日々,子持ち。

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「銀河鉄道の夜」


 ・・・
 「こっちはすぐ食べられます。どうです,少しおあがりなさい。」
鳥捕りは,黄色ながんの足を,かるくひっぱりました。するとそれは,チョコレートででもできているように,すっときれいに離れました。
 「どうです。すこしたべてごらんなさい。」
鳥捕りは,それを二つにちぎってわたしました。ジョバンニは,ちょっと食べてみて,
(なんだ,やっぱりこいつはお菓子だ。チョコレートよりも,もっとおいしいけれども,こんながんが飛んでいるもんか。この男は,どこかそこらの野原の菓子屋だ。けれどもぼくは,この人をばかにしながら,この人のお菓子を食べているのは,たいへん気のどくだ。)と思いながら,やっぱりぽくぽくそれをたべていました。

             宮沢賢治『銀河鉄道の夜』1985年 偕成社文庫           



 言わずと知れた名作,『銀河鉄道の夜』の一節。
 ジョバンニとカムパネルラの二人が乗った「銀河鉄道」に,途中から相席してきた,「鳥捕り」が出てくる章からです。

 最初に白状しておきますと,実は,本当の文章からの印象ももちろん強いのですが,この作品に関してはどうしても,ますむらひろしの【猫】の『銀河鉄道の夜』の映像が,浮かんできてしまうのです。だから,純粋に文章から感じ取った味,とは言い難いのですが,ご容赦ください・・・

 さて,鳥捕りの捕った鳥の味はどんなだったでしょうね。

 ジョバンニはチョコレートを引き合いに出して,それよりも美味しい,と言っていますから,何か洋菓子のような味だったと推測できますが。しかし,どうも私は,洋菓子のような味はこの場面で思い浮かびませんでした。ねっとりと口に残るチョコレートの感じは,銀河鉄道の世界に合わない気がします。そもそも,「ぽくぽく」という擬音が,どうにもそぐわない。

 強いて言えば・・・干菓子の様な印象があるんです。

 ざらつきの少ない,秋田で言うところのもろこしのような小豆臭さもなく,上等の和三盆を突き固めたような感じと言いましょうか。かじるとぽくっとするのに,口の中ではすっと溶けていく,後味を残さない上品な味。現実にはあり得ないと思いますが,あくまで粉っぽさは残らない。舌の上がスーッとする感じ。
 干菓子の連想は,映画の映像で出てきた鳥が,すっかり平べったく固くなっていたのを見たせいもあるかもしれませんが・・・

 まあ,実際干菓子の様な味だったとしたら,チョコレートと比較するのは何となくおかしいんですけどね。

 そう思うと,あるいは,昔の安いチョコレートの味が連想されてきます。
 本当にチョコか?というくらい,カカオの風味なんかなくて,少しざらつきがあって,砂糖の甘さばかりのような。かじった感じも,何となくちゃんとしたチョコと違って,妙にもろい感じの。大して美味しくないのに,懐かしいような味です。








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