空はとんび

空はとんび

即興のしるし



警察署の前を過ぎた辺りから
ハンドルの向こう側がスクリーンになる
運転をしていたあたしは
もうひとつの世界からやってきたのかもしれない

地球の裏側の太陽は穏かに照りつけてくれるだろう
微笑みは愛する人の瞳の中に融けてゆき
別の心臓から流れる血流を感じながら
あたしはアンデスの山々を登りつめる

気がつくとスクリーンいっぱいに
トラックからこぼれ落ちる鉄柱の束が
あたしの喉元を狙って迫ってくる
コマ送りに映し出される映像の中で
もうひとりのあたしには
生きていてほしいと願う


第428作品 本当のこと 作:しるし (2006年03月06日 (月) 23時33分)

本当のことを知るのは恐ろしい
今立っている足もとが実は大蛇の背中だったり
太陽だと信じていたものが虎の目玉だったりする

本当のことを言おうか?
ワライカワセミがささやいてくる
いいえ、お願い言わないで
あたしは耳を塞いでいるのに
どんどん地表は口をあけ
真黒のマグマがどうどうと押し寄せてくる


第430作品 スケープゴート 作:しるし (2006年03月24日 (金) 00時11分)

むかしストレイシープとスケープゴートをまちがえていた
がらがらどんはトロルさえやっつけちまうツワモノ
生贄にされたって泣いてくれる奴なんていやしない

火あぶりの中を駆出して逃げて逃げてきたのに
どうしてまた奴らはおいらを見つけ出して
何度も悪魔に売り渡そうとするのだろう

燃盛る炎の隙間から野次馬の群に混じった羊の目を見た
密告したのはこいつだとぴんと来た
あいつは迷える子羊だから
だあれも本当のことを知らない

さあどうする?
がらがらどんでも涙を流すことだってある


第436作品 保留男 作:しるし (2006年04月23日 (日) 02時51分)

世の中には保留男というものがいる
それを知ったのが遅すぎた
賛成ならもちろんどんどん進めるし
反対ならほかをあたるまでだ
でも保留男は動かない
決め台詞は「考えてはいるんだ」

遠い昔は時が停まっていてもよかった
今はそんな時があったことすら疑わしい

保留男はこのごろ増えているんだって?
リトマス紙は2枚ないと識別できないな


第437作品 ぼくらは薄着で笑っちゃう 作:しるし (2006年04月25日 (火) 00時15分)

   夢かもしれない
   でもその夢を見ているのは
   君一人じゃない
   仲間がいるのさ

って歌ったのはもう四半世紀も前だった
空を見上げて星空をながめる
今このとき太陽がふり注ぐ場所で
同じ夢を見ている人がいることを
毎日願いながら生きている


第450作品 新しい息子 作:しるし (2006年10月23日 (月) 16時04分)

 そんなに傷つくのがこわいか
 鏡に写った痩せこけた裸体をさらすのが嫌か

 目の前にいるのは荒れ狂うヒグマでもなく
 飢えた目を輝かす狼でもない

 それでもお前は壁から目を反らす
 生まれてきて一度も立ち向かったことのない未来に
 今夜も背を向けて酒をあおる

 お前は行きたいのだろう
 あの悶々とした日々に
 あっさりと開かれた穴倉に
 息子にさえ股を開く女のもとへ



第453作品 信楽に行った 作:しるし (2006年12月27日 (水) 11時40分)

 たぶんそこは信楽という町なのだろう
 大きなおなかをしたタヌキが首をかしげて待っていたから

 タヌキは大きなおなかを揺らしながら
 お荷物をお持ちしましょうと喋った
 タヌキは手にしていたとっくりの束を放り投げ
 私の荷物を軽々ともちあげた

 人ごみの中を歩くタヌキと私
 たしか信楽にはこんなに人はいなかったはずだと
 どこかで思いながら

 気がつくと大きなおなかが私を押しつぶそうとしていた
 苦しいと私が言うと、タヌキはにっこりと微笑んだ
 タヌキのおなかは張りがあってちょうどいいクッション
 こんなに深い眠りについたのは久しぶりだ

 こんなにも懐かしいのはなぜ


第454作品 山寺の和尚さん 作:しるし (2007年01月08日 (月) 23時16分)

和尚さん、和尚さん、今夜のかんぶくろはやけに大きいね
それにぽんと蹴ったら、「にゃん」とは鳴かず
何やら「ぐえ」だの「ぎゃあ」だの梅図かずおの世界の声がする
なになに、あたしにも蹴らしてくれるって?
こいつは恩を仇で返すフトドキモノだから
体を痛めつけなきゃわからない

ぽんとけえりゃあ、ぐえっとなくう
ああ、ほんとだ、これは楽しい
で、鳴いているのは何なのさ
開けてみないほうがいいよって、そんなこと言われたら
開けてみたくなるのが人情ってなもんさ
いいじゃない、ちょっとだけ



第455作品 ぐろてすく 作:しるし (2007年01月22日 (月) 00時35分)

そこのあなた、ちょっとお聞きしますが
あなたはなぜそんなに醜いのに平気な顔をしていられるのですか

すみません、教えてください
あなたのその太った体を世間に晒すのは罪悪だとは思いませんか

この漢字も読めない!?
それでよく今まで生きてこれましたね
もっと賢い人のために限られた資源を活用するべきだとは思いませんか

お願いします
ほんとうに分からないのです
なぜそんなにも自信満々で生きていられるのかを
誰か教えてほしいのです
あなたよりは賢いはずだ
あの人よりは美しいはずだ
少なくともあいつよりは役に立っているはずだ

それなのになぜ
わたしの心はこんなにも膿んでいるのだろう

そこのあなた、教えてください


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