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「死んでいない者」(文春文庫)
で、
「おや?この人は!」 と思いました。 2016年 の 芥川賞 受賞作 です。
「これは、本物だ!」と確信した 滝口悠生 の新作 「たのしい保育園」(河出書房新社) を読みました。
傑作や!と思いましたね。
父親に抱っこされて玄関を出、仕事に向かう母親とタッチしたところまではよかったが、家の前の道で母親が駅の方へ向かって歩き出し、父親がそれとは反対の保育園に向かう道に歩き出そうとすると、娘は抱かれた父親の胸から逃れようと身をよじり、遠ざかる母親の方を見て泣き出した。(P6) で、 書き手 でもある 父親 と 「お母さんがいい」 とグズり泣きを始めた、ようやく2歳になろうかという娘の格闘が、作品の巻頭 20ページ にわたって続きます。
父親は泣きじゃくる娘の前でもうなにも言えず、自分もいつか死ぬんだな、と思った。それで娘の前に腰を下ろし、尻をついて地面に座り、体の後ろに手をついた。顔を上に向けると遊歩道沿いに建つ家の庭木にピンク色の花の蕾がいくつもついているのが見えた。桃の花だ。(P18) で、次の行を読んだ、人それぞれの読者の一人である シマクマくん 絶句! でした。
ももちゃん、と父親が娘の名を呼んだ。さっきからもう何度その名前を呼んで、なだめたり機嫌をとったりしたかわからないけれど、娘が生まれるまで娘が存在しなかったように、娘の名前もこの世界には存在しなかった。音や言葉としてはあったけれど、娘の名前は娘に向けられるために誰かが考えて、決めて、つけた名前で、それは誰かと同じ名前であっても本当は同じじゃない。名前を呼ばれた泣き顔の娘はしわくちゃにした顔を父親に向けた。鼻水がそのまま口に流れ込むように垂れ落ちている。父親は、ももちゃん、ともう一度名前を呼び、お母さんがよかった、と言った。あれ見てみ、桃の花、と頭上の桃の木を指さしたが、娘は見ず、座ったまままた泣き出して、足をばたばた地面に叩きつけた。ももちゃんのももは、桃の花のももじゃないけど、と父親は思った。こうして思いがけず見つけた同じ名前の花の蕾が、娘の名前を呼んでくれる。(P19) シマクマ君 には、実は娘がいます。このブログでは ピーチ姫 と呼んでいますが、その娘、実は 「ももちゃん」 なんですね。
傑作です!(笑) 作品は 連作短編集 の趣で、下に目次を貼りますが、全編、 ももちゃんとお父さんとの格闘 です。 ふいちゃん とか、 あみちゃん とか、ナカナカの猛者も登場します。 ももちゃん が泣いていて、 ふいちゃん が手を振っていて、 あみちゃん が、はてな?と見とれている 世界 に対して、 お父さんの「ことば」 の届かなさをこそ描いた 「ことば」 の連なり 、
語れども語れども、その向こうに広がる世界!やっぱり、忘れられない 傑作! です! 70歳を越えたジジイが、読み出したら止められない保育園の風景って何なんですかね。いや、ホント、ノスタルジーに浸っていってるんじゃないんです。読んでみてください!
目次緑色 5 恐竜 31 ロッテの高沢 51 音楽 93 連絡 113 名前 205
追記
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