バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

冷えたドイツ・ビールに出会った



   荷物自体は、あまり重く感じないのだが、歩き出すとずしりと重く肩に食い込んでくる。
 地図によって、およその方角は理解して、歩き出したのは良いが、途中地元の若者四五人に道を尋ねる。

       若者「かなり、遠いよ。」
       俺 「遠いの?」
       若者「Taxiに乗るか、バスで行ったほうが良いよ。」

   彼らの忠告を聞いて、Taxiに乗り込んだ。
 道は真っ直ぐで、一人15TL(300円)。
 目指すトプカピ・サライ前まで、Taxiだとそんなに時間は掛からなかった。
 しかし、歩けばこの荷物では、相当な時間が掛かるだろうなという距離だ。
 街のメイン・ストリートのようで、車の数も相当多く、なかなかの賑わいを見せている。

   Taxiを降りる。
 そこは、広場のようになっていて、周りには有名なブルー・モスクなどの寺院などが、独特の丸いドームを見せびらかせている。
 歩道には、木立に囲まれた野外カフェテラスもあって、のんびりとコーヒーを啜りながら、会話を楽しんでいる若い人で賑わっている。

   地図とか、絵葉書を売っている親父に聞く。

       俺 「この辺に、チープ・ホテルは無いのか?」
       親父「子供に、案内させるから、付いて行きなさい。」

   子供の後をついていく。
 パーク・ホテルに案内されて、部屋を見る。
 なかなか奇麗な部屋で、3人部屋のドミトリー。
 一人、20TL(400円)ということだったが、ロッカーの無い事にガッカリ。
 他を探す事にした。

   ここまで来て、荷物の心配をするなんてと、笑うやつが居るかも知れないが、日本に戻るまでは貴重な宝物だ。
 ここまでの苦労を、水の泡にしたくないというのが、今の心境なのだ。
 ”アジアを歩く”に書かれてある、”グンゴー・ホテル”を探し出すのに、それほど時間は掛からなかった。

   なるほど、旅人の聖書と言われている、”アジアを歩く”に書かれているホテルが、目の前にある。
 ロビーらしき所には、日本人らしき若者達が、イスを占領している様が目に飛び込んで来た。
 カウンターに行って、部屋を見せるように言うが、やはり愛想は良くない。
 同じ日本人に聞けと言って、部屋を見せようとしない。
 ロビーに居る日本人に聞いてみた。

       俺  「こんにちわ。ここに宿泊してるんですか?」
       日本人「そうですよ。」
       俺  「いくらですか?」
       日本人「ドミトリーで、一泊20TL(450円)ですよ。」
       俺  「・・・・・・。」
       日本人「シャワーは、10TL(225円)です。」
       俺  「・・・・・。」
       日本人「南京虫の居る部屋が、いくつかありますから注意すると良いですよ。」

                      *

   この辺には、なるほど沢山のホテルが林立しているが、どれもこれも値段の高いホテルばかりが目立つ。
 ホテルを何軒も探している時、懐かしい人と再会する事が出来た。
 エルズラムまで、バスの中で一緒になった、ヨルダンの青年で、向こうも俺を覚えていたらしく、すごく懐かしそうに喜んでくれた。

   彼は、エルズラムから一日早く、鉄道で発ったのだが、到着したのは今日との事。
 同じ日に出発したドイツ人は、”飛行機に乗る。”と言って別れたと言う。
 彼は自分の泊まっているホテルを紹介してくれたのだが、足元を見られたのか、彼よりも10TLも高い値を吹っかけられ、彼に交渉してもらうのだが、頑として受け付けないらしい。
 仕方なく、彼と別れて又、ホテルを探す為に歩き出した。

   結局落ち着いたホテルが、7軒目。
 ”グンゴー・ホテル”の裏の路地を入った所にある、”Sato・Hotel”だった。
 ”Sato”なんて書いてあるから、日本人が経営しているのかと思って聞いてみるが、日本人のSatoとは何の関係も無いとの事が判明。

                       *

   部屋に案内される。
 ベッドが三つあり、一人30TL(600円)。
 ちょっと高いが、ホット・シャワーも付いていて、、なかなか奇麗な部屋なので、割高感だがここに決める事にした。
 3階の7号室だ。
 壁一面にピンク地に白い模様の入った、壁紙が張ってある。
 白い天井に、大きな窓には、奇麗なカーテンが取り付けられている。

   ベッドのシーツ類も、黄色地にピンクの縞模様が入っていて、こんなにこざっぱりした奇麗な部屋は、ここまでの旅では初めてだろう。
 それほど気に入っている。
 趣味も良いし、明るくて気持ちのいいホテルだ。
 目を覚ました時、陽射しに照らされた部屋の様子が目に浮かんでくるようだ。
 もうすぐだ。
 目指すギリシャは、もう目の前だ。

                   *

   部屋に荷物を置いて、日本人の集まっている”グンゴー”で、どうしようもない情報を集めることにした。
 イランの”アミール・カビール・ホテル”と同じで、ここ”グンゴー”も相変わらず、日本人と毛唐の旅人が集まってきて居る。
 本で紹介されていて、有名なと言うことであれば、仕方がない事なのだが・・・。
 ちょっとましな野郎なら、他に宿を取って、情報収集だけの目的でここへ遊びに来るだろう。

   隣にあるブッディング・ショップも旅人で賑わっている。
 ここで食事をすることにした。
 ここはセルフ・サービスの店なので、食器を取って自分の食いたいものを、自由に取っていく。
 そして、最後のところで料金を支払うのだ。
 香川県のうどん店と一緒という訳だ。
 そして嬉しいことに、ビールが久しぶりに目に飛び込んで来た。

   今までは回教の国、酒は一切ダメ。
 旅人は許されるのだが、闇酒で値段も高くなり、飲んで見ようと言う気分になれなかったのが本音だ。
 もうギリシャに着いたも同然の、イスタンブールで冷えたビールを飲む。
 もう祝杯気分だ。
 ドイツビールだろう。
 美味い。
 喉に染み渡る。
 砂漠で喉が渇ききった頃を懐かしんで、冷えたビールを流し込む。

   今までの苦労が走馬灯のように駆け巡っていく。
 まさか・・・・・。
 まさか、この俺が、アジア横断を成し遂げようとしている。
 いや、九分九厘成し遂げたのだ。
 日本に残してきた、友人達が目に浮かぶようだ。

       俺「やったよ!俺。そんなに甘いもんじゃない!失敗して帰って来て欲しいとまで言われたけど、成し遂げたんだよ。」

   ビールの酔いもまわって、気持ちよくシュラフに潜り込む。
 まだ、南京虫が怖いのだ。
 達成感とはこういうものなのか。
 夢の中へ。


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