青藍(せいらん)な日々

青藍(せいらん)な日々

第50話 ヨットの神様



ヨットがどんな状況で走るのか。それによって、人間はそれに合わせて走る。自然は常に変化しますので、ヨットも人間もそれに合わせる事になる。それによって何が起こるか?人間の持つあらゆる感情を引き出してくれるわけですね。安心感、爽快感、苦しさ、怒り、悲しみ、全てです。本当はその一部だけ味わいたいと思います。楽しさ、爽快感、感動、そういうものだけなら、実にヨットはたのしいのにと思います。

しかし、さすがといいましょうか、一部しか味わえないとしたら、それは退屈なものになってしまうと思いますね。爽快感を味わうにはそうでない時を味わわないと解らないのです。一部しか味わえないなら、その一部さえ解らない。だから全部を味わえば、爽快感が生きてくる。だから、つらい思いを味わいなさいというのでは無いのです。積極的に味わう必要は無いでしょう。でも、どうしても味わう事になるんですね。行きは良いが帰りは辛かったなんて事もあります。でも、それだから乗らないなんて言うのはもったいない。辛さは楽しさの一部を見せてくれた事になるのです。だから、神様なのです。全てを与えてくれます。

ヨットは奥が深いと言われます。それは自然が片時も同じ状態では無いからではないでしょうか。いつも同じなら、極める人も出てくるでしょう。しかし、いつも違う。このヨットの奥深さを与えているのも自然ですね。一方、初心者が乗れて楽しい状況もある。全てのヨットマンに、それぞれのレベルで爽快感から辛さまでを与えて、ヨットの奥へ奥へと導く。奥へ入れば、その場所で爽快感から辛さまでを与え、望むなら、もっと先へも案内してくれます。一体、ゴールはあるのでしょうか。ないんですね、これが。ベテランが初心者が乗れるような状況でも楽しめる。という事はゴールは無いのです。だからヨットはプロセスの遊びなのです。結果はどうでも良い、プロセスをいかに楽しむ事ができるか、という遊びです。ゴールがあれば到着したらお終い、でもゴールが無いのですから、永遠に続く。こういう遊びのルールは人間ではできません。それをもたらしたのが自然であり、やはり、自然はヨットの神様なのです。


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: