萬華鏡-まんげきょう-

大田区区民プラザ「狂言の夕べ」

狂言の夕べ
於:大田区民プラザ

平成17年6月29日(水)午後7時00分開演




番組表(敬称略)

解説 石田幸雄

■和泉流狂言「柑子(こうじ)」

 太郎冠者/野村万作 主/野村万之介 後見/高野和憲

■和泉流狂言「弓矢太郎(ゆみやたろう)」

 太郎/野村萬斎 当屋/石田幸雄 太郎冠者/竹山悠樹
 立衆/深田博治・高野和憲・月崎晴夫 後見/野村良乍




今回の解説は石田さんでした。
私にとってはちょうど1年ぶり、でしたかね。
とても分りやすく丁寧に解説くださる石田さんの解説をまた聴けて嬉しい会でした。

会場の方々へ恒例の「狂言を初めてご覧になる方」というアンケートを取られ、割と「初めて」という方が多かったので、狂言を鑑賞する上でのポイントというか、決まりごとのようなことを教えてくださいました。

過去にこちらのレポで随分と書いているので重複しておりますので細かいことは割愛しちゃいますが、
初めてご覧になる方にとっては、「狂言とはいつ演技が始まっているのかわからない」というもの。
マイクを持ち、五色の幕のほうへ移動されると石田さんをスポットライトが追う。
「ありがとうございます、スポットライトで追っていただいて(苦笑)」
そして、摺り足でこのように演者が入ってきて、名乗り座において一歩足を引き、「私はどこの誰それです」と名乗り(自己紹介)をいたします、と。

そして、 舞台上を一周するだけで、目的地に到着してしまう という決まりごと。

これをリアリズムに考えてしまうと、狂言は楽しめないのですと。
ここが「北海道」と言ったら「北海道」になってしまうのです( ̄∀ ̄)b

そして、今回の曲の内容説明に入ります。

◇柑子(こうじ)◇



主人から頂き物の3つの柑子(こうじ)。柑子とはつまり「みかん」のことですね。
これを最前太郎冠者に預けてあったことを思い出し、持ってくるように言われた太郎冠者。

実は 3つとも持ってくる途中で全て食べてしまった太郎冠者。
そこで「出せ」という主人にあれやこれやと言い訳を始める。

まず一つ目。
「落ちて転がっていってしまったので、「好事門(こうじもん)をいでずというからとまれ」と呼びかけ、それに応じて食べてしまったところを食べてしまった」と言う。

(*ーー*)うーん じゃ、仕方ないな。あと二つあるから、じゃ残りを出しなさい。と言う主人。

それがね・・・と太郎冠者。
二つ目は
「大事に懐にしまっておいたものの、潰れてしまったので・・・食べました」

(*ーー*)ふぅ・・・仕方がないな、じゃ残りの一つを出せ、という主人。

いやぁ、ここまで来て結構この主人 寛容 じゃないだろうか(笑)

太郎冠者「さて、その三つ目なんですが、これまた悲しい話がありましてね・・・」

ここで 平家物語 の中でのお話が題材となって、その知識が必要となってくる。



俊寛僧都(しゅんかんそうず)の島流し~平家物語~

平清盛を追討しようと謀議が諮られた有名な「鹿ケ谷クーデター」
これに関与した者の殆どが捕らえられた。
そこで、以下の三人は 鬼界が島 へ流罪となる。

俊寛僧都(しゅんかん) ←この人がポイント!
・少将成経(なりつね)
・康頼入道(やすより)

そこで、俊寛以外の二人、「成経」と「康頼」は島に着くと熊野三所権現を勧請した。
つまり、神仏を祀った、ということ。
そして、信仰心が厚いとのことで、 俊寛僧都以外の2人が 罪を許されて都へ帰れることとなった。
「平家物語」では、そのシーンをこんな風に書いている
成経と康頼の二人は清盛から許され、鬼界が島を出て都へ帰ることとなった。必死に舟にしがみつこうとする俊寛の手を、都の使いは払いのけた。渚に上がった俊寛は、足摺りをして泣き喚き、高いところに上り、去っていく船を見送った。




このシーンを想像するだけでも、俊寛僧都の無念や寂しさ、辛さが伝わりますね。
史実ではなくあくまで「平家物語」の中で語られている内容ですが、これを元に、この狂言「柑子」の中で太郎冠者は3つ目の柑子を食べてしまったことの言い訳を言うのです。

なんとなく想像がつきますか?( ̄∀ ̄*)

この「俊寛僧都が一人鬼界が島に取り残されてしまった」エピソードを語り、元々3人(柑子で言えば3つ)であったものが、1人(1つ)となってしまったときの悲しみを思うと悲しくて仕方がない(TдT)
きっと柑子も俊寛と同じ思いのはず・・・
なので、 六波羅(太郎冠者の「腹」)に納めました・・

と言うのです。

主人「そうか、そうかなんとかわいそうな話だ・・・。・゚゚・(≧д≦)・゚゚・。」

へ(_ _ヘ)☆\( ̄∀ ̄*)ってこらっ!!

結局は叱られてしまうのです。

この俊寛僧都のエピソードを知らないとなかなか最後のオチが理解できない狂言かもしれませんが、演じる人によってまた味わいの違うと言われ、短いが、なかなか演者にとっては難しい曲だということです。

【柑子:あめみこの感想】

見せ場といえば、太郎冠者(シテ)が柑子(みかんのこと)を食べるところ。
丁寧に皮を剥き、白い部分まで取って「あむ、あむ、あむ・・・」と美味しそうに食べるのです。
落語でも「時そば」を生で拝見したとき、柳家花緑さんが美味しそうに蕎麦を食べるところを近くで拝見しましたが、万作さんの食べる柑子もいや、なかなか美味しそうでしたね。

殆ど舞台上を動かず、太郎冠者の語りと、柑子を食べる動作のみで、大きな動きがありません。
しかし飄々と柑子を食べてしまったことを饒舌に言い訳する太郎冠者と、まんまと太郎冠者の言い訳に感情移入(?)釣られてもらい泣きしてしまう主人の人の良さが、なんだか面白いし、ホっとします。

特にこれが太郎冠者@万作さん×主@万之介さん という組み合わせでしたから、若い二人が演じるのとチョット違った趣にもなるかもしれません。

若い方が太郎冠者を演じると、少し小憎らしさなんかが出たりするでしょうか?是非、若い方の「柑子」も拝見してみたいものです。



◇弓矢太郎(ゆみやたろう)◇



<あらすじ>
臆病者のくせにいつも弓を携え強そうに振舞っている「弓矢太郎」を脅かしてやろう、天神講(菅原道真の命日に行われるお祭り)で集まった連中が相談をしている。
そこにやはり弓矢を携え立派な姿で現われた「太郎」
あれやこれやと太郎は自分の豪腕振りを自慢。
そこで、当屋はとっておきの怖い「玉藻前の伝説」(下記参照)を話すと太郎はさすがに恐ろしくなって、顔色を変える。
更に、仲間たちは「天神ノ森に鬼が出た」という話をすると、とうとう太郎は目を回して倒れてしまう(@_@)

大笑いし喜ぶ仲間たち。

程なくして、目を覚ました太郎をからかうと、
「面白い話だったらつい眠っちゃったんだって~」←そんなことあるかいな?( ̄▽ ̄:)
と、ケロっとした素振りを見せる太郎。

いよいよ面白くないと思った当屋は「肝試しをしよう」と提案する。
「真夜中の天神ノ森に行き、とある松にこの扇を掛けてくればよしとしよう」

太郎「よぉーし、わかった。そんなことくらい大丈夫だっ」とばかりに息巻いてその場を立ち去る。

当屋も太郎も考えることは同じ、鬼に変装をして天神ノ森へ出かけるが、お互いに暗い森の中で出くわし、本物の鬼が出たかと勘違いをし一緒に目を回して倒れてしまう。

先に目を覚ました「太郎」
「鬼だ、こりゃ大変だ!」と抜き足差し足その場を逃亡するが・・・何やら立衆(仲間たち)が来る。

身を隠さねばと、その様子を伺っていると、本物の鬼が寝ていると思っていたが、実は当屋であることが判明。

太郎「なるほど( ̄∀ ̄)ニヤリ」とばかりに、仕返しを画策。
鬼の扮装を再度して、当屋や立衆たちを驚かすと「許してくれ~」と言って逃げていく。

太郎の復讐大成功!・・・というお話です。


さて、前述にも出てきた 「玉藻前(たまものまえ)」の伝説について豆知識。



玉藻前(たまものまえ)の伝説

これは3000年以上生きた妖狐のお話です。
九本の尾っぽを持つという狐。気味悪いですねぇ~
インド→中国→日本へと渡り歩き、悪行を行ってきた妖怪。
インドや中国の周王朝も滅ぼそうとするが、正体を見破られ、なんとあの 陰陽道の秘術を中国に学びに行ったと言われる遣唐留学生の吉備真備 が帰国する船の中に乗り組み、美しい少女に化けて潜んでいたそうな。・・・って、吉備真備は見破れなかったのか?(細かいこと言うな?)

そして、日本に着いた妖狐はやがて玉藻前として宮中へ上がり、鳥羽院の寵愛を受けるようになる。その後、鳥羽院は原因不明の病に冒され続け、陰陽博士の安倍泰親(あべのやすちか)に占わせてみると、泰親の神鏡に十二単を着た九尾の妖狐が現れたという。
そして玉藻前の妖狐は那須野に追い詰められ、射たれて死ぬこととなる。
しかし妖狐の怨念は栃木県那須町に飛び、自ら 殺生石 に化けて、近づくものをに全て殺しつづけた。
その後、この地を訪ねた源翁和尚はこの殺生石を見つけ、念力によって石は3つに砕け散り、1つはこの地にと、2つは会津、備後へと飛んだ。
しかし、その殺生石の欠片は妖狐の執念が残り毒気を吐いているといわれている。
これが、能「殺生石」などで語られている元の伝説となっている。



石田さんの弓矢太郎のあらすじと一緒に、解説として大方、このような話「玉藻前伝説」のエピソードを話て下さいました。

あの、「殺生石」と繋がる逸話だったんですね~。知らなかった!
そして、吉備真備が連れ帰ったとされている・・・
吉備真備といえば、陰陽道。
狐といえば=陰陽師=安倍晴明←更にこじつけ

そんなわけで、何となく私にとっては興味深~いお話でした。面白いです。

そして私はお能この「殺生石」は拝見したことがないのですけれども、なかなか有名な話だそうで、弓矢太郎の狂言の中に上手く埋め込まれているのですね。


【弓矢太郎:あめみこの感想】

太郎は己を強く見せるため、山伏ちっくに登場。
狩りでは見事にこの弓矢で射てみせるよ~( ̄∀ ̄)と自慢げな様子やそれを観ていた立衆が面白くない、と言った様子が型の中にあるのに、芝居のように観客に伝わるのって不思議な感じ。
太郎が自慢の弓矢を射る格好をセンター方向の観客席に向かってしますが・・
そのスタイルが「奈須与一語」のようにも見えてドッキリ(〃 ̄▽ ̄〃) まさに撃ち抜かれ状態
←私は狐か・・・

天神ノ森に鬼が出ると怪談話を聞かされて、目を回して仰向けに倒れてしまうのですが、首もグルングルン回して、とってもコメディーちっくな動きでとても笑ってしまいます。

天神ノ森へ肝試しに向かうことを承諾させられた太郎が息巻いて扇を持ち力強く一指し舞いますが、凛々しくて素敵でした。

当屋と太郎が闇夜の中で互いに背中合わせにぶつかり、やはり肝を潰して二人が同時に目を回してひっくり返ってしまうところも、笑いの見所です。

太郎は当屋よりも先に目を覚まし、その場を立ち去ります。そこに立衆が当屋を探しに来ては起こし上げますが、当屋役の石田さんは目を回して倒れた後、ただ床に「だらーん」と寝ッ転がっているわけではなく、頭の先から爪先まで緊張感を保っているんですね。
首は、常に持ち上げた状態に見えました。
これは、かなりの腹筋を使うのではないかと思いました( ̄▽ ̄:) プルプルしそう・・

当屋「鬼が出たんだ~(TдT)」と怖気づきながら立衆に話す様子を見て、太郎は自分がからかわれていたことに気付きますが、橋掛リで 「なりきり鬼」になる姿(ポージング)が面白いです。 お茶目というか、かわいいというか、弓矢太郎が豪傑な男だという建前はあまりわからなくなってしまいます(笑)
萬斎さんが演じると、お茶目というか悪戯っぽくて目を奪われます。

少し長めの曲ですが、最初から最後まで見応え抜群でした。

一旦、演者が全員、幕の中に引っ込んでしまうのは、割と初めてでした(多分)
またこの曲はリピーターとして公演に行って観たいですね。


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