NARUTO-ナルト小話
私はハナビ。日向家宗家の次女。
姉上よりも強いのだと、父上は私に言う。
けれど……。
『白い花』(ヒナタとハナビ・姉妹もの・シリアス)
※ヒナタアカデミー卒業後、新米忍になりたての頃。
修業が終わり、顔を洗ったら、差し出された手ぬぐい。
お水できらきら光る視界の先には。
優しい姉上の笑顔があった。
「ありがとうございます。姉上」
姉上の、やわらかく白い手が、ふわりと私の頭をなでる。
「ここ、濡れちゃってるわ」
にっこり笑いながら、私の髪をふいてくれる姉上。
「修業、今日もよく頑張ったね。えらいね」
姉上の声はすきとおるように清らかで、そよ風のように心地よく。
「はい……。でも姉上のほうが――」
「いいのよハナビ。ありがとうね」
そうして私は、そっと姉上に抱きしめられた。
「あなたは、とても強い子で……とっても、すごい子だよ」
姉上……。
「あなたが生まれてきてくれて、よかった……」
私は……。
そのとき、姉上に伝えたかったことがある。
だけど、姉上の胸がとてもあたたかくて、いい匂いがして……。
もう少しそのままでいたかったから、だまっていたんだ。
父上は、私を宗家の跡継ぎにしようと必死で。ネジ兄さんは、姉上を見下した目をして。
どうして誰も気付かないんだろう。
自分自身でさえ気付いていない様子の姉上。
だからか姉上は、一見、まるでたんぽぽのわたげのように頼りなく。
そうだ。姉上にお花を差し上げよう。
きっと、喜んでくれる。
元気の足りない姉上が、少しでも明るく笑えるように。
そう思ったら、いてもたってもいられずに。もう夜も遅いというのに、私はこっそり外へ出た。
月の明かりが優しくそそがれる、水仙のお花。
白く、可憐で、姉上によく似合う。
私は、一本一本丁寧に摘んで、花束にしていった。
殺気……。
振り向いたときには、クナイが振り下ろされるのが見えたのに。
何故か手からぱらぱら落ちる白い花がただ悲しくて。
死ぬ、と分かったとき。姉上の笑顔が見えた気がした。
カキィン――
反射的に目をつむり、そして……。
一番に心地よい気配を感じ、そっと目を開ける。
「姉上……」
目の前には、水仙の花と同じくらい、白く清らかな姉上。
「ハナビ! だいじょうぶ!?」黒い刺客にクナイを向け、私に背を向けたまま、姉上は心配そうにたずねる。
「はっ、はい……」
答えた私の声は、震えていた。
体も硬直して、動かない。
「よかった」
姉上はそう言うと、黒い影と戦闘に入った。
だけど姉上のクナイはすぐにはじき飛ばされて。
私も姉上もかなわない敵なのだと、さとった。
影は再び私にクナイを向ける。
お願いだから
せめて足下の白い花だけは、踏みにじらないで
そうして私は覚悟を決めて目を閉じる。
一瞬後
抱きしめられた感触と、血しぶきの音――
「……姉上っ!!」
私をかばった姉上の肩から血がにじんでいくのが、薄暗い月明かりでも分かった。
「ハナビ、怪我はない?」
「姉上……」
「邪魔をするな……」
黒い影は、初めてうなるように声を発した。
どす黒い、重い声。
「オレが殺したいのは日向の跡取り娘だけだ。落ちこぼれのお前に用はない」
その言葉に、私は全身の血がたぎった。
「何だとっ!? 姉上は――」「そうか。落ちこぼれで一族にとって必要のないお前は、跡継ぎの妹を守るよう教育されているのだな」
姉上の、私を抱く力が強くなった。
違う、姉上は……姉上は……!
「私が落ちこぼれなのは認めるわ」
静かに、姉上は言った。
「それに、父上にいらない子って言われたのも本当よ」
姉上……。
「だけど私はハナビが宗家の跡取りだから守る訳じゃない……」
そうして姉上は私のことをしっかり抱きしめてくれて。
「ハナビは、私の大事な妹だから」
姉上は、逃げなさい、とささやくと私を突き放し。
「ハナビのためなら、私は死んでもいいの」
そう言った姉上は、確かに笑ってた。
優しく、穏やかな、慈愛に満ちた表情で。
その時誰かが遠くの道を通りかかって。
黒い影はちっと舌打ちして一瞬にして去り。
拍子抜けするほどあっけなく、危機はすぎていった。
「姉上っ!!」
ガクッと膝をつく姉上にかけより、私は急いで自分の袖を切り裂いて、姉上の肩に当てる。
「ごめんなさい姉上……。私が、こんな遅くに出かけたりしたから……。宗家の生まれは狙われやすいから気をつけるようにって言われていたのに……。姉上をこんな目に合わせてしまって……」
「私のことはいいのよハナビ。毎日修業で遊べないから、お外に出たかったんでしょう?」
姉上は痛みをこらえながら、ほほえんでくれる。
私は、姉上の傷が致命傷でないのを確認すると、姉上からはなれて。
ぱらぱらと落ちた、白い水仙の花を、一本一本拾った。
そうして出来た小さな花束を、姉上に渡す。
「これは、姉上に……」「ありがとう。……ハナビ?」
姉上は私を見て、驚いている。私の、涙を見て……。
「誰も気付いてないけれど……」
伝えたかった。
「私は知ってます……」
ずっと。
「姉上は……」
本当のことを。
「私よりもずっと強くて……」
私だけが知ってる。
「優しくて……」
真実を――
姉上は、驚いたあと、困ったように笑った。
「そんなことないわ。でも、ありがとう。ハナビ」
私は、張りつめていた糸が切れたように。
なんだか分からないものが一気にあふれ出して。
姉上に抱き付いて思い切り泣いた。
姉上が、大好きです。
姉上が私の姉上でいてくれて、うれしいです。
一番に言いたかった言葉は、涙にのまれて、言えなかった。
水仙の花は、姉上によく似合う。
お願いです。白い花を、もう誰も汚さないで。
その想いは涙となり、頬を伝って落ちた雫は、白い花にそっと染みこんでいった。
☆あとがき☆
一度書いてみたかったんです。この姉妹は仲良しなのが希望! ハナビが姉を慕っているのが希望です!
ハナビ『どうか姉上の強さを分かってあげてください』
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