ちびねこあおい物語
『はじまりは、雨…じゃなかった…。』
小さい頃(いや、正確には大学生になってからも)、私はしょっちゅう、
すてねこを拾ってきては、親に怒られていた。
(怒っても結局は飼っちゃうんだけどね、ねこ好きだから、母親も。)
怒られるのは分かっていても連れて帰らずにはいられない。
だって、雨だから。
そう、雨、公園、子猫の鳴き声。 これを素知らぬ顔で通り過ぎられるほど
強い人間には多分、一生なれないだろう。
そして、なぜか決まって、雨の日に捨て猫を発見してしまうのだ。
でも、この日は違っていた。
よく晴れた秋の日。
仕事場でもある、実家の駐車場に車を止めると、裏の公園から、
いかにも野良猫のドスのきいた鳴き声。
と、それに混じって、蚊の鳴くような心細げな子猫の声。
ン? なんか変だぞ。
ただ事ではないと直感した私は、声の主を探しに行った。
そこには、まだ生後2,3ヶ月の真っ白い小さな猫が震えながら、
ミーミー鳴いていた。
そしてその周りをいかにも悪役の大きなノラがウロウロ。
これはもう、アンパンマンか、浦島太郎にでもなった気分で子猫を救出。
子猫はしっかりと、小さい爪で私の肩にしがみついた。
そのまま連れて帰ったことは言うまでもない。
その子の震える顔を見ると、その日の空を映したような、透き通った、
あおい瞳だった。
「あんたの眼、ビー玉みたいね。」
これがあおいとの出会いだった。
『ネコの名前』
私が物心ついた頃から、我が家にはネコがいた。
家が米屋なのでおそらくねずみ対策だったのだろう。
三毛、ブチ、キジトラ…、いろんなネコがいたけど、名前は決まってチコかチビ。
母親が、思わず呼んじゃった呼び名。それがそのまま名前になっちゃうのである。
で、このねこ。
いつもなら「またそんなねこ拾ってきてっ!すぐ捨ててきなさいっ!」
って言われるはずなのに、この子はすぐにみんなに受け入れられた。
「かわいいわねえ。」
「この青い眼、きれい!」
「きっと、なんかいいねこの血が混じってんのよ。」
「こんなかわいいねこだれが捨てたのかしら。」
ってな感じ。ねこの世界もかわいいって得ね。
みんなが可愛がってくれる、勝手な呼び名で呼んで。
今度こそ、この子にぴったり合ったいい名前をつけなくちゃ。
そこへちょうど姪が遊びにきた。
「ねえ、Sちゃん、なんかいい名前ない?」
Sちゃんは軽く2秒で答えた。
「眼が青いから、”あおい”」
「そのまんまじゃん!」
「でもねえ、字は”葵”って書くんだよ。」
ふ~ん、葵かあ、ちょっとおしゃれかなあ。
「よし、おまえは今日からあおいだよ!」
「にゃあ~!?」
こいつ分かってんのか。