しろねこの足跡

しろねこの足跡

しろの仔猫


おじょうさんがおとなの振る舞いを身につけ、水の流れに沿うように学校に漂い、高校受験をめざしていたころでした。

しろはあまり動きたくなくなっていました。
毎日、シマの夢をぼんやりみていました。
しろはあんまり目が見えなくなっていました。

でもかまわない。
おじょうさんの手触りは感じ取れる。
おじょうさんの手のよくすりこまれたいつものハンドクリームのにおいはわかる。
だんだんおじょうさんの声はちいさくなっていくけど、おじょうさんがやってきた足音はかさかさした肉球でも感じ取れる。

おじょうさん、おじょうさん。しろはおじょうさんが大好き。

勝手口の隙間にいつもどおり顔をおしあてて眠っているとなつかしいにおいがした。
甘い、ミルクのにおい。
甘えたかすかな泣き声。

しろは夢中でねだって外にだしてもらった。

「しろ、どこいくの?しろ?」おじょうさんの不思議そうな声。

仔猫だ!仔猫のにおい!仔猫の鳴き声!
どこ、どこ?

「おかあさん、しろが仔猫くわえている!しましまの仔猫!」

おじょうさん、しろのおねがい。
この仔猫、しろの仔猫にして。シマそっくりの捨てられた仔猫。しろがこのお家に来たときといっしょ。
キィキィ鳴いている。
しろ、おかあさんに、なる。

しろは夢中でしましまの仔猫を、ハウスにくわえていって、なめてきれいにして抱え込んで暖めました。

しばらくして、おじょうさんが急いで買ってきた猫用ミルクをそっとハウスにいれてくれました。

しろに残された時間は、おじょうさんと仔猫でやさしく満たされようとしていました。



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