『先輩、そのルートで合ってますか?』

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2026年09月04日
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第5話 会社の中にも、地図がある

「会社の中にも、地図があるって何ですか?」

新人が聞いた。

秋雄は少し考えた。

「そのままだよ」

「道路地図みたいな?」

「そこまで分かりやすくないけどな」

新人は首をかしげた。

秋雄は指を折った。

「配車のことなら、この人」

一本。

「地理なら、この人」

もう一本。

「車のことなら、この人」

さらに一本。

「予約のことで迷ったら、この人に聞けば話が早い」

新人が笑った。

「いっぱいいますね」

「一人で全部知ってる人なんて、そうそういないよ」

「先輩に全部聞けばいいと思ってました」

「やめてくれ」

秋雄は笑った。
「俺だって知らないことはいくらでもある」

「じゃあ、知らないことがあったら?」

「知ってそうな人に聞く」

「その人も知らなかったら?」

「また別の人に聞く」

新人は少し考えた。

「それが、会社の中の地図?」

「そう」

秋雄は頷いた。

「道路なら、どこを曲がればどこへ出るか覚えるだろ?」

「はい」

「会社の中も同じだよ。誰に聞けば、どこへつながるかを覚えていく」

新人は配車室の方を見た。

「配車係だけじゃないんですね」

「もちろん」

「先輩運転手も?」

「そうだよ」

秋雄は言った。

「だから、普段から挨拶しておくんだ」

「あ、戻った」

「戻るよ」

新人が笑った。

「必要になった時だけ突然話しかけるより、普段から顔が分かってる方が話しやすいだろ」

「確かに」

「行き違ったら、そのままにしない」

「はい」

「出勤したら、元気に挨拶する」

「はい」

「分からないことがあったら、一人で抱え込まずに聞く」

新人が頷いた。

「それが全部、社内営業?」

「俺はそう思ってる」

「でも、仕事をもらうためにやるわけじゃない」

「そこ、大事な」

秋雄は言った。
「いい仕事をくれってお願いして回るのが社内営業じゃない」

「じゃあ?」

「仕事を任せてもらえる状態を、普段から作っておく」

新人は少し黙った。

「それで結果的に、仕事が来ることもある?」

「あるだろうね」

「来ないことも?」

「もちろんある」

「じゃあ、やっぱり保証はないんですね」

秋雄は笑った。

「営業なんだから、そんなものだよ」

「外でも中でも?」

「外でも中でも」

少し間が空いた。

新人が言った。

「タクシーって、道路を覚えて、お客さん乗せてればいい仕事じゃないんですね」

「十年やってても、それだけじゃ済まないよ」

秋雄は営業所の中を見回した。

配車係がいる。

整備のことに詳しい人がいる。

地理に強い人がいる。

新人の面倒を見るのが好きな人もいる。

癖の強い人だっている。

「会社の中にも、いろんな道がある」

秋雄が言った。

「全部通る必要はないけどな」

「じゃあ、どう歩けばいいんです?」

秋雄は少し笑った。

「それは、また別の話だな」

第13章終わり

来週月曜日10:00に更新






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最終更新日  2026年09月04日 10時00分05秒
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