この松は遠近感(奥行き)を出すために大きさが違えてあります。
また、初めて狂言を観る方にとっては、『いつから演技が始まっているのか』が分からなかったりしますが、実は幕が上がって役者がこういうふうに(摺り足を実演)出てくると、もうそれは演技が始まっています。
また普段の能楽堂には背面に松の絵(鏡松)があるとか、狂言の場合は必ず役者が名乗り座で『自己紹介』をし、舞台上を何やらブツブツ言いながら一周(道行きと言います)
すると、いわゆる『場面転換』、すでに目的地に到着していることを表すこと。
何かといううちに、これじゃ
がそうですね。
それから、舞台上で演者が動かなくなったら、それは『いないこととして観てくださいね』などと言う、まさに『狂言入門編』には適した解説で、今回一緒に行った会社の方にとってはとても参考になった、と仰ってました。
少し狂言の事を勉強した人にとっては復習でしょうね。
そう考えると過去に私が見た萬斎さんや石田さんの解説などは少し内容が高レベル?初中級~中級編?(笑)
案外、まんべんなく万作家の方々の解説は体験出来たぞ( ̄ー ̄)ニヤリッ
話は深田さんの解説シーンに戻します。
狂言は殆ど小道具を使いません。
しいて言えばよく使われるのが、『扇』
盃にもなれば、おちょうしにもなりますし、ノコギリにもなります。
イマジネーションを広げながら観るのが狂言。
狂言『盆山』で盆栽を盗みに入る様子を深田さんが実演。
扇をノコギリに見たて
『ズカ!ズカズカズカッ!』
垣根を剥がす
『メリ、メリメリメリッ!』
深田さん『見えましたでしょうか(^-^;)』
観客から拍手を貰うと、ホッとした表情で笑ってました。
ほんの一部の実演なんですが、狂言の演技に入った時と後、『オン・オフ』の差が観れましたよ。
梟山伏(ふくろうやまぶし)の解説。
山伏が出てくる曲は全部で十数曲。
その中でも、この梟山伏や茸(くさびら)の山伏は、能『葵上』などに出てくる山伏のパロディだと言うことを説明。
何やら最初は偉そうに出てきますが、狂言に出てくる山伏は結局、失敗をしてしまい笑われる、と言うか、最初の気難しそうな登場の仕方とのギャップもまた楽しい曲なんですね。
この梟山伏を海外で上演したときに『怖い』『気味悪がられた』とおっしゃってました。
確かに上演中、後方の席から「怖い~」という声が聞こえましたね。
梟山伏(ふくろうやまぶし)
<あらすじ>
ある男が、山から帰ってきて以来、病になってしまった弟の太郎を治して欲しいと山伏を尋ねる。
山伏が一心に祈ると太郎はいきなり ホーーーーっ!!
と奇声を発する。
よく聞けば、太郎が山に入ったときに梟の巣を下ろしたということ。
「これは、梟にとり憑かれたに違いないぞ、ううーむ」ということで、梟の嫌う烏の印を結んで祈り出す。
しかし太郎は ホーーホーーー!!
とますます梟の鳴き声激しく、そのうち兄までも ホーーーホーーー!!
と泣き出す始末。
兄弟揃って「梟にとり憑かれてしまったようだ・・・( ̄□ ̄;)!! 」
梟な兄弟(なんだそれ)
に挟まれつつ、一心不乱に祈る山伏、しかし・・・
とうとう山伏までも梟にとり憑かれてしまう。
まさにホラーです( ̄▽ ̄:) ←最近「ホラー」な内容が続きますね。鏡冠者も怖かったし・・・
しかし狂言としてはドタバタ劇、ですね。
初心者の方でもリアクションだけで楽しい←そういう見方でいいのだろうか?素人の私にとっては楽しい(笑)
基本的に有名な「茸(くさびら)」という演目にそっくりですね。
あちらは、祈れば祈るほど、「人体のような茸(くさびら)←怖い」が増え続けるのですが( ̄▽ ̄:)
「いろはにほへと・・・」と唱える怪しさも同じ←その呪文はなに?
萬斎さんは山伏役。
最初の登場では、能「葵上」のワキの登場謡を重々しく謡って現われます。
(葵上は未見なので、是非観てみたいです)
とても良いお声で、これは素人ながら本当に素晴らしいなと思うのです。
結局、そんなに重厚な登場の仕方をしておいても、山伏としての力量はたいしたものではない、というオチですが、この落差がまた面白いですね。
最後の最後は山伏自身にまで梟がとり憑いてしまうわけですが、確かに海外の方が「気味が悪い」と言ったように、ちょっとゾゾーーっとします。
これは萬斎さんの山伏だからでしょうか。
他の方が演じる梟山伏。
また、大蔵流茂山家の「梟」との見比べもしたい曲でした。
二人袴(ふたりばかま)
これは聟(むこ)入り物で、祝言性の高いおめでたい曲だそうです(去年の石田幸雄師の解説で聞きました)
<あらすじ>
息子=聟(シテ)である花嫁の家(舅が待つ)に挨拶に行くことになった。
しかし一人で行くのは恥ずかしいから、どうか付いてきて欲しい、などと親に頼む。
仕方がないなぁと門前まで連れて行き、袴を身につけたことのない息子にきちんと履かせてやる。(・・が、歩き方がぎこちない、というところが笑いを誘う)
親「じゃ、ガンバッテな(⌒◇⌒)ノ」と帰ろうとするも
息子「どうかここで待っていてください」と情けない息子。
仕方なくそこで待つことにした。
息子は聟入りの挨拶を舅にしに対面するが、太郎冠者が「表に親御様がいらした」と言ったために、舅が「こちらへお通ししなさい」と命じる。
慌てた息子は「それは親ではない」と嘘をつくが、太郎冠者も引かず。
仕方なく親を呼びに行くが、袴が一つしかない。
急いで息子が身につけていた袴を親が着用し、舅の前に出て行く。
なんとか誤魔化そうとしたが、そのうち「二人で出てきてくれ」と言われ悩む親と子
(*ーー*)うーん・・・
「おおッそうだ!Σ(・∇・)名案があるぞ」ということで、 袴を前後に引き裂き、それぞれ前掛けのように当てて誤魔化そう
と試みる。
「いいか、絶対に後ろを見られるなよ・・・」
現代で言えばそんな感じの会話でしょうか(笑)
そんな状態で親子二人、懸命に取り繕う。
しかし世間知らずな息子は舅との会話で、天真爛漫な受け答えをし、親は肝を冷やす。
そのうち、舅に舞を所望され、また困る。
舞を舞う、ということは 後ろを見られてしまう
のだから( ̄▽ ̄:)
なんとか後ろを見られぬよう1段目、2段目を舞ってみるものの、舅の納得はいかない。
じゃ、三人で舞おう
といよいよ3段目を息子、親、舅で舞う。
そのうち、袴が前側にしかないことが見つかり、恥ずかしくなった息子と親は逃げ出す。
この聟(息子)の「世間知らず」っぷりはなかなかです(笑)
これもまた、リアクションの大きな曲なので、言葉が難しくても見た目だけで十分楽しめますね。
今回のシテ(息子)は竹山さんでした。
1段目、2段目の舞は一人で舞いますが、扇を持つ手が小刻みに震えているのを観て、「初々しいのぉ・・・」と思ったりもしたのですが、彼は2歳から舞台に上がる芸歴は結構長い方なのですね。
でも、お若いので世間知らずの聟という設定では初々しくてよかったです。
前回は高野さんの聟を拝見しました。
袴を履いたことがないので、かなり歩きずらそうにするわけですが、そのたどたどしさは高野さんのほうがよりオーバーでしたね。
本来の「忠実な型」がどうであるのか、狂言を習っていないのでよくわからないのですが・・・
頬の紅潮具合は高野さんの聟も可愛らしい。
前回と今回とで、笑いの起こる場所も若干違いましたかね。
初見と二度目という違いもあるんでしょうか。
舅に是非来て欲しいと言われた旨を息子が親に伝えますが、 「迷惑なことじゃ」
と言うんですね。これがまた本当に迷惑そうで、面白い。←気持ちも何となく分かる(?)
余計なことを口走る息子を シィーーー!!(→ω←)」
と親がたしなめますが、これもまた笑えるところです。
余計なことって何か、というと
舅に「夫婦仲はどうか?」と聞かれた聟が「ご心配はありませんよ、最近妻は青梅を好んで食べますから」と答えます。
つまり、仲が良い証拠に赤ちゃんが出来ましたよ、と言いたいところなのですが、父親の心情からすれば、そのような例えはあまり聞きたくないものであるかもしれません。
それを察した親が息子の軽はずみな言動に「コラコラ!」と釘を刺すのです。
深田さんの解説で、この「青梅を好く」という表現についての講釈がありましたが、とっても照れまくり状態で
「つまり、その、あの・・・結婚すると自然に・・・えっと( ̄▽ ̄:) 」
みたいな(笑)
いえ、別に恥ずかしいことではないと思うのだけど。
「赤ちゃんが出来る」ストレートでOK( ̄∀ ̄)
あんまり恥ずかしがって仰らないので、その部分の解釈が初めてご覧になる方たちにとっては伝わらなかったようですよ(笑)
深田さんの 生
真面目な性格が垣間見れました。
全体を通して狂言って、結構楽しいぞ、というアピールにはとてもよい公演でした。