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第一花 昇華
第一花 昇華
掃除機がごぼっと音を立てた。埃がテレビ台の下や書架の後ろに、うずたかく積もっている。掃除機は、それをまるで一枚の布を吸い込むようにずるずると飲み込んだ。
落とした時に転がって行方知れずになったものなのだろう。その下から数種類のコインやメタル製のゴルフマーカーが姿を現した。とっくに忘れ去られているに違いない。
コインは千円ほどあった。埃をティッシュペーパーでふき取り、リビングのサイドボードの上に並べた。黙ってポケットに入れたところで誰も気付きはしないだろうが気持ちが悪い。
どうせ捨ててしまうかもしれないマーカーも側にまとめて置く。本棚や書類にまで積もった埃をくまなく取り除き、固く絞った雑巾で更に拭った。
開け放たれた窓から、大通りの騒音が排気ガスと共に雪崩込んできた。信号が変わり、一斉にクルマが流れ出したのだろう。
*
横浜から越して来て、まだ二十四時間と経っていない。浅い眠りから覚めたわたしは、ベットから起き上がった。ゆっくり休養してから徐々に片付ければ良い、と言い残して、姉は朝早くに仕事へ出かけた。
そう言われても――何気なく覗いたテレビ台の下の埃や、絨毯にへばりついた髪の毛を見つけて、いてもたってもいられず掃除に没頭してしまったのである。
悪い癖だ。
起き抜けの格好のままで、いまだに身支度も出来ていない。急な訪問者には、居留守を使うしか手のない悲惨な情況であったけれど、うまい具合に誰も訪ねては来なかった。
姉の所に居候することになったきっかけは、わたしが一番信じていた夫が起こした事件だった。何度も何度も考えて、血を吐くような思いでわたし一人が家族から離れた。
慌しい引越しと同時に移り住んだマンションは、仕事で飛び回る姉が、週に数日過ごすだけの空間である。
まともに家事が出来ないので、掃除はプロに委ねていたようだ。それもシーズンに1、2度の頻度らしい。
姉は五十歳を過ぎて行き場のないわたしに、住まいの提供と同時に仕事も紹介してくれた。あり難い話だ。
わたしが恩返しできることと言えば、少しも苦ではなく、むしろ喜びでもあるハウスキーピングで常に心地よい空間にしてあげることぐらいである。
そう思うと尚更、力が入る。
*
台所は、調理器具が備え付けの棚や引出しに散乱している。なべ底の焦げや雑然としたシンクの下も気になる。
米びつには、いつ買ったのか賞味期限不明の米が数キロ入っていた。少し掌に取り出して臭いをかいでみる。……相当に古そうだ。
米をビニール袋に移し、米びつを空にする。
意を決して、衣服の袖口を肘までまくりあげた。小一時間もあれば片付くだろう。
特にシンクの下は汚い。ゴキブリ駆除の団子がそこら中に無造作においてある。効果があったのかどうか、小さなゴキブリの死骸が夥しい数で重なり合っていた。
二十数年暮らした横浜の家では、生ゴミを放置しないことが功を奏したのか、ただの一度も出くわしたことがない。
恐る恐る団子ごと掃除機で一気に吸い込むと、茶色の汚らしいシミだけを残してゴミもゴキブリもきれいに消えた。
ほっと胸を撫で下ろす。
用意してきたゴム手袋をはめ、住まい用の洗剤でシミを拭い取る。引出しは中身をすべて取り出した後、そのままシンクの上で水道を流しっぱなしにして亀の子タワシでこすった。小さな汚れさえ見落とさないように丁寧に丁寧に……。
次は鍋の焦げだ。
研磨剤で鍋の焦げをゴシゴシと磨くと、少しずつ元のキジが見えてきた。奮闘したおかげで、やがて鍋もヤカンも新品のようにステンレスの輝きを取り戻した。曇ったグラスや脂の附着した食器類は、塩素系漂白剤に浸けこんだ。
大体片付いた頃、窓外はどっぷりと闇の中にあった。点在していた灯りは密集し、壁にかけられた時計は午後の九時をさしている。台所に立ってからすでに三時間は経過したことになる。
急に空腹を感じた。そういえば、朝から何も口に入れてなかったのだ。
冷蔵庫の清掃は朝一番に取り掛かったので、何が入っているかは大体諳んじている。コーヒーと冷凍室にあったパンとハムで夕食を済ませれば良い。この食材すらいつのものか分からないけれど、冷凍にしてあるのだから多分、大丈夫だろう。
ひとつ息をつき、持参したコーヒーメーカーに豆を入れてミルを回す。香ばしい香りがあたりに充満し、澄んだ空気と交じり合った。
鍋を磨く時に力を入れすぎたのか、肩から首筋の筋肉が引きつっている。ゆっくりと首を回すとゴキっと音がした。でも、それが少しも不快ではなく、むしろ心地よい疲労となってわたしを満たしていた。
わたしは動くたびに舞い上がる埃が嫌いだし、飾り立てた部屋も好きではない。埃を拭いにくいインテリアは大嫌いだ。
ひたすらシンプルで埃のないことが、わたしの住まいとしての大前提なのである。
マンションの部屋中の埃は丁寧に拭い去ったので、到着した時の一種独特の臭いはどこにもない。姉が帰宅したら、きっと大仰に喜んで礼を言うに違いない。わたしは、ワクワクしながら姉の帰りを待った。
コーヒーメーカーがゴボゴボと音を立てて、出来上がりをつげた。
電子レンジでマグカップを暖め、たっぷりと注ぎ込む。
ブラックコーヒーを啜りながら、大きく息を吐いた。両手に包み込んだお気に入りのマグカップは、六年前の結婚記念日に買ったペアカップの片割れだった。彼のものは、数年前に縁が欠けたので捨ててしまった。
その片割れと今の自分とが重なる。じっとカップを見つめていると、急に当日過ごした箱根の夜のことを思い出した。ホテルのラウンジで、いつもより少し贅沢な時間を過ごし、永遠の愛を再確認した。
まるで昨日のことのように子細に浮かんで、一瞬わたしはうろたえた。同時に、人生はこんな風に思わぬ展開を強いるものなのかと、はからずも喉の奥がくぐもった音を立てた。
4LDKを一日かけて掃除することは、わたしにとって遣り甲斐のあるものだった。
単に姉を喜ばせたいという気持ちと、自分の過去にこびり付いてしまった汚れを、実際の汚れに乗せて削ぎ落としたいという願望のようなものが相俟って、ついつい力が入ってしまった。
しかし、過去は汚れとは違う。パソコンに入力したデータを消し去ることとも違う。
生きて来た人生にはそれなりの価値がある。
今回のことは、何かの行き違いや、ボタンの掛け違いから起きたことなのだと認識しなければいけない。
ただ、そういうやるせない思いを、汚れに託してゴシゴシと洗い流すことは可能な気がした。目の前の薄汚れた物体が、元の姿へと近づくことで、わたしの鬱々とした気持ちは切り替わっていった。いつしか新たな清々しさが、体内にもよみがえったのである。
これから先、どんな未来があるのだろう。
今までよりもっともっと素晴らしいと思えることがあるだろうか?
様々な思いが錯綜し、不安と焦燥を駆り立てる。
でも、人生はなるようにしかならないらしい。神は、その人が耐えうる苦悩しか与えられないという。そうであるならば、わたしには、これくらいがちょうど良いという事なのだろう。そう認識した方がたやすいことも分かってきた。
大きく、大きく息を吸い込むと、安らかなコーヒーの香りが鼻腔を通過してゆく。
ああ、こういう時間こそが、わたしの至福なのだ。
ゆっくり、のっそり過ごせば良い。
なんと言っても掃除が好きなのは、癖でありこの上もないわたしの癒しなのだ。
吸い込んだコーヒーの香りを、もう一度ふーっと吐き出す。
もう振り返ってはいられない。
わたしの新しい人生は、たった今から始まるのだから……。
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