干していた寝具類の撤収をするため、ベランダへ。

・・・欄干に掛けてある敷きふとんに、もたれながら、腕を向こう側へダラリ。

ふとん叩き棒を握る手を少し、緩める。

今にも滑り落ちそう・・・この軽い棒が、するりと手を放れて裏の畑へ落下したなら。

そうしたならば、誰も追ってこられないように失踪宣言書をチラシの裏へマジックペンで、したためて、新しい名前を考えながら駅へ行こう。

一年の混乱期、今なら逃れられるような気がして。

たまに訪れる強い誘惑。

でも、そんな事は無理に決まっている。

「運命」なら、本気になれば逃げ切れる。

だけど「宿命」は永久に魂に刻印を受けていて、どこへ行っても何者になったとしても意味は無い。