青すぎる空の下で
熱く焼けた地面から陽炎が揺らめき立っている。
「あちーなぁ・・・。こんな日にアメイラですかぁ？」
思わず不満を口にする私を、一同は呆れ顔で見ている。
「たまには真面目に狩りに行こうね。俺が行くって言ってるんだから。」
まだ街装備のままのギルマスがにっこりと笑っている。
「そうそう。大体、師匠はいつもそうやってサボろうとするし。」
小柄な弓使いがしたり顔で頷く。師匠を思いやる気持ちはないのですか、お弟子さん。
しかし、弓使いの言葉に同調するように、仲間たちはうんうんと頷いた。みんな、ヒドイよぉ。
「まあまあ。」
もうひとりのお弟子さんが柔らかくみんなをたしなめる。流石、師匠思いのいい騎士さまだ。
「そんなこと言ったら蹴られちゃいますよ。」
・・・あなたもですか。
むっとして噛み付こうとしたところを、ギルマスのバトスタで抑えられる。
「はいはい、行くよ。」
その一言で終了。
すぐに狩場に足を向けるあたり、ギルマスの統率がいいのか、単にからかい飽きたのか・・・。
多少の不満を残しながら、砂漠の街を仲間の後について移動する。
島へと渡る者、神殿へと昇る者、街はさまざまな旅人でごった返している。
目の前を横切る人にぶつかりそうになって、思わず足を止める。
えっ・・・。
目の前を横切っていった人影・・・。
目に入ってきた映像が鮮明すぎて、思考が止まる。
わずか数秒の間の後、あわてて視線を廻らせたが、もうすでにその人影は雑踏に紛れてしまっていた。
あれは、あの姿は・・・。
忘れられるわけのない姿。
グラ装備に両手剣。私の一番好きだったあの人の格好。
でも、あの人であるわけがなかった・・・。
もっとも、最後に記憶しているあの人の姿はすでに「両手」ではなかったが。
それは、こんな風な夏の終りの暑い日だった。
『なぁ、まだ師匠探してんのか？』
あの人は思いもかけなかったことを言い出した。
『俺がなってやるよ。』
そう言って、笑った。
笑うと、どこかいたずら小僧のような幼いところが見える、そんな人だった。
明るい目をした、ちょっと意地悪な聖騎士。
そんな彼が大好きだった。
当時から不真面目な私を、叱りとばしながら、それでも優しく見守っていてくれた。
それがいつからだったろう、明るい瞳が曇りだしたのは･･･。
両手の大剣を振り回していたあの人が、片手剣に戻り、おとなしく聖騎士の役割をするようになった。
何故？と聞いた私に、望まれているから、と。
『無理してない？』
『何で？んなことないぜ。』
今にして思えば、やけに大人びた笑顔だったのだが、そんなことには気づくことはなかった。
あの時にはもうあの人の心は決まっていたのかもしれない。
『やめた。』
あの人はあっさりと私の前から消えた。
引き止めることはしなかった。
あの人はそれを望んでいなかったし、止めても聞くような人ではないこともわかっていた。
旅立ってからは、便りひとつよこさない。あの人らしいといえば、らしかったが、寂しくて仕方がなかった。
だがその思いすら風化していくのだろうか･･･。
相変わらず不真面目な日々を送りながらも、あの人が纏うことのなかった鎧を身に纏うところまできた。
あの人はもう幻。
現実は手の届くところにある。
「しーさん、行くよ。」
足を止めたままの私をギルマスが振り返る。
「どったの？ 師匠？」
弓使いのお弟子が私の顔を不思議そうに見ている。
「神妙な顔しちゃって・・・。何か悪いもんでも食ったのか？」
言葉は悪かったが、瞳に心配げな色が見え隠れしている。
もうひとりのお弟子も困ったような顔でこちらを見ている。
手に届く現実。
何ものにも代えられないもの。仲間たちがここにはいる。
「ん、何でもないよ。」
笑顔を返して、歩きだす。
私は幸せ者だ・・・。
だけど、こんな日にはまた思い出してしまうのだろう。
通り過ぎて行った夏の幻。
それはほろ苦くて、切なくて、そして、大切な思い出だから･････。
某所で師匠云々の話をしたときに、そういやこんなの書いたなぁって思い出して引っ張り出してみました。
最初に書いた当時から、今の状況が違うので登場人物変えたりしたので、へんなことになってる気がするけどね＾＾；
大好きだったお師匠さま。世界征服の野望は果たせそうですか？ｗ
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